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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
26/164

私を傷ツケタ

短めです

 異能者の実験を大型病院でできるはずがない。ということはあの旧病院にいるはずなのだ。


(父さんが死んだ場所。俺達が切りたくても切れなかった縁)


 あの時の光景が今でも鮮明に蘇る。

 目の前で血を吐く父親。病院内にいてもあんなに大量の血を見たのは初めてだ。


「……っ」


 頭痛がする。思い出す度にこの痛みが襲ってくるのだ。


(こんなことしてる場合じゃない。早くゆかを助けないと)


 体力を奪っていく真夏の暑さ、過去のトラウマ、それに寿命を使った異能でしんの身体は限界に近かったが今から探偵社に連絡したら遅い。

 旧病院へ早足で向かう。


(手術室はあの場所しかないし、近道は……)

「おや。私の異能をこんなに早く解く者は小僧が初めてだな」


 背後から声が聞こえて急いで振り返る。元より正体は分かっていたが。


「マフィア!」

「その名で呼ぶな。手は組んでいるがあの女に頭を下げているわけでもない。破壊神を連れて帰るのも利益があるというだけだ」

「……なら別にマフィアにいなくたっていいはずだ」

「それはならん。あの場には茜のような孤児がいる。誰かが守らななければならない子があそこにはいるのだ」


 茜は恐らくあさを苦しめたあの銃を使う暗殺者だろう。この人──マフィアにしては何か可笑しい。

 孤児を守るなんて優しいことをマフィアがするのだろうか。それともそれ自体が自分の偏見なのか?


「異能・重厚長大」


 慌てて後ろに飛びずさる。しんがいた場所が大きくへこんだ。


「破壊神以外は殺せと言う命令が出た。小僧の未来を奪うのは老人としていささか申し訳ないが敵となっては致し方ない」

(接近戦で勝てる相手では無い。でもいくら母さんでも異能者になんて勝てる訳もない)

「覚悟を決めよ……行くぞ」


 そこからは当道の異能をただ避け続けなければならなかった。

 潰されないように誰にも気付かれないように。一般人に気づかれたらそれこそ終わりだ。


「良い運動神経だ。反射能力も申し分無い。だが体力はもう尽きているだろう」


 しんが着地した所の地面がへこんで体勢が崩れる。


「しまっ……」

「さらば」


 しんの頭上に何倍もの重力が命中した――のにしんは潰れていない。

 しかも当道は何故だか苦しそうだ。


「異能・活溌溌地(かっぱつはっち)


 当道の後ろを見るとここにいてはならない人物が。


「まさ……かず?」




 強い光が今まで眠っていた紫の目を襲った。


(眩し!)

「あら起きた? 一番強力な麻酔を打ったのに三十分で復活するってあなたの体どうなってるの?」


 目を細めた紫を配慮してか、それともただの偶然か照明を落とした小鳥遊莉乃の姿があった。


「ここは……」

「旧病院の治療室よ。柊さんにはこれから実験体として色々その体をいじらせてもらうわ。異能者の治癒能力は凄まじいから輸血もできるかもしれないわね」

(いじらせてもらう? そんなこと勝手にさせな……)


 身を捩って避けようとしたがチューブや鉄金具やらで体を固定され全く動けない。


「無駄な足掻きはよしなさい。どうせこの病院からは逃げられないのだから。準備が整いました院長」

「ご苦労様。時間も無いし始めましょうか」


 トレーからメスを取り出し身動きが取れなくなっている紫の腹の部分に宛てがう。


「痛いとは思うけど我慢してね」


 恵子は躊躇いなくメスの刃の部分を全て中に深く沈みこませ、服の破ける音と共に脇腹まで大きく切り裂いた。


「――!!」


 紫が痛みに目を見開いたのと同時に旧病院の窓全てにヒビが入る。


「ああああああ――――!!!!」


 ヒビの入っていた窓は粉々に割れ、拘束していた鉄金具が砕け、チューブが千切れ落ちた。


「え?」

「院長!」


 予想外のことに固まってしまっている恵子を莉乃が庇う。


「いた……イ……血……チが……キズツけタ……私ヲ……………ハカイシンヲ!!」

活溌溌地→気力にあふれ、きわめて勢いのよいこと(攻撃用としては人の体力を奪ったり血の流れを悪くしたりetc.)

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