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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
番外編一
55/164

あの日あの時

「暇」

「黙れ」


 今日で何回目になるか分からないやり取りをあやとあさは繰り返す。


「だって暇じゃぁん。なんにも依頼が来ないんだもん」

「もんじゃない。そんなのいつも通りでしょうが」

「逆にしょっちゅうあった方がこの学校やばいからね」


 先輩組は置いておくとしてあやとやまは桜高の一年である。探偵部があるというのに平穏な日々を送るこの学校では暇以外の何物でも無いのだろう。


「しりとり」

「「「却下」」」


 全員に即否定されるとは思っていなかったあやは打ちひしがれた。


「でもまあ確かに暇よね」

「どうせ何も無いなら帰る?」


 帰ったら仕事が残っているが暇よりかはましである。


「よぉし帰ろ」

「待ちなさいあんた達」

「あ、社長」

「学校でそう呼ぶんじゃありません」


 ドアと向かい合っていたまさが気づかないとなると異能を使ったのだろうか。あや達が勝手に帰らないように。


「社長が来るなんて珍しい」

「顧問なのに」

「放っときなさい」


 里奈が印刷された一枚の紙を全員に見せる。


「依頼よ」

「えー今ぁ?」

「ぶーぶー言わない」


 帰る気満々だったあやの額を指で小突く。


「誰からですか?」

「さあね。私が最初に見つけたから隠してあるけど学校全体の問題よ」

「えー隠しちゃ駄目じゃもごもご」


 手を口に回して封じられる。


「で、その紙の内容は?」


 持っていたしんが読み上げる。


「愚かな教師共へ」

「厨二病」

「ツッコミは後」

「……私はお前達に苦しめられた。復讐をしてやる。来月行われる入学試験を取り壊しにしてやる。試験に来た奴らはきっとこの高校を悪く思うだろう。覚えておけ。以上」

「厨二病」

「あさその言葉好きなの?」


 そういう訳では無いらしい。あさは首を横に振った。


「全体的に痛い奴だなぁと思って。苦しめられたからって復讐したり入学試験を取り壊したりただの脳内イカれてる奴じゃ無いとできないと思って」

「あさもその胸で女だってほざいてるもんね」

「……」


 机の一部が手形に凹んだ。


「ストップストップ」

「こいつらモテんのになぁ」

「黙ってればね」


 どちらも入学初日に男子から目をつけられて入学初日にその性格で離れていかれるタイプである。

 まあ要するに黙っていれば可愛いという意味である。


「社長話続けて。でないとこいつ殺す」

「物騒な。まあそのつもりよ。まず試験期間はあなた達ならよくわかってるわよね。推薦入試はこの前終わったから二月の三日と四日。さあここから推測しなさい」

「急。あれでしょ? ずっと見張ってろって意味でしょ?」

「正解。どうせ用事無いでしょ」


 無いも何もあんたが作ってくれないんだろうという反論をすれば間違いなく拳骨が降りてきそうだった為言わないでおいた。


「でも私達犯人もわかってない状態だよ。ひよを連れていくの?」

「それは無理よ。あの子も試験期間で休みだけど朝早く起きれないじゃない」

「叩き起こす」

「あれを無理矢理起こして一日動けなくなるほど強烈(きょうれつ)な腹パン食らったの誰だよ」

「誰?」

「お前だよ!」


 要するにひよはそっとしておけ。ということである。


「大丈夫よ。ひよには代わりの仕事をしてもらうから」


 犯人探しだろうか。というかそれならやる前に捕まえてしまえばいいのにと思うかもしれないが未遂で捕まえても結局釈放がオチだろう。


「で、話は終わり? 帰っていい?」

「いいわよ」


 話が済めばそれで良かった里奈はあっさり面々を帰した。

 まあその後に依頼があった為完璧に休めた訳では無いが。




 試験当日。


「ああお腹痛い」

「何でひよを起こそうとした」


 今朝、面白半分でもう一度ひよを起こしに行こうとしたらまたパンチ――いや、それを待ち構えていたというのに何かを学習したのか今日は膝蹴りで腹を打たれた。


