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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
最終決戦編
153/164

殺人鬼の涙

「溶岩!」


 本の中からコンクリートをも溶かす程熱い溶岩が噴き出る。


「昇華」


 巨大な氷の壁とぶつかって蒸留され、辺り一面が霧に覆われる。


「黒炎の魂、竜!」


 視界の悪い中で黒い炎を纏った竜が標的に突進していく。


「閉じ込めろ」


 巨大な竜をものともせず、氷でできた檻で閉じ込める。


「ぜんっぜん効いてないじゃん!」

「氷河……強い」


 二人がかりで攻撃してもかすり傷すら作ることができない。


「このままじゃ私達の魔力が切れて終わり。旻、何かない?」

「思いつくもの試してる。けどどれも効果ない」


 更に不運なことにあや達は体力・魔力共に消耗しているのに対して氷河は最低限の動きしかしていない。このまま変わらず攻防戦が続けば必然的に敗北は決まる。どうしたものかとあやが考えあぐねていると氷河が動いた。


「もう終わりかサヤ」

「っ!」


 脳に電流が流れる。逆らうな、と。


「あや、大丈夫だから」


 旻はまだ魔力を注がれていないおかげか恐怖を感じていない。あやにとっては救いである。


「まだ……まだいける」

「うん」


 氷河の隙をつく為に再び二人は異能を繰り出す。


「お前達の相手をするまでもない」


 氷で二人の攻撃を防ぐや否や、氷河は旻の方へ移動し、頭を掴んだ。


「旻!」

「絶対零度」


 もがいていた旻はその瞬間抵抗をやめた。目を開いたまま四肢を投げ出している。


(これってゆかの時と同じ)

「サヤを殺せ」


 氷河が命令を出せば静かに本を出してあやの方を向く。


「旻? ねえ、旻」

「サヤ。私を殺したければ。仲間を守りたければ旻を殺せ」


 氷河はそう言い残すと元の道へ引き返してしまった。


「待て!」


 後を追いかけようとするが、旻が行く手を阻む。


「起きて旻! 戦うのは私じゃない」


 氷河に洗脳されてしまっている旻には何も通じない。彼女は最早操り人形でしかない。


「旻!」

「猛獣」


 あやは叫ぶが旻は聞こうとせず、本の中から二メートルはありそうな獣を呼び出した。獣は真っ先にあやに突進する。


「わっ」


 あやは慌てながらもしっかりと避ける。そうすれば的を外し、役目を負えた獣は本の中へ戻る。


(旻の思考回路はやられてる。それなら)

「戦闘不能にさせる!」


 白く光る珠を出す。一度記憶を改竄(かいざん)するには気絶させなければならない。あやはそれを利用した。


(気絶させれば異能もリセットされるはず)

「異能・博覧(はくらん)(きょう)()


 光が旻を包み込む。旻はその虚ろな目を閉じた。


「よ、よし」


 あやはふらつきながら旻の方に寄る。ただでさえ一つ一つ魔力を使うのにそれを連続している。疲労も激しい。


「早く氷河の所に行かないと」


 旻を起こそうと手を伸ばす。その瞬間腹に衝撃を受けた。


「かはっ!」


 旻に拳で腹を殴られたのだ。隙だらけのあやは受け身を取ることもできず、攻撃を正面から受けてしまった。


(なんで……気絶させたはずなのに)


 腹を抱えながら見上げれば、やはり旻はあやに敵意を向けている。


(効かなかったの?)


 そんなはずない。現に旻は反応を見せた。


「短剣」


 動けないあやに(またが)って本から人を容易に殺せそうな剣が出てくる。


(死ぬの?)


 旻の目にはあやの首が映っている。


(何もできずに……誰も守れずに)


 旻が短剣を振りかざす。あやの心臓がこれまでにない程激しく鳴る。


(いやだ)

「死にたくない!」


 そう叫んだのと短剣が振り下ろされたのは同時だった。痛みを覚悟して目を瞑ったが予想していたものは訪れなかった。恐る恐る目を開けると首スレスレの所で短剣が床に刺さっていた。


「え?」

「あや、殺して」


 旻が苦しそうに息を吐く。よく見れば彼女の手は震えている。


「また、洗脳される前に……殺して」

「だ、だめ! 待ってて、今氷河を」


 起き上がろうとすれば旻が押し止める。半分は操られているのか。


「殺して。でないとあやを殺してしまう」

「嫌よ! 仲間を殺すなんて」

「エゴまみれの殺人鬼が!」


 旻の吐き捨てた暴言にあやは固まった。


「死にたくないと言ったのはお前だろう。嫌なら殺せ。今更善人ぶるな殺人鬼」


 あやの頬に熱い水滴が落ちてくる。それが何かはわからない。あやの視界もぼやけているから。


「どうせ守るなら。助けるなら……」


 あやの手が旻に向く。


「私を殺してゆかを守れ! サヤ!」


 旻の首を掴んで叫ぶ。


「異能」




 あやはしばらくふらつく。辺りは焦げ臭さに満ちている。


「ひょうが……」


 ぼそりと呟くと氷河が向かった方に足を向ける。そのまま駆け出した。


「氷河ぁぁぁ!!」


 焼き死んだ家族を置いて。

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