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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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ごめんなさい。安らかに

後一二話くらいで終わりますかね?

 赤黒く染まり出した紫の目が怒りで燃え上がる。同時に恵子を庇っていた莉乃が吹き飛ばされ意識を失った。


「小鳥遊! あなた何者なのよ。正一も真一もこんな凶暴な異能を」

「イノウシャデナイモノガワレニクチヲキクナ!!」


 鈍く嫌な音がして恵子の腕がありえない方向に折れ曲がった。


「あぐ……っ!」

「我ハハカイシン……正統ナル神ヲ傷ツケルトハ愚カナ女ダ。目障リダシスグニ消シテ……」


 台の上に仁王立ちして恵子を殺そうとした紫――破壊神は意に反して崩れ落ちた。見れば台の脚が折れ曲がっている。

 紫は異能を使えないが力の持ち主である破壊神には暴走などありえない。


「邪魔ヲスル気カ。異能者」

「邪魔する気など無い。私はあなたを迎えに来ただけだ」


 当道が破壊神と向かい合う。


「……っ。異能者って何、なのよ」


 破壊神に腕を壊され、台の脚さえも軽々と壊している所を目にした恵子は命の危機さえ感じた。


「母さん」


 肩を掴まれ恵子は反射的に逃げようとした。


「じっとしてて」

「ま、まさかず?」

「黙って」


 いつになく強い口調で諌めるまさに恵子は(ひる)んで二の句が言えない。


「異能・活溌溌地」


 恵子の痛々しく歪み変色したその腕が元の形に戻っていく。


「痛いところ……他は?」

「な、無い。正一、どう、して……」


 一睨みしたまさはそのまま恵子を破壊神に見えない所へ移す。


「ここにいて。動いたら死ぬからね」

「し……え?」


 硬直する恵子をよそにまさは怒りで燃え上がっている紫の目を見た。


「まさ。ゆかの状態がおかしい。狂気じみてはいるけど前のように無差別に人を殺していなくて正気を保っているような……まさ?」

(父さんは助けられなかった。無知で父さんにばかり頼っていたせいで……弟を守れなかったせいで。今度こそ。彼女こそは!)

「僕がゆかを救うからしんは母さんを見てて」

「え、何言って……まさ!?」


 しんの言葉には耳を貸さず、破壊神のすぐ傍まで寄っていく。


「我ニ何ノヨウダ。貴様カラ殺サレニキタノカ」


 相も変わらず怒りのオーラは治まらない。見れば見るほど紫と破壊神は別人だと思わされる。


「紫を返してください」


 だがまさは物怖じせずに立ち向かう。


「……」


 破壊神と今まで睨み合っていた当道は敵という立場にいながらも一部始終をただ見続けていた。若い異能者への羨望でもあったのだろう。

 破壊神はこちらに伸ばされた手をしばし見つめてからゆっくりと手を伸ばし――まさの頬を思い切り引っ掻いた。


「タダノ異能者ガ我ニ命令スルキカ」


 頬から溢れんばかりの血が出る。それでも尚、痛みに負けず破壊神の目を見続けるまさに対して鬱陶しくなったのか破壊神は更に暴行を続けた。

 顔を殴り、腹を蹴り、骨が軋む音が響いて壁の所まで飛ばされ血を吐き出す。


「……まさ」


 何もするなと、母を守っていろと言われてもしんの我慢にも限界があった。


(あんな怒りを封じられる異能なんてあるのか。後はもうゆかを殺す?)

「自分の仲間を安々と殺す気か? 小僧」


 心を読み取られたかのように当道が言う。


「……本当はそんなことしたくない。けどこのままじゃ兄さんがっ!」

「家族を信じてみなさい」


 敵からの助言はしんを酷く混乱させるのに充分だった。


「二度ト口ガ聞ケナイヨウニシテヤル」


 破壊神がまさの喉を潰そうと手を振りかざした。


「兄さん!!」


 しんが手を伸ばしたが時既に遅し。

 破壊神の指はまさの喉を掻っ切って――いなかった。


「……結局親ハ子供ヲ愛シテルンダロウナ」


 破壊神が貫いたのはまさの体では無く、まさの首に回された恵子の腕だった。


「……母さん? 何して」


 まさには似合わない焦った声だった。と言っても恵子は耐えるのに必死で声も出せていないが。


「滑稽ナコトダナ。全テノ罪ヲ被ッテ自分ヲ犠牲ニシテ」


 破壊神は恵子に対して嘲笑った。


「病院ノ奴等ハ野心ノ強キ者達ノミ。屑共ノ手ニ落チナイヨウニワザト子供ヲ虐待シテコノ場所カラ逃ガソウトシテイタノダロウ?」

「え?」

「……っ」


 恵子は傷の痛みとはまた違った苦渋の顔を浮かべる。


「ソレダケダッタノニ貴様等ヲ消シテヤリタイ奴ガ夫ニ毒ヲ盛リ殺シタ。子供ニハ人殺シダト思ワレテ恨マレタ……ヨク精神ガ持チ堪エタモノダナ。褒メテヤロウカ?」


 破壊神の言う通り、恵子は何度も死にたいと、もう何もかも投げ出したいと思う事はあった。

 それを食い止めたのは息子への愛だったのだろう。




 恵子のいる院長室――昔は夫婦で病院を支えていた――からは旧病院の治療室が見える。


 “あの日”の夜。旦那が息子達に何かを渡し、吐血していたのが見えた。

 恵子は慌ててそちらへ向かったがもう虫の息で解毒など効かない。


「けいこ」


 掠れた声で話しかけられる。


「き、きみは……これがのぞ、で……たこと、か……あ、あのこ……た、は……も……」

「……はい。もうこれでいいんです。ありがとう。安らかに、天国へ……っ」


 最後の方は嗚咽でほとんど聞こえなかった。

 だが旦那は小さく笑った後、静かに息を引き取った。


「ごめんなさい。あなたを……家族を守れなくて……………ごめんなさい」

何でも良い人にしたいんです。元から恵子は良い人にする予定でしたけどね

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