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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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悪夢を終結させるために

「その後を俺達は知らないが、おそらくその探偵社に引き取られたのだろう。いくらあんな殺傷能力があろうと少女一人が生き延びられる程世の中は甘くない」

「……はい」


 百目という妖を知ったのは探偵社に入ってからだ。他にも真由美が阿修羅という妖――この場合は鬼だが――を所持しているがつい最近こんなことを聞いた。


『異能者に憑く妖は人好きだと言われていて戦力にもなる。しかし当事者が負のオーラを高めるとその者を守ろうとする力が強くなり意思の権限を代える』


 この場合、負のオーラは憎しみ。

 ひよを――非力な日和を守ろうと百目は外に飛び出した。


「俺達はお嬢様が元に戻れるように……本来のご両親の元へ帰したい」


 勿論紫もそのつもりだ。きっと里奈もひよを家に帰したかったに違いない。だが住所も覚えていないのにどう帰せと言う?


「ひよちゃんを家に帰す。それは彼女の仲間としても遂行しますけど。どう潜入しろと? 有能な護衛なら私が抜け出したってすぐにわかってしまうんじゃ」

「大丈夫だ。既に手は打ってある。後はあんたの了承さえあれば良かったんだ。それなら」

「はい!」


 二日後の生誕祭。これで和田家の悪夢を終わらせる。




 余談だが里奈は小柄で童顔な容姿である。

 高校生。稀に中学生とさえ見間違われてしまう程――その後、殺気を(ただよ)わせるため近づくと殺される。


 何故急にその話を出したのか。それは真由美がその正反対(・・・)だからである。


「じゃああさ。少しだけウィッグ借りてくわよ」

「……ええ」


 にっこりと笑う真由美をあさはジロジロと舐めるように見る。


「何で私の周りには発育のいい女が現れんのよ」

「ひよとかゆかじゃ駄目なの?」

「巨乳は黙れ! ひよは成長期来てないでしょうが!」

「ゆかはもう来てるんじゃねえの?」

「「男は黙れ!!」」


 あさとあやは口を揃えて言う。紫のバストは――いや、言う必要もない。


「急にどうしたのよあなた達。私もあまり時間が無いから喧嘩は後で……」

「「あんたが原因だから姉!!」


 「え?」と自覚の無い真由美は首を傾げる。先ほどからなんの話をしているのか。


 あっという間に二日が経ち、いつもTシャツジーパンの真由美をそのまま行かせるのは不味いという訳で丈の長いワンピースを着せたのだが――。

 鬼特有というかなんと言うか元々彼女の身長は百八十を超えており、胸は大きく腹は細く足はすらっと細長い。さながらボンキュッボンのモデル体型というわけである。


「あの肉が全部腹に行けば良いのに。何であんなキツキツなのよ」

「そりゃあさのワンピースだから」

「まさ。しー!」


 しんがまさの口を閉ざす。もう少し口が滑っていたらきっとあさにボコボコにされていただろう。


「真由美。そろそろ時間」


 里奈が懐中時計を見て言う。


「あらもう? それじゃあ行こうねあや」

「異能使わないってのは」

「駄目」

「……はい」


 あやは肩を落としながら真由美の後をついて行った。




「もう一度聞きますよ萌乃さん。本当に付いて来るんですね?」


 駅に着いて待っていた萌乃に真由美は厳しく問い詰める。


「私もあやも万が一があろうと自分を守れます。捕らわれている紫も。けれどあなたはそういう(すべ)を持っていないでしょう」


 異能を使えないで戦場に行くなんて足でまといだ。

 真由美はそう吐き捨てた。文字通り鬼の心を持った真由美は自らの身も守れない者――それがいくら非力な娘であろうとも――を連れていくのは嫌うのだ。


(こんな性格をゆかが知ったらショックだろうな。異能を使いこなせてないからとか何とか言いそう)


 あやは離れた所から一人苦笑していた。

 マフィアだと思いあや達が紫を問い詰めた時、先輩という概念関係なく言い返したあの事は真由美にとって言えば己の身をかばったと解釈して第一印象から気に入っているそう。

 あやにとっては爆笑されたからいい思い出では無いが。


「元よりお嬢様が家を出てクビになった時に二度と会えないと思っていました。それでもまたこうして再開できて。私は今でもお嬢様のメイドです。お守りすることが私の仕事です」


 しばし睨み合った後、真由美の方が先に折れた。


「……わかりました。ただし私達から離れないことを前提に」

「はい」


 二人の後を続いてあやも向かう。


(ゆかが無事でいるといいんだけど)




 見慣れている萌乃と動じない真由美は置いておき、一般人のあやはその屋敷に目を奪われた。


「日本じゃないよね?」

「日本よあや」


 真由美に頬をつままれて正気に戻る。


「とにかく入る所から始めないとね。阿修羅」

『はーい!』


 真由美の頭に可愛らしく乗った阿修羅は夜なのに眩しい程光っている屋敷を見て驚いた。


「阿修羅。ここに潜入したいの。三人。できる?」

『できる!』

「そう。じゃあ二人とも少し近づいて」

「はーい」

「?」


 きょとんとする萌乃を引きずってあやは真由美の腕に自分のそれを絡める。


「阿修羅」

『あいあーい!!』


 頭上で元気に手を上げる阿修羅に真由美は苦笑した。


「あや。萌乃さんを離さないでね」

「うん」

「……あの一体何を?」


 萌乃の質問に答えるように入口へ向かった。


「あ、あの……ここって招待状が必要なんです。このままじゃ入れない」

「だからこその禍乱真由美です」

「へ?」


 恐らく受付なのだろう場所にメイドが二人いる。無表情であやは気味悪く思った。


(人形みたい。萌乃さんとかは珍しい部類だったんだろうなあ)


 これで萌乃まで無表情だったら今頃ひよは冷酷(れいこく)()(じょう)になっていただろう。


「……」


 あや達がメイドの前を素通りしても咎める者は誰もいなかった。


「?」

「ご苦労様阿修羅。もう大丈夫よ」

『おさけ』

「はいはい」


 ひょうたん――今日はきちんとバッグに入れて――を阿修羅に渡して廊下を進む。


「から姉の異能の一つには自分と自分に触れている者の姿を消す力があります。今メイドさんが気づかなかったのもそのせい」

「す、凄いですね」


 阿修羅が消えたことによって真由美達の姿が(あらわ)になった。


「で、でもどこかに一人は招待者全員を覚えている人がいます。監視カメラもありますし」

(監視とか……)

「カメラは壊します。もしバレてしまうのなら……」

「バレないようにしましょうね!!」


 異能を使いたくないあやが言葉を遮った。


「ひよはきっとここの主様と一緒にいると思うから先にゆかを探しましょう。確か地下に牢屋が……」


 クイッと裾を引かれてあやと真由美は同時に振り向く。


「……は?」


 そこにいたのは──。


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