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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
43/164

新学期

 長いようで短かった夏休みも終わり、残暑も厳しいまま桜高は二学期を迎えた。


「いや〜制服も久しぶりだね〜。全然新鮮感無いけど」

「高二で新鮮感味わえって方が無理だからな」


 探偵社にいる内の半分以上が桜高に通っているという事実上は見ればわかるだろう。


「夏休み明けってラッシュがキツくなるから嫌いなのよ」

「ああ。女子は痴漢とかもあるだろうから」

「違う。夏服のせいで女どもの胸が強調されんだよ。通行の邪魔になるんだよもげろ」

「あのこっち見ないでもらえませんかこころさん?」


 あやより背の高いあさはコンタクトを入れていないその浅葱色の目でたっぷりとあやを睨んだ。


「えーっと上履き成績表計画表……後は」

「生徒手帳。忘れないで」


 まさが自分のを目の前に持ってくる。

 生徒手帳は別に持ち物欄には無いがどちらかと言うとその中に入っている身分証明書が仕事上必要になるのだ。

 紫はいつも肌身離さず持ち歩いているが今日に限っては机に置きっぱなしにしていたのを思い出した。


「また皆いなくなっちゃうのね。平日はあまり仕事も来ないし寂しくなるなあ」

「錬がいるじゃん」

「どっか行っちゃった」

「また!?」


 真由美曰く数日前に「乙女が私を呼んでいる!」と言って止める暇なく飛び出してしまったそうな。ちゃんと帰っては来るそうだがそれがいつかはわからない。

 錬の性格はともかく、どんな異能なのかも知らない紫にとってはまだ掴めない人物だ。


(そういえばまだ最後の一人がいないけど何してるんだろう)

「社長はどうされたんですか?」


 ここから徒歩で通える場所に登校しているひよは制服を着てるにせよ身だしなみは整えていない状態だ。今までは無意識にでも心を読んでいたが自らの手で百目を底に眠らせて以来、望まない限り見えることはないそう。

 今も見る必要は無いと思っているのか答えを待っている。


「里奈なら職員会議だとかで私が起きる前に出てったよ」

「から姉早起きなのにそれ以上って社長辛いだろうな」

「他人事だねやま」

「他人事だからな」


 紫が部屋から戻ってきたのを境に学校へ向かった。




「おはよう紫」

「お、おはようひなみ」


 夏休み中は一度も会わなかった――元よりマフィアと探偵社として所属していて遊ぼうなどとは思わないが――ひなみが寄ってくる。


「久し振り。この前は茜と当道がお世話になったようね」

「……っ」


 そうだ。ひなみと関わりは無くてもマフィア自体とは戦闘をしていたのだ。


「私達から吹っかけた訳じゃ無いわ。非があるとしたらそっちじゃないの」

「まあね。そうだ、一つだけ忠告してあげる。そのお詫びとして」

「?」

「これからは一人で行動しないことをおすすめするわ。探偵社的にも紫自身にも」

「……どういう意味?」

「さあ。とにかく言ってあげたからね」


 意地悪に笑うとひなみは席に戻ってしまった。


(一人で行動するな? また襲撃されるってこと?)


 紫の頭では理解できなかった。




 始業式が始まり、少し経った頃。


「今学期から一年に留学生がやって来ます」


 一年と言っても紫達のクラスでは無く英語科の教科が担任している隣のクラスに来るのだ。

 舞台に出てきた留学生は長い金髪を二つに(ゆわ)き、ハーフのあさとは違った空のように青い目と形の良い鼻と唇。日本人とはまた違ったモデルのような美しい女性だ。


「スイスから来たフェリス・ペルーさんです。日本語はまだ習ったばかりなので気軽に話しかけてあげてください」


 それからフェリス自身が自己紹介し――片言だが内容は理解できるくらいだ――それで会がお開きになった。




「それでは式でもあった通り三組に留学生が来ました。このクラスでも英語を一緒に受けると思うからその時は仲良くしてください。明日からは通常授業です。宿題は忘れないで」


 以上解散。と里奈が号令をかけさせ下校になった。


「そうだ。柊さん来て」

「はい。何ですか先生」


 紫は早足で近づく。


「教材を運ぶのを手伝って欲しいの」


 手伝う――。


「わかりました」


 紫と里奈の間で“手伝う”という言葉が出た場合、仕事関係で話したいことがあるという暗示なのだ。

 二人は人気の少ない教科準備室へ向かう。


「それでどうされたんですか社長?」

「気配があったの。探偵社でも無く、新上ひなみの珠でもなく別の」


 紫には感じ取れないが里奈には異能者一人一人特有の珠の気が分かるのだそう。


「マフィア……でしょうか」

「それはわからないわ。だけどこんなに気が強いということは本人も自覚しているということ。()(かつ)に行動すれば危険でしょう。あや達にも伝えておいてちょうだい」


 あ、でも。と里奈は続ける。


「“くれぐれも”そういう感じだったら伝えに来ること。いい? く・れ・ぐ・れ・も」

「……はい」

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