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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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Aの正体は?

「で、そっちは何か進展(しんてん)あった?」


 先に戻っていた校長室組は何やら書類を見ていた。


「普通にネックレスは盗れなかったけど有力情報はゲットした」


 校長室にある無数のファイルの中から探し出してきたのだ――躊躇(ためら)いなく部屋を(あさ)る三人に里奈は軽く引いていた。


「ネックレス……っていうより当初はただの石だったみたいよ」

「どういうこと?」


 桜高が創立した明治十五年。


 外国との貿易が盛んになった時、創立者と友好であった外国の貿易商がお祝いとしてガーネットの原石をくれたのだ。

 しかし当時は光沢もなくただの岩石だったガーネットを友人である情けの為に捨てなかったようなもので価値など(かい)()だった。

 その価値が(あら)わになったのはそれから何十年か後。

 ある一人の娘が校舎に来て、偶然ガーネットの原石を見つけた。


『これをお借りしても良いですか? そうすれば私がもっと美しくしてさしあげます』


 彼女が何を言っているのか理解できなかったが面白半分に貸してみた。石ころだと思っていたことのせいである。

 三日後。娘が持ってきたのは岩石などでは無かった。


『お約束通り美しくしてあげて来ましたよ』


 半径十センチはあったであろう岩石は(わず)か直径三センチの光沢がある深紅色のネックレスに変化していた。


『これが本当の姿です。やすりで削っていたらこれくらいの大きさになってしまいましたが。これは厳重警備の元で保管してくださいね』

『何故』

『これは魔を呼び込む道具でございます。決して……には見せないように』


 決して誰に見せないようにするのか――それを聞いた創立者本人でさえ覚えていないのである。

 その後、この石が忘れ去ることのないように特別な時は演劇で使うことにした。

 だがその娘の言った“魔”は未だ現れたことは無い。




「……魔?」

「魔」


 首を傾げる紫にあさが答える。


「この娘っていう子の名前も素性も明らかじゃないの?」

「探してみたけど詳細は不明。まあやすりをかけて宝石にしたってだけで後は変なことを言う子としか思われなかったんだろうね」

「謎が謎を呼んだってことだね」


 魔を呼び込むということは異能者のことであると予想しても間違いでは無いだろう。

 ただそれでも近くで見ても何ら変わらなかったことを考えると特定の人物のみのことを娘は言っていたのであろう。


「もう百年以上経ってるから曖昧だね。しかもこれ尾ひれが付いてる可能性だって無いわけじゃないし」

「そもそもAさんはどうしてこれを大事だと考えたんでしょう?」

「宝石だからじゃないの」

「そりゃそうですけどもし宝石だけが理由なら何もわざわざ先生に聞いてしまったことを秘密にしてまで探偵部に頼みますかね。偶然聞いてしまったのは本人のせいじゃ無いですし言えば怒られないと思うんですけど。この学校にもう一人社長の知らない気配がするって言ってたし」

「つまり?」

「Aさんって異能者じゃないでしょうか」




「Aは異能者。この人も宝石を異能と関連していると思ってそれが外に出たらまずいと考えている……と思ったわけねあなた達は」

「どっちかっていうとゆかがだけど」


 里奈は考える素振りを見せた。


根拠(こんきょ)は無いけど一番有力な情報と言ったら今はそれよね」

「ねえ里奈。その脅迫状って今どこにあるの? 内密(ないみつ)ってことは警察には出してないんでしょ?」

「ええ。(きょう)(はく)(じょう)というより貼り紙が校長室の前に」


 写真を撮っていたようでカメラを皆に見せる。


 “文化祭二日目にガーネットはいただく”


 ただそれだけが書いてある。


「これだけ?」

「そう。しかもパソコンで書いてるから筆跡(ひっせき)もわからない。だから行き詰まってるのよ」

「もういっそのこと言っちゃえばいいのに。そんな大袈裟に騒ぎ立てる奴なんて目立ちたいだけでしょ」

「まあそれでも学校側としては公に知らせたくないのよ。異能なら尚更」


 あさは名字と名前にAが付く生徒全員を片っ端から抜いて行った。


「全校生徒が六百三十人。その内Aがつく人は合わせて百四十人。勿論私とあやを抜いてね」

「結構多くない?」

「名前も入れてるからね」


 自覚をした程の魔力であるならばもしかすると探偵部の秘密をもう知ってるかもしれない。

 それでいて申し出ないということは――。


「マフィア? そうだとしたらなんでわざわざこっちに依頼するのよ」

「異能者全員が探偵社とマフィアにいるわけじゃないわ。普通の暮らしをしている者もいるわけだし」


 書類を眺めながら詮索(せんさく)しているひよが(おもむ)ろに口を開く。


「自覚があるないでは無くて校舎に来たからという考えはどうでしょう。留学生の……」

「フェリス? 彼女の名前には一文字もAなんて入ってないよ」

「何も自分の文字を取り出さなくてもいいと思います。この手紙を片言で話す方が書いたとは思わせない為の口実とか」


 そう考えてしまうと(らち)が明かなくなってくる。


 紫とひよの説明を合わせれば尚更その筋が通ってしまうが。


「じゃあどうやって彼女に説明するか。一番有力だって言っても百パーそれが本当だとは言い切れないし」

「様子を見てみる他無いってことね」


 フェリスに焦点を合わせて監視することを目的とすることにした。

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