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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
最終決戦編
146/164

宿敵

(里奈? 里子? 今のあなたは一体何を見ているの)

「から姉」

(このままじゃ魔姫に踊らされるだけなのに)

「から姉」

(百年もの間に里子の狂気も大分収まったはず。でもあんな状態じゃ……)

「お姉ちゃん!」


 手首を急に強く掴まれた真由美は反射的に手を振り払ってしまう。振り払われた本人は地面に尻をついた。


「あ……」

「いたた」


 腰をさすりながらひよは立つ。


「どうしたんですかから姉。どこにマフィアがいるかわからないんですから集中してください」

「え、ええ。ごめんなさいひよ」


 マフィアの気を感じる所を見つけ、根絶やしすることが二人の任務である。一度、紫が連れ去られた廃墟に強い魔力を感じ、真っ先にそちらへ向かっていたのだ。


「来たのはいいですけどどこにもマフィアはいませんね」

「そうね。百目でも見えないの?」

「いいえ。それが百目が使えないんです。見ようとすると弾かれてしまって」

「弾かれる?」


 何かと相殺されてしまっているのだろうか。ひよはその若さと体格で力が常人より弱い。神憑きでなくとも百目を消されてしまうことも多々あるのだ。


(やっぱりどこかに敵がいる。でもどこに)


 真由美が目線を上げた先には一つ電球が点滅していた。


(廃線してるのに?)


 電球の光は点滅からしっかりと光を保つようになり、段々光が強くなる。煙が出るほどに。


(光。電気。雷……)


 (らい)!!


「ひよ!」

「え?」


 真由美が地を蹴り、ひよをその場から引き離した瞬間、電球が垂直に割れ落ちる。その熱で先程までひよが立っていた場所が焦げる。


「お、おねえちゃん」

「流石鬼だ。百目も一緒に守るなんて」


 暗い奥から現れたのはマフィアの人間ではない。飛行船の中で探偵社の魔力を奪い苦しめた雷。

 真由美に抱きつきながらひよは恐怖に震えた。死の淵にたどり着くまで魔力を搾り取られたのだからトラウマになってしまっているのだろう。


「大丈夫よ日和。お姉ちゃんが守るから」


 頭を撫でて落ち着かせる。その間にも刀を抜き、刃先を雷の方へ向ける。


「鬼のくせに本当に慈悲深いよね。そんな誰かに守られなきゃ生きられない弱者なんて見殺しにすればいいのに」


 雷がその鋭い目で睨むとひよは耐えられなくなったのか、「おねえちゃん」と何度も呟きながら真由美に縋り付いて泣き出す。


「無様だな。これが悟りの妖か」

「この子に構うな。私がいくらだって相手してやる」


 ひよを安全な所に置いて、雷と対峙する。


「異能・()(しゅ)()(おう)


 真由美の背後に本来の鬼の姿を見出した阿修羅が憑く。


「遠慮はいらない。雷を殺す。それだけよ」

『久シイナ真由美。分身デハナク我ヲ呼ブトハ』


 ひよがいつも見ているあの小柄な鬼は、本来刀の中で眠っている阿修羅の一部である。真由美が本気を出す時だけ鬼の力が目覚めるのだ。


『手強イノカ』

「神殺しをそう易々と殺せるとは思っていない。だけど私の日和だけは絶対に傷つけさせない」


 真由美は片足を引き、重心を決める。


(里子に苦しい思いはさせない)


 いざ


「参る!」


 鬼の全力を持ち合わせた真由美は一瞬で雷と目と鼻の先まで接近し、刀を振り上げた。


「うわっ……と」


 何の躊躇いもなく振り下ろされる刀を間一髪で逃れる。頑丈なコンクリートも関係なく裂け目ができる。一振りでも切られれば死は確定だろう。


雷針(らいしん)!」


 雷もやられたままではいない。雷を伴った針が無数に真由美に注ぐ。


「遅い」


 針を切り捨てては雷に近づき斬り殺そうとする。斬られる前に避けてまた雷針を作る。

 どちらも引かず一瞬の隙も許されない攻防戦をひよは遠目から見ていた。


(このままではから姉が先に崩れてしまいます。何か気を逸らすものを)


 負荷の大きい鬼神の力と神殺しの力。一見互角でも真由美の体力は倍以上吸われているのだ。


(百目、起きて。から姉を助けて)


 ひよの額にある目が輝きだし、そこら中に百目が現れる。


「異能・(だい)()徹底(てってい)


 百目は雷の方を向くと爆発し始めた。


「今ですから姉!」

「ええ。ありがとうひよ」


 動けなくなった雷の隙をついて真由美は止めを刺そうとする。


「なんで目が爆発すんの?」


 少しでも不意をつけたら。そんなひよの努力を無に帰すように雷は何にも動じず真由美を弾き飛ばす。


「からね」

「百目は大人しくしててよ」


 雷の輪がひよの動きを封じる。


「ねえ阿修羅。何で俺がマフィアでもないのにあんたらを殺そうとしてるかわかる?」


 急に何を言い出すのだろうかと真由美は訝しむ。


「あんた達は残酷だよ。梅香も錬も殺して旻を奪って。ああ、サヤも()ったよね。俺の家族を一人残らず殺した。あんた達こそよっぽど悪じゃないか」

「違う。先に争いを吹っかけたのはそちらよ。争えば必ずどちらかは勝ち、負ける」


 真由美は口の端の血を拭う。


「……そうやって百年以上生きてきたのかよ」


 雷の呟きに真由美は片眉を上げる。


「何の話」

「とぼけんな。禍乱なんて珍しい名字、調べりゃすぐ出てくる。百年間血で汚れまくったお嬢様の話とか」


 雷は何もできずにこちらを見ているひよを見て意地悪そうに笑う。


「どうせ自分の可愛い妹分には教えてないんだろ? 自分達に仇なす奴らを殺してきたなんてこと」

「それ以上ほざくようなら喉を掻っ切るわよ」


 真由美の怒りがその眼に映る。


「お好きにどうぞ。探偵社を……唯一無二の親友だった銀髪を守りたいが為に毎日毎日その手で人を殺めた狂った鬼に脅されたって今更怖くないさ」


 探偵をしていれば恨みを買うことも少なくない。昔は女の地位もそれほど高くなく、社長である里奈を脅かそうする者が多かった。


「その刃で肉を斬り、邪魔な者は容赦なく殺していった。百年で何人殺したんだろうな。百人? 二百人? もっとかも」


 拭っても拭っで落ちない血。日毎堕ちていく自らの心。いつも自分を姉のように慕い、純粋なひよを見る度にその身の汚さを恨んだ。

 それでも気づかれなければ。その堕ちた身を知られなければ。『いいお姉ちゃん』であり続ければ。真由美は二の句が告げずに歯ぎしりする。ひよにだけは知られたくなかった。


「誰かを守りたいが為に人を殺す」


 雷の矢を作り出す。


「やっぱりあんたは鬼の子だよ。仲間に嘘をつく最低な大鬼だ」


 雷は矢を真っ直ぐ真由美の心臓目掛けて放った。

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