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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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張り巡らされた罠には充分ご注意を

「来ちゃった」

「来ちゃいましたね」


 結局何の手がかりも無いまま文化祭は二日目に突入してしまった。


「今日は外部公開だから倍以上人が来るね。幸い皆演劇部が発表するまでにシフトは入ってないわけだし二人一組で行動しよう。ゆかはしんとね」

「了解」


 演劇をやる体育館。直前までネックレスが保管されてある校長室。

 どちらも二階にあり、双方共位置は近い。

 怪しまれないように一階と二階で順番に巡回することにした。


「そういえばしんは間近でネックレスを見たことあるんですよね。どうでした?」

「どうって……やっぱりそこら辺にある作り物よりよっぽど光沢があって大半の人が身につけるのを最初は(はばか)られる感じだった。それに……」

「それに?」

「いや、何でも無い。それより今はこっちに注意しよう」


 言う必要は無い。というよりそれを言って紫が少しでもパニックを起こさないようにするためだ。


 “破壊神の目と同じ色”


 なんて言ったら紫の反応は目に見えている。


『あーあー。聞こえてる皆?』


 小型化して一瞬見ただけでは分からない程のイヤホンとマイクを全員――里奈達にも――装着しておりスイッチを押せば流せるようになっている。

 今のは里奈の声だろう。


『劇が始まるのは昼休憩が終わった午後一時。今から三時間後。あなた達はもう作戦を決めてるのね。真由美とひよは体育館に待機。ひよ、人がたくさんいるけど平気かしら?』

『はい。文化祭ですのでそうそう気味の悪い心の持ち主はおりません』


 ――気味の悪い?


『そう。じゃあ頼んだわよ。ネックレスを守ることもそうだけど第一は首謀者(しゅぼうしゃ)を捕え今年の文化祭を平穏に終わらせること。以上。作戦開始!』


 里奈の合図で作戦は決行された。


(ヒントも無しに気配だけで犯人を捕らえるなんて簡単じゃないし。でも確実にAも内通者もここにいる)


 内通者は生徒だと考えて良いだろう。

 仮にAが犯人だとすればひよには全てお見通しだが、その場合劇の最中に明かされてしまい少なくとも平穏には終わらなくなってしまう。


「もしかしたら犯人は直前まで現れないかもしれない。ゆか、あまり気配を出さないで……」

「ユカリ!!」


 運が良いのか悪いのかフェリスに見つかってしまった。


「キョウオバケチガウ?」

「あ、うん……部活でね」

「ツイテク!」

「え?!」


 ついてく――ついて行くと言ってるのだろう。だが今日は一緒にいたら本当にまずい。

 フェリスが本当に敵では無くて友達として一緒にいたいとしてもだ。


「ダメ?」

「ごめんね……今日は」

「ジャマナイ。イッショイルダケ」


 それでもフェリスは(なお)食い下がってくる。


「ユカリー」

「で、でも……」

「ゆか」


 様子を見ていたしんが不意に紫の腕を引っ張る。


「すいませんしん。私断るの苦手で」

「フェリスさん。彼女は今日は一緒にいられない」

「?」

「駄目だ」


 しんが首を横に振るとフェリスがしょんぼりと顔を俯かせた。


「ウン。ゴメンネユカリ」

「あ、いやその」


 フェリスは踵をかえして人混みに紛れてしまった。


「可哀想だけどこれは仕事だからね。彼女には疑惑もかけているし」

「……はい」


 紫はフェリスの悲しそうな顔を思い出して申し訳なく思った。


(もしフェリスが犯人じゃないなら……ううん犯人であっても謝って一緒に遊びに行こう。折角出会えたんだもん。友達になりたい)


 その為にもまずは解決しないと。




 二時間後校舎内を(いく)()と無く巡回(じゅんかい)したが結局気配は感じられなかった。

 流石にそろそろ休憩した方がいいということで部室に集合した。


「演劇部が始まる十五分前に扉が開くそうだから今度は全員そこに行くわ。体育館は広いしどこに来ても捕まえられるように一人になりましょう。ひよと真由美は一緒にいてね」


 二階にあるスタンド席は大抵立ち入り禁止だが今回は許可をもらった。

 二階に四人。一階にひよと真由美を合わせて五人。四方向に対応できるよう配置を決めた。


「どんな手立てで来ようともネックレスを奪わせないこと。そして文化祭を無事に終わらせること。これは私達の仕事よ。必ず遂行(すいこう)し犯人に打ち勝つこと!」

「了解!」


 ――昼も過ぎ開演十五分前になった頃。


 《紫ごめん! ちょっとトラブった。クラス来て》


(今から!?)

「社長どうしましょう」

「……実行委員もいる上で助けを求めているのなら仕方ないわね。最低でも開演五分前には戻ってきなさい」

「はい!」


 人にぶつからないように三階へ急ぐ。


「トラブったってどうしたの?」

「え? 別にどうも無いけど」


 受付にいた子に聞いてみたが彼女は何を言っているかわからないと言った顔だ。


「だって今佳穂からメールが……」

「ユカリ」


 手首を掴まれてそのまま隣にある放送室へ連れていかれる。


「フェリス!? 何して……んぐ!」


 腕で口を押さえつけられる。バタバタともがいても背の高いフェリスには敵わない。

 紫の目に映ったのは何の表情もたたえていないフェリスと十三時にもうすぐ届いてしまいそうな長針。


 それともう一つ奥の部屋にはフェリスと同じ金髪碧眼の勝ち誇った笑みを浮かべた一人の女性。


「イッツショウターイム」


 気が遠くなっていく中、指を鳴らす音が聞こえた。

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