縁の憎悪
残り三話。短め
縁の体は文字通り、頭の頂点から爪先まで左半身全てが闇に包まれている。
「……縁っ?」
引きつったような声が舞姫の口から出る。紫も声こそ出さないものの身動きもできない。
「どれだけ私の願いを踏みにじれば気が済む。里子と言い紫と言い……。まさか舞姫に裏切られるとは思わなかったけど」
縁は紫を睨む。紫が守りに入るよりも先に縁の異能が繰り出される。異能をモロに喰らった紫の腹はよじれそうになり、壁にまで吹き飛ばされる。
「がはっ! ゲホッゲホッ!!」
紫はたまらず血を吐く。舞姫はすかさず紫の元へ行こうとするが
「どこに行く気?」
縁の力によって動きを封じられてしまう。縁は闇に包まれた左手で舞姫の首を背後から掴む。
「部屋にいろと言ったはずよ。まあいい。あいつを殺してくるからそこで待ってなさい」
縁は息を整えるのに必死な紫の元へ歩いていく。
「はあ……はあ……」
「破壊神のせいで元の体に戻り、禁忌の代償を一気に負うことになった」
縁は自分の体に触れる。闇の部分は穢れとでも言うのだろうか。
「痛みも苦しみもない。ただ虚無だけ」
紫の前髪を掴んで引き上げ、自分の顔と近づかせる。右手には光線を構える。
「お前はもう用済み。探偵社の奴らと一緒にあの世に堕ちてしまえ」
縁が心臓に光線を放とうとしたその時だった。
「駄目!!」
舞姫が力任せに叫ぶと何もない所から黒く禍々しい獣が現れ、縁を引き飛ばす。それによって舞姫を封じていた力も解け、紫の元へ行けるようになった。
「大丈夫?」
「は、はい。何とか」
舞姫の肩を借りて立ち上がる。縁は黒獣をいとも簡単に消し去ってこちらを一層強く睨んでくる。
「……紫。ここにいて」
「え? でも」
舞姫は縁の方へ歩いていく。縁はじっと待つ。
「縁、もうやめよう。一緒に死のう」
何を言うかと思えば心中の話。紫は息を飲んで止めようとするが舞姫に来るなと手で牽制されてしまう。
「百年の間で何が起こったのか。どうして私を生き返らせようとしたのか」
「……」
「どうせ教えてくれないのでしょ? そこは出会ってから一度も変わらない」
「だから?」
「もう私達を知っている人達はいない。縁と私が分かち合うことはこの先一生ないわ。でも死んでしまえば全て水に流れる。そもそも私達は死んでいてもおかしくないの。自然に従いましょう」
舞姫は縁に向かって手を差し伸べる。縁はその手を見て呆れたように笑い、一つ息を吐いてから舞姫に歩み寄る。
「ねえ舞姫」
縁も手を伸ばそうとする。
「あなたが誰にでも優しかったから」
手は舞姫の差し出された手を越えて。
「全員殺されたのよ」
舞姫の心臓を貫いた。
「ど、して」
「いつまで空想の世界にいるつもりなの。一緒に死ぬ? そんなのただ存在がなくなるだけ。念は残る。そんな甘えた根性してるから子どもも妹も守れないのよ」
縁が手を抜くと舞姫は呻きながら倒れた。
「死にはしない。でないと私の計画が全て無意味になるから」
縁は舞姫にそう告げると次なる標的へと目線を移した。呆然とそこに突っ立っている紫を見て鼻で笑う。
「随分惚けた顔をしてるね紫。今からもう一回死ぬっていうのに」
「なんで」
「は?」
「なんであなたはそこまで人を蹴落とせるの? こんなに人を殺して、昔の友達を苦しめて。こんなの人間のすることじゃない!」
激昴する紫を一瞬ポカンとした顔で見た後、縁は腹を抱えて笑い出した。
「何がおかしいの!」
「お前はまだ私のことを人間だと思っていたのかい。悪いね。人間はもうやめてるんだ。百年前に」
事態が飲み込めない紫に自分の珠を見せる。
「私は守護神の力をわざと飲み込んで本当の神になったんだよ。こんな風に」
縁は自分の珠を飲み込んだ。
「ゆかり」が二人いるせいで話がややこしくなる。もう二度と話に同じ名前使わねぇ!ヽ(`Д´)ノ