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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
最終決戦編
151/164

紫の元へ行かせるために

 雛子は誰しもが認める強い異能者である。魔力の差が歴然としていることもわかるほどに。

 たとえあやが天才殺人鬼だとしても里奈を魔姫の手から守ることはできない。わかっていながら雛子は二人を置いて単独行動に出た。

 向かう先は地の底にある薄暗い、けれどよく音が響く大きな部屋。


(静かね)

選別(・・)はしてないの?」


 目の前もはっきりしない部屋で雛子は一人呟く。否、それは独り言ではない。


「……ああなるほど。今終わったばっかなんだ」


 照明が点く。急な眩しさに目を細めながら周りを見る。


「流石に悪臭すぎやしない?」

「さあ。奴隷だった頃に鼻折られてから正常に動かないんだよね」


 不安定そうな高い山の頂上に足を組んで座っているアイラ。


「降りてきてくんない? 首痛いしこうすると丁度死体の目とあって気が散るんだわ」


 アイラが座っているのは肌色に赤や茶を加えられた物体。奴隷にならずにアイラに惨殺された人間だ。そんなことも気にせずアイラは挑発するかのように座り直す。


「それよりもなんでここに来たの? あの白髪女と一緒に一緒にいれば良かったのに」


 機嫌がいいのか何か企んでいるのかアイラは笑みを零しながら雛子を見据える。


「ていうかスパイなんか辞めてこっち側に来れば良かったじゃん。あんた強いし魔姫様も気に入ると思う」

「御託はいい」


 雛子は珠を強く握る。


「お前を殺すだけ」

「やってみなよ。鳥越雛子」




 あやはここまで無傷で来た。そもそも襲撃すら見ていない。里奈が時を止めて全員殺してしまっているから。


「しゃちょ……社長待って」


 そこらにナイフで刺されて死んでいる人間がいるせいで足が(もつ)れて歩きにくい。


「早くしなさい。こうしてる間にもゆかが」

「そんなこと言ったって。少し冷静になろうよ。そのままじゃ足すくわれちゃうよ」


 里奈は片眉を上げると乱暴にあやの手を取ってそのまま先に進む。


「わ、わっ……待ってって……言ってんじゃん!」


 里奈の手を振りほどく。強く掴まれたせいで手首が少し赤い。


「どうしたの社長。様子がおかしいよ」


 それでも里奈は振り返らずに先へ進もうとする。


「社長に何があったか知らないから偉そうなこと言えないけど。この戦いって……ゆかが帰りたい場所ってこんななの?」


 里奈は歩みを止める。


「皆が犠牲になって血で汚されることをゆかは望んでるの?」


 あやの言葉に返事はしない。それでも進もうとはしない。


「殺しあわない道は無かったの? 苦しまない方法は無かったの?」


 里奈を説得しようとあやは歩み寄って手を取る。無言で里奈は振り返ってあやの頭上を見上げて。


「今からでもいいから。ちゃんと話してみようよ。別の生き方があるはず……」

「伏せなさい!」


 里奈に頭を掴まれて下に向かされる。直後、氷柱(つらら)が頭スレスレを通過する。


「氷、河……様」


 冬の近づいてきた海でいくらか体温を奪われはしたが、今度は耐えるのが辛い程の寒気が襲ってくる。


「ちっ。あや、炎を……あや?」


 あやを立たせようとするも腰が抜けてしまっているのか。更に寒さだけではないような震えた手で里奈の服を掴む。


「どうしたのあや?」

「……うるさい」


 はっとして前を見れば鋭利で冷たい目をした氷河がいた。


「氷河……っ」

「サヤ、制約を忘れたか」


 あやの体が震える。


「制約?」

「……研究所にいた頃、氷河……様の異能で心臓に埋め込まれた。全ての命令に従うようにって」


 あやが胸の辺りを苦しそうに握っているのは氷河に制約という名で脅されているから。言われてみれば先程から名前にも様をつけている。


「サヤ、そいつを殺せ」


 あやは苦しげに呻く。それでも首を振って立ち上がる。


「わ、私はもうサヤじゃない。あ、あなたの言葉なんて聞かない」


 緋色の珠を出現させる。


「社長、行って。あ、あの人は私が何とかするから」


 あやにこれ以上何を言っても無駄だと理解した氷河は説得を諦めた。


「絶対零度」


 矛先をあやに向けて異能を発動させる。吹雪に()されて飛ばされてしまう。


「あや! ……っ」


 視界が悪く、寒さも相まって氷河に集中することができない。


「サヤは強い……が」


 巨大な氷の柱が生成される。


彩乃(おまえ)は弱い」

「──っ」


 潰される。そう思った時だった。


薬籠(やくろう)(ちゅうの)(もの)!」


 大きなコンクリートの壁が現れて氷の柱を防いだ。藤色の着物が映る。


「旻!?」


 確か真由美の元へ行かせたはずなのに。


「あやの魔力を借りて隠れてた」

「なんで……」


 あやを立たせる。


「氷河は強い。あや一人じゃ勝てない」

「だから来たの?」

「足止めはできる」


 分厚い本を開く。


「岩石」


 旻がそう唱えれば空から岩が降ってきて氷河を囲んだ。


「今の内」

「旻……」

「行って」


 旻が頷いたのを機に、里奈は先へ走った。


「あや、大丈夫?」

「うん。ありがとう旻」


 里奈の姿が見えなくなると二人は臨戦態勢に入った。


「……これでよく勝てたと」


 全く傷ついてない氷河が岩を凍らせる。


「行くよ旻」

「うん」

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