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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第二幕
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こころ対茜

マフィア〜

『続いてのニュースです。昨日工場で数十名の遺体が確認されました。警察は暴力団関係と見て捜査を進めております。なお、今のところは……』


 本部にあったテレビの電源を消し、里奈は大きく溜息を吐いた。


「何か嫌な予感がするわ……暴力団ならあさが有望よね」

「それはつまり受け身になれと? 地盤を壊した方が早いんじゃない?」

「地盤って壊すものじゃないからね」


 あさの限度はやはり尋常でない。というか確かついこの前、トラックを止めるので精一杯と言っていたはずだが。


「嫌ですわ暴力団なんて。それにここの近くでしたよね事件現場。戸締まりをしないといつ押し寄せて来るかも分かりませんし」

「こんな化け物集団の所にやってくるかねぇ。あ、記憶消してるから化け物ってこと知らないのか」


 仕事をしながら雑談していると依頼の電話が入ってきた。


「もしもし城探偵事務所です……あああなたか。知ってるわよ。それで寄越せと。はいはい了解しましたよ」


 受話器を降ろし里奈は苦笑を浮かべた。


「予想的中しました。あさ、至急ゴー」

「了解しました」


 必要な荷物を持ってあさは一人現場へ向かった。




「……君が城ヶ崎の言っていた探偵かい」

「ええそうよ。浅葱こころ。十七歳でまだまだ学生。でも探偵社の中では古株だから役立つとは思うけど」


 特有の上から目線で県警を見上げる黒髪ボブ少女はさぞかし目立つのだろう。

  ちらちらと野次馬やら関係者やらがそちらを見ている中、あさは淡々と現場の奥へ向かった。


「遺体は?」


 ビニールシートを躊躇いなくひっぺがし、無言で他も取った。


「おかしいわね。このおっさん一人だけ銃弾で死んでんのにそれ以外は泡吹いて首を自分から掻っ切ってる形跡がある」

「ああそうだ。暴力団は殴ったり銃弾での殺人はするが自殺なんてケースは今までで無い。捜査は難航する始末だ」

「ふーん」


 異能を知らないから難航しているのだ。まあそんなこと言う気もないが。


(恐怖を与えられ続けて自ら自殺。もがいたけど力尽きて死亡もありえるわね。あのおっさんは代表か何かで殺された。マフィアの可能性が高いし社長に聞いてから)


 外から発砲の音が聞こえ、外部の悲鳴が響いた。


「容疑者か? 浅葱行くぞ!」

「……」


 今の銃弾にあさは聞き覚えがあった。無駄なことに記憶力の良い自分を褒めて欲しい。


「やっぱりあいつか」


 他の警察と逆方向へあさは走り雑木林の中へ入っていった。


「来てやったわよ。よっぽど目立ちたかったのねあなた」


 あさが話しかけると奥の方から人影が浮かび上がり姿を現した。


「目立ちたかった? あなたこそこんな分かりやすい罠にわざわざ嵌りに来るなんて何を考えてるの?」


 茜は拳銃の引き金に手をやった。


「弾は私に当たらないわよ」

「……あなたが私の異能を知らなくて良かったわ。知っていたらあなたを殺せない」

「殺される筋合いは無いけど……異能・獅子(しし)奮迅(ふんじん)


 唱えるや否や猛スピードで獣のような鉤爪を茜に振り下ろす。茜は銃弾で防御をした。


「リミッターでも防げない場所がある。そこを撃ち抜かれないように、そして私に異能を使わせずに倒す。逃げたら一般人に被害が及ぶ。 そんな状態で戦えるかしら」


 茜は持っていたバッグから素早く機関銃を二丁取り出し超スピードで動くあさ目掛けて撃った。


「ちっ!」


 あさの異能は肉体を強化して人並み以上に力を発揮できるリミッター解除。

 だがあくまで『人並み以上』。

 

 完全に弾が防げる訳でも無く、近距離で脳や心臓を撃たれたら死ぬ。


(仕方ない。この際頭と心臓の守りを固めて拳に力を入れて。他は撃たれてもギリギリ耐えられるし)


 瞬時に間合いを詰めてあさは異能を立て直した。


「引っかかった」


 茜の言葉にあさは慌てて足を振り下ろしたがリミッターが効いてなかったため易々と捕らわれてしまう。


「くっ……!」

「異能・極楽浄土(ごくらくじょうど)


 強い衝撃に襲われ目をギュッと閉じた。

 次に目を開けた時、茜の姿は無くあさは一人草原に立っていた。


「ここどこ? あいつの異能……幻覚か瞬間移ど……」

「……は」


 声がして後ろを見てみる。だがあさはそれ以上の動きができなくなってしまった。


「お……」

「久しぶり木葉」

「お兄ちゃん?」


 自らが殺しかけ疎遠になったはずの兄が目の前にいる。

 驚きで硬直しているあさの方へ兄――(かえで)は歩み寄ってきた。


「木葉」


 名前を呼ばれてあさはようやく我を取り戻した。


(……違う。あいつの異能だ。幻だ)

「あんたは兄じゃない。高堂の作った幻だろ?」

「確かにそうだ。だけど心は本人だよ。体は作り出した人形だ。僕は今意識が戻ってないからね」

「意識……」


 『あれ』から十年経つ。なのにまだ目が覚めないのか。


「そのブロンド、本当に綺麗だよね……母さんと同じように」

「!!」


 ああそうだ。言った通り、心は本物。自分を恨んでいる心だ。

 でなければ自分と母を比べようとしない。世界で一番憎んでいる人と。


「あ、あの人のことは」

「知ってるよ。だって母さんは君を嫌ってたからね。化け物だって。だから頼んだよ」


 楓はあさを押し倒して首を絞める。


「君が愛されなくて良かった」

「お、にい……?」

「君を殺せば茜さんは元に戻してくれると言った。だから殺す。化け物を!」


 首がキリキリと締まっていく。それでも中々死ねない。


「簡単には死なせない。精神がおかしくなって絶望して最後は苦しみ殺す」

「にい……ちゃ……お、にい……」


 ジタバタしても逃れられない。あさは苦しみにもがき泣いた。




「お、にい……」


 茜はうなされているあさを抱き抱え雑木林を進んでいった。


 極楽浄土――一番愛しているものに恨まれ拷問され苦しみ自殺に追い込ませる異能だ。


「た、すけ……おねが…………くるし……」

(苦しめ)


 あさへの殺意は何故か茜の心に強く貼り付いた。

 きっと――――


「私とあなたは同じ境遇なのかもね」


 静かに二人は闇に溶け込んでいった。

極楽浄土→全てが満ち足りていて、平和で苦しみのない世界(愛している人には会えるがそこはもう死後の世界のため現世を渡り合えることはできないということ)

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