「もうひよの低血圧は嫌だ」

「仕方ないよ。AB型なんだから」

「関係あんの?」


 あやとあさのテンションは少し違う。

 それもそうだ。里奈に(理由を話されずに)早起きさせられて七時には部室に着いていたのだから。


「来ればわかるって言ってたけど何がわかるのかしら」

「さあ。八時に登校で八時半から試験開始だよね。それまで寝てていい?」

「駄目」


 里奈に早起きさせられた理由はもうまもなくわかった。


「「ピリピリピリピリピリピリピリピリピリピリ」」

「呪文か」


 あやあさコンビをやまが(はた)く。


「いやもうさぁ。五階から見ても校庭から来る男女達の緊張感半端ないよもう」

「ねー。社長の言ってた意味が分かったわ。こんな所で和気(わき)藹々(あいあい)してたら射殺されるわ」


 ある者は参考書を見ながら。友達と来ている者でも会話は殆ど無くブツブツと何やら唱えている。


「私達は気楽に受けられてたんだけどなぁ」

「そりゃあ社長が裏で手を回してたからでしょ」


 桜高は魔力が集まりやすい土地に立っていた為、異能者には持ってこいなのである。


「よーしそれではそろそろ本校舎に向かいますか」

「はいよー」


 事前に里奈が(事件のことは言わないで)学校に許可を取ってあった為静かにしていて受験生の気を散らさないのなら歩き回っていいことになった。

 無論試験を無事に終わらせることが彼らの役目なのだが。


「ひよの異能でも犯人は見つけられなかったけど何をしようと思っているかは大体読めるって言ってたよね」

「ああ。確か試験ギリギリに細工をした問題用紙が配られて。何故か内容は教えてくれなかったけどな」

「その後に殺気が(ただよ)ってたしあの子の嫌いなことが書いてあったんだと思う」


 因みにひよの一番嫌いなものと言えばは下品なものである。それが書かれていたのであろうか。


「試験問題を作ってる人って」

「基本的にここの教師とかじゃないかしら。だから教師じゃない人がいるとしたらマーキングしといた方がいいんじゃない?」


 そこは記憶の良い異能者である。教師の名前はわからなくても容貌(ようぼう)はバッチリ暗記している。


「試験って何階でやんだっけ」

「三階」

「じゃあ全員でそこ行こっか」


 作戦はこうだ。

 三階の教室は全部で十クラス。一クラスに入れる人数は三十人である為全て使わなければならないのだ。

 階段が三つ。逃げ道としてはこれくらいしか無いのでどんなに屈強(くっきょう)な男でも異能を使わず捕らえることのできるあさ・やま・しんがそこに付くことにした。

 残されたあやとまさはどうするかと言うと。


「試験監督はちゃんといるね」

「うん」


 何とか試験監督の名前と顔だけ覚えて一致させることを前提に見回りをした。


「朝っぱらから騒動を起こすなんて頭イカれてんじゃないの?」

「そうだね」


 いくら敵でも悪口を言わないまさが同意している。多分眠過ぎて思考力が(にぶ)っているのであろう。


「ねえまさ」

「ん?」

「ここの松井って人学校にいたっけ?」

「松井先生なら非常勤にいるけど」


 非常勤講師は余程のことが無い限りこういうことには参加しないはずだ。


「……」

「……」

「よし」

「うん」


 教室に入ってこようとする眼鏡の男を引きずる。


「な、何するんだ君達。試験の邪魔を……」

「試験の邪魔をしようとしてる奴って確かテストを変な物にしてるんだよね」


 男はビクリとした。

 指摘されたこともそうだろうが緋色という本来じゃ有り得ないような髪と目を持つあや。

 眠気が強すぎて目が据わっているまさに睨まれたらたじろぐのも無理ないだろう。


「ど、どうしてそれを」

「よし。まさ、全員呼んできて。私は社長に報告して新しい問題用紙持ってきてもらうから」

「了解」


 まさが一番近い階段に向かう。


「社長ー八組にいたからそこに来てー」

『はいはーい』


 あやは偽問題用紙を背中に隠して近くにいた教師に代理を頼んだ。


「さあ来てもらいますよ松井さん。異能者を見くびるんじゃない」


 ズルズルと旧校舎の五階まで引きずっていった。




 メリメリメリメリメリメリメリメリメリ!!


