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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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 開演五分前にもなって紫は未だ戻ってこない。里奈も軽くイラついてきた。


『お化け屋敷だと暗いから探すのに手間取ってるんじゃないの?』

「その場合は電気を()けていいのよ。応答も無いし」


 集まった時にマイクとイヤホンの点検はした。だから聞こえている筈なのだが。開演してからは出入り禁止になってしまう。


(教室はここの真上だし人はそんなに多くないし)

『社長』


 恐らく紫を探していただろうひよが急いで口を開く。


『金髪の少女に引きずられていますけどまさかそれって……』


 フェリス・ペルー!!


「ちっ!」


 完全に閉じて鍵を閉めている扉の方へ走る。


“これより演劇部の発表を始めます”


 アナウンスが鳴り照明が落とされた時だった。



 アアアアアアアアアアアア!!!!!!



 下から断末魔の叫びと共に幽霊――というのかは分からないが無数の人の影を()した魂が一斉に我先にと飛び出し人の体の中に入っていった。


「――! 戦闘準……び!?」


 力が抜けて膝から崩れ落ちていく。


「な、何が……」

『ハァイ初めまして異能探偵の皆さーん!!』


 幽霊が勢いを増す中、軽快な声が学校中に響いた。


『魔姫様から奴隷売買を任されているマフィア幹部が一人。アイラ・ナールです!』


 アイラ――Aira──A


「やっぱりAはマフィアだったか……」


 心臓を苦しそうに抑えながら里奈が言う。


『その通り〜あ、イヤホンで聞けてるよ〜。なんたってあなた達のたぁいせつな破壊神様は後ろでおねんねしてるもの!』


 やはり寄越すべきでは無かった。そう考えても後の祭りだ。


『本当は私の仕事は破壊神を連れてくることだけどぉ……それだけじゃ面白くないしちょっとゲームしましょう! 今皆息苦しいでしょ? それは私があなた達の()を掴んでいるから。異能者って不思議なことに幽霊には取り憑かれないの。だからぁ』


 取り憑かれた非異能者が不意に襲いかかってきた。


『私の可愛いお人形と遊んであげて? 勿論学校中全ての非異能者相手よ。フフ。その辛い身体での状態でどれだけ耐えられるかなぁ〜? 異能……』


 アイラが舌なめずりをする。


『necrophilia(ネクロフィリア)!!』


 人形のように人間が異能者に襲いかかってきた。




「あーあ。どうして学校にはカメラが無いのかしら。折角のお遊戯(・・・)が見れないじゃない。ねえそう思わないフェリス?」


 フェリスは黙ったまま答えず目を逸らす。英語でないとわからないというより答えるのを拒んでいるようだった。


「……無視? へえ〜いい度胸じゃない」


 アイラはフェリスに近づき膝で腹を蹴った。


「ウ……ッ!!」

「あら声出るじゃない。どうして答えなかったの? 罰を与えなきゃいけないわねえ?」


 (うずくま)ったフェリスの体を殴り、蹴り、悲鳴をあげるフェリスをアイラは(よろこ)びの目で見下ろす。


「そうそう。もぉーっと()きなさい!」

「ヤメ……テ。イタイ……イタイ!!」

「誰に向かってそんな口を叩いているのかしら?」


 仰向けになったフェリスの(あばら)を折るようにアイラは右足を乗せ体重をかける。


「アヴ……」

「お許しくださいアイラ様。でしょ? 可愛がってやってるのに無礼な玩具。こんなことしたら普通処刑よ」


 足を離し、今度は前髪を引いた。涙や鼻血でフェリスの顔はグショグショだ。


「モウ……」

「んー?」

「モウシ……ワ、ケ……ゴザイマセン……オユルシ、クダサイ……アイラサマ」


 アイラは優越(ゆうえつ)(ひた)っているようだった。


「ああ本当に可愛いわ。正直でこんなに官能を刺激してくる奴隷(・・)は初めてよ。私の可愛い玩具(フェリス)


 お気に入りの人形を抱くようにアイラはシャツが汚れるのも気にせず撫で回した。


「フェリス〜ああ破壊神なんてどうでもいいわ。さっさと市場に売っちゃいましょうか。行くわよぉ」


 どこから出したのかピンク色の首輪をフェリスに付ける。鎖がシャラシャラ鳴る。


「……ハイ」


 ――タスケテ、ユカリ


 その声が届くことは無かった。




「殴っても殴ってもキリが無いじゃない。一体何人いんのよここ」


 憑かれていても生身の人間。銃など使ってしまうと死んでしまう。

 意識を失えば魂は(アイラ)の元へ戻っていっているらしいがまだ百何人といっていないだろう。

 体力的にも限界が近いし複数人を一度に相手するから傷もそう浅くない。


 今思えばAがマフィアだと思った時点でネックレスはカムフラージュなのだと気づくべきだった。

 部下は命令無しには動かないし、魔姫は宝石など眼中にも入らない女なのだ。きっと今頭にあるのは紫のことだけだろう。


(目的は破壊神だけ。まさかこう来るとは思ってなかったわ。アイラ・ナールが考えたんでしょうね。魔姫はこんな回りくどいことしないもの)


 全校生徒が約六百三十、教師が約五十。来場者も考えると敵は千を超すだろう。


「どうすれば」

「あやの炎で魂だけ燃やすのは?」

「憑いてるのなら本人も一緒にされてしまうんじゃないかな」

「じゃあ炎で一箇所に集まらせるとかどうだ?」

「それはゾンビの話ですわ。いえまず効きますかね」

「じゃあ炎で……」

「君達どうして私だけに負担させようとしてんの?」

「「「体力的に限界だから」」」

「そこまで喋ってんなら大丈夫でしょうよ」


 若者共――里奈も充分若いが――にツッコんでから(しばら)く様子を見る。


(想定外だったわ。錬もいないし……)


 正直に言えば里奈には策があった。それも異能で人を殺さず一気に戦闘不能にすることができる。

 だがそれを選べばマフィアに大きく弱点を(さら)すことにもなる。


「……」


 この選択次第で吉か凶かが決まる。だが紫を助けるのが一歩でも遅ければ最終的には――。


(その後のことは……また考えればいい)


 里奈は真由美の陰に隠れて携帯の通話ボタンを押した。

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