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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
最終決戦編
158/164

目覚めた舞の姫

 魔姫は物音で目を覚ました。うたた寝をしていたらしい。時計はないがそんなに経っていないことはわかる。


「そういえば里子様はどうしたかな」


 あの狂い様では自力では帰ってこれないだろう。声もしないから発狂死したのかもしれない。何はともあれ確認しようと魔姫がドアノブに手をかけた時だった。


「……ここは?」


 近くから聞こえてきた声に手を止めて瞬時に振り返る。勿論今の言葉を発したのは魔姫ではない。近寄って見るとうっすら目を開ける少女の瞳はいつもの少し赤い目と違い真っ黒。


「舞姫……」


 自分で蘇らせたとは言え、突然のことに魔姫は掠れた声しか出せない。


「私は」


 朦朧としている舞姫の頬に手を置く。こちらを見た舞姫は小首を傾げる。


「私?」


 魔姫──もとい縁ははっとして舞姫に向かい合い、説明し始めた。


「何の説明もしてなかったね。記憶はちゃんとあるかい舞姫? (じき)に意識もはっきりする」

「あなたは? 私の体?」

「柊縁。覚えているかい? ゆ、か、り。この体は訳あってお前と交換しているんだ。もしお望みならば後で返すけど。神憑きでも百年以上生きてると体にも負担がかかってるからまだ若いそっちの方がいいよ。後は……」

「百年?」

「え? ああそうだよ。お前は百年間眠ってたんだ。明治に生まれて大正昭和、今は平成。ああ心配しないで。お前が借りてる体はまだ十六の若者だから」


 何の問題もなく言う縁に舞姫は健康そうな手足や体を見て顔をあげる。彼女も神憑き。状況の把握は速い。


「ねえ縁」

「うん?」

「その。この若者? さんはどこに」

「若者さんってお前はまた面白い言い方をする。追放したからよくわからないけど死んだんじゃないか」


 適当な言い方に舞姫は信じられないというような面持ちで縁を見返す。


「死んだって……この子は事故か何かで?」

「そんな欠陥を選ぶわけないだろう。彼女も同じ神憑き。私が殺したんだ」

「……ねえ。どうしてさっきから平気な顔でそんなこと言うの。私が殺したって」

「そんなこと言われたってね。百年で数え切れないくらい人を殺したし今更少女一人殺めたところで」

「信じられない。人の命をなんだと」


 非常識な言動を繰り返す縁の姿を改めて見返し、ある事に気づいて傍と辺りを見渡す。


「水輝様はどこに? ここはお屋敷じゃないの? 里子は? 真由美は?」

「今言っただろう。百年経ってるって」


 まあさっきまでは生きていたけど。縁は言いかけたものを飲み込む。わざわざ言う必要もないのだ。だが舞姫は返答に構わず自分の腹を擦る。自分の、と言うより紫の腹をだが。


「子ども。私の赤ちゃんは? 私と水輝様の子どもは?」


 縁の眉が微かに上がる。周りの空気が静かに冷めていく。


「ちゃんと生まれたのよね? ここにいないってことは自立したのかしら。あ、もう年もとって……」

「捨てた」


 縁が放った言葉に舞姫は言葉を止めた。


「……今、なんて」

「生んですぐ捨てた。あんな怪物を持っていくなんて面倒だ」

「う、嘘でしょ?」

「こんな嘘を吐いてどうするんだ。まあこれはどうでもいい。回復したならこっちへ」

「触らないで!!」


 縁の手が強く弾かれる。舞姫の表情は驚愕から怒りに変わっていた。


「あなただって楽しみにしてたじゃない。なのに怪物ってどういうこと。捨てたって……どうして私達の子どもを捨てるような真似をしたの!」


 舞姫の眼から涙が溢れていく。彼女の心は感情が一気に押し寄せてきて混乱しているのだ。


「舞姫、落ち着いて」

「これのどこが落ち着けるというの!? あなた言ったじゃない。子どもを産むためなら何を犠牲にしてもいいかって。私はそれでも産むと言った。それなのにどうして……っ」

「お前だって自分の子を見れば思うさ。あれは化け物だって」

「なら子どもと一緒に私も捨てれば良かったじゃない! そうすればあの子を一人にせず逝けたのに」


 ヒステリックを起こす舞姫を疲れながらも宥めようとする。しかし最後の言葉で縁の何かが切れた。

 気づけば舞姫の首を絞めていた。


「ゆかり? 何、を」

「あんな化け物の何がいい。お前は誰にも渡さない。私だけのものだ」


 縁の手に力が込められ、舞姫は苦しそうに呻く。


「何が、あったの。縁は、こんなことするような人じゃ……」

「百年もあれば人なんてものは容易く変われるさ。お前もこれからわかる」


 舞姫は身動きが取れなくなる。守護神に体を押さえつけられているのだ。


「また眠っててもらおう。別に命を奪おうなんて考えていない。いずれ私のことも理解できるようになる」


 舞姫は眠気に襲われる。意識がなくなっていく中、無意識に口は動いた。


「破壊神……」


 突如、縁の手が発火した。

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