「凄い音してるからやめなさい。あさ、首(ねじ)れそうになってるわよ」


 他が尋問(じんもん)したりロープで拘束している中、暇になったため問題用紙を見たあさは無言で松井の頭を鷲掴み、力を加えていたのだ。今のはその音である。


「問題用紙に何が書いてあったの?」

「言っておくけど一人で見た方がいい」

「「「?」」」


 全員首を傾げながらも四枚あった問題用紙にそれぞれ目を通した。


 大問一、性行為の体位を三つ書きなさ――


「ぶっ!!」


 全部読み終わる前にあやが笑いをこらきれず吹き出した。


「笑いのツボなんてあった?」

「いや……こ、この顔でせ、性欲強……あははははは!!」


 ヒーヒー言いながらお腹を抱えて苦しそうに笑うあやの背をしんがさする。

 他にも男性の象徴を絵に表せだの口に象徴を含むやり方を何と言うのかだの思春期の羞恥(しゅうち)(しん)を削る問題ばかりだったが幸いあやの腹筋を崩壊させただけであった。


「社長どうすんのこれ?」

「とりあえず一セット作って後は全部燃やすわ。警察に証拠として持っていく。あや」

「ゼェゼェ……あ、あーい」


 呼吸ができなくなって過呼吸寸前まで来ていたあやが何とか戻ってくる。


「異能・燎原(りょうげん)()


 小さな火の玉を一枚に付け、それを全ての紙に燃え移るように被せる。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!?」

「はいはい今試験時間帯なので叫ばなーい」


 燃えカスとなったものをゴミ箱に入れて里奈は警察を呼ぶ。勿論異能特務課だ。




 松井は起訴され試験問題を全て音読させられた後、あやに記憶を奪われて恨みも試験も高校のことも全て忘れた。


「自分をいい大学に連れていかなかったことへの憎しみらしいね。学力からして無理だってのに」


 名目上試験の手伝いということになっていた探偵部は試験が完璧に終わる午後六時まで部室でのんびりと里奈の報告を待っていた。


()(ごう)()(とく)

(いん)()応報(おうほう)

悪因(あくいん)(あく)()

(さん)()(いん)()

「ちゃっかり四字熟語で対決しないでもらえませんか」


 因みに今のは全部同じ意味である。


「あ、社長から帰っていいメール来た」

「よし帰ろうか」

「しりとりしよう」

「リーシャン」

「終わったよね!?」


 あやの新たなる対処法を見つけたあさである。

 受験生も終わってホッとした者や結果が気になっている者で分かれている。

 下駄箱についてあやが何かに気づいた。


「あ、燃えカス忘れてた。ゴミ収集場にやってないや」

「行ってこい。五秒で戻ってこなかったら殺す」

「ボルトか私は!!」


 とは言えこんな寒い中待たすのも悪いので全速力で五階に上がりゴミ袋を収集所にぶち込む。

 急いで校門に行こうとすると誰かとぶつかった。


「わ!」


 桜高の制服では無いため受験生だろう。グラウンドに参考書が散らばっている。


「ああごめんなさい! 大事な参考書をぉぉ!!」

「え? いえ大丈夫です。こちらこそすみません。急いでて」


 百六十センチのあやには小学生に見えるくらいの身長しかない少女が参考書を拾いながら頭を下げる。


「桜高の生徒なんですか?」

「あ、うん」

「わ、私桜高が第一志望なんです!」

「へえそうなの? なら受かってまた会えるといいね」

「はい! あ、先輩の名前は」

「あやー!! おはぎにするわよ!!」

「どういう意味!? あ、ごめんね。それじゃあ健闘を祈る」


 あやはそのまま校門へ駆ける。あさに膝蹴りされそうなところを避けたらしんに激突した。


「……あや、さん」

「あ、やっと見つけた。もう迷わないでよ。校門あっちだよ?」


 少女の友達が迎えに来た。


「私」

「ん?」

「絶対ここの学校に行きたい」


 友達は少し驚いた後にっこり笑った。


「そうだね。紫」




 あやと紫が再開するのはもう少し後のお話。

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