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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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握られた手を離さずに

盗難(とうなん)予告……確かに今日の会議は主にそれだったわね」


 探偵社に帰ってきた里奈に事情を説明する。


「やっぱり。ひよ、何か見えた?」

「いえ、特には。いつ誰が書いたのかは見えませんでした」


 額の刺青(いれずみ)を戻しながらひよは言う。他にも阿修羅に見てもらったがわからず終いだ。


「そもそも本当にネックレスはあるんですか?」

「ええ。それは本当よ。と言ってもそれが使われたのは創立してから両手の指にも達しないくらいだけど。いつもは校長室に飾ってあるわ」

「やっぱ宝石目当てでネックレスを奪いに来たのかな」

「それなら何も学校にあるかもわからない石より専門の店で盗むと思うわ。もっとここのガーネットでなければいけないとか?」

「だろうね。そこから調べなきゃいけないか」


 文化祭は二十日と二十一日。その前に犯人を見つけ、事を終わらせなければならない。


「このAって人に返信したいけどこっちからは到底(とうてい)不可能だし。まずこれっていたずらじゃないのかってところからか」


 Aの正体にこの依頼の(しん)()

 もし本当だとして目的は?

 謎が更に謎を呼び込む。


「とにかく明日宝石を借りに行ってくるわ。宝石を見ればひよにも何か見えてくるだろうし」

「どうやって借りに行くのさ」

「異能」


 里奈は自らの(かい)(ちゅう)()(けい)をちらつかせた。




「それではうちのクラスはお化け屋敷に決まりました」


 代表委員がそう告げ、クラスメイトがまばらに拍手する。


「やったねひいちゃん。第一希望が通ったよ」

「あ、う、うんソウダネー」

(やばい。こっちのことすっかり忘れてた)


 限りなく時間が少ないと言うのに更にシフトや準備で忙しいお化け屋敷などで部活に行ける時間も縮んでしまう。


(部活が忙しくない人は強制的に準備で残されちゃうし。だからと言って事情も話せないし)

「柊さん」


 里奈が封筒(ふうとう)を紫に手渡した。中には小さな字で


 《探偵部で見なさい》


 と書かれている紙と写真が入っていた。

 里奈はいつもの通り笑みを浮かべているがその目は“教師”とはまた違った意味が込められている。


「……というわけで時間も無いので明日から残ってください。以上です」


 他に連絡も無かった為、それで下校になった。


(早く知らせないと……)

「ユカリ!」

「へ?」


 急いで教室を出た紫にフェリスが抱きついてきた。


「ちょ、あ、あの急いでるから……どいてフェリス」

「コンニチハユカリ! ワタシチョトダケJapaneseオボエタ」


 ちょっとどころか大分上達しているが今はそれに構っている暇は無い。


「フ、フェリスごめんね。私行かないと」

「Where? ワタシイク!」

「え!? い、いやそれは……」


 日本語がわからないにしてもモロに聞かせてしまってはまずい。


(早く行かないといけないのに。どうしよう)

「何してんのゆか」


 呼ばれて後ろを見るとあさの姿があった。

 桜高では一年が三階、二年が四階、三年が二階と配置されており、教室しか無い三階に先輩が来ることは滅多に無い。

 それだけでも目立つが更に探偵部員で外国人譲りの体型――胸は置いといて――で生徒達の視線を集めている。


「中々部活に来ないから何かと思えば」

「Who?」

「先輩……え、エルダー?」


 あさはフェリスを(にら)んで――本人的にはそのつもりは無いがつり目のせいで勘違いされてしまうらしい――紫と引き離した。


「あ、じ、じゃあねフェリス。バイバイ」

「Uh……Bye」


 フェリスは少し残念そうに紫を見ていた。


「あさ。ちょっと痛いです」


 能力を使っていなくても力の強いあさに手首を掴まれて軽くあざができている。

 そんなもの一分もかからずに治るが。


「あ、ごめん」


 手首からは離されたが手を握られた。何だか震えているような――。


「あさ?」

「……ごめん。ごめんねゆか」


 あさの目には少なからず恐怖の念が映っている。


「金髪を見ると思い出しちゃうの。故郷を」

「……っ」


 フェリスのように金色の髪と青の目を持った母に虐待されたトラウマがあさには残っているのだろう。

 忘れろという方が無理な話だ。


「……ません」

「え?」

「あさは化け物じゃありません。あさはあさです。力が強くて獅子の憑依者で猫目で背も高くてなのに胸は小さくていたたたたた!」

「あんたには言われたくないわねぇ?」


 ミシミシとあさは紫の頭を掴む。


「ごめんなさぁい……」

「ふふ。ありがとゆか」


 クスクス笑うあさを紫は手を握りながら見つめていた。

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