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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
最終決戦編
144/164

さよなら

 そして今に至る。


「こんな醜い姿を木葉に……恩人にだけは見せたくなかった。だから死ぬ。懺悔(ざんげ)の為に」


 再び銃口を頭に持っていく。今度は止められないようにあさが動こうにも動けない場所まで離れて。


「だめ。もどってきて……みにくくない。あすかちゃんは醜くないから」


 あさの説得に茜は苦笑する。


「昔と変わらず優しいのね。木葉……いいえ浅葱。私はもう朱鳥じゃない。女一人も殺せなくなった役立たず。そう思えばいい」


 必死に立ち上がろうとするあさを横目に茜は一つ大きく深呼吸をする。


(魔姫様、申し訳ございません。どうか願いが叶いますように)


 そうして引き金に力を入れた瞬間だった。


「う、あああ!!」


 気づいた時には茜は突き飛ばされていた。あさがリミッターを最大限まで解除して茜のすぐそばまで駆けたのだ。その代償に茜の目には飛んでいく弾がスローモーションで映った。

 そのまま弾は――。


 パン!!!!


 貫かれたあさの首の穴からは血が大量に吹き飛ぶ。あさの体は重力に逆らわずに地面に落ちて少しばかり痙攣すると一切動かなくなった。


「……木葉?」


 返り血を浴びた茜が呼んでも目を開けない。揺すっても動かない。この反応は殺し屋の茜なら知っているし慣れている。それなのに何故倒れているのかわからない子どものように茜はとにかく揺する。


「木葉。起きて木葉」


 起きるはずがない。屍となったあさが起きることはもう二度とないのだ。


 どこかで一つ、何かが割れたような音がした。




 院長室に来ても人はいなかった。


「母さん?」


 忙しい恵子が病院内にいないのは珍しい。家にいるのだろうかとまさは裏の方へ向かう。マフィアと戦うのであれば一度目をつけられたことのある、そして探偵社にとって重要な地点となる病院を守る為にまさは二手に分かれて見張っているのだ。


(しんは旧病院に行ってるから念の為に急がないと)


 万が一しんがマフィアと一対一で対峙した場合彼の異能では何をするかわからない。そう思いながら急いで家まで行っても物音はしない。仕事で出かけているのか。試しに家中を周って恵子の部屋まで向かう。そこまで来て何か酷い悪寒がした。


「……母さん? いる?」


 返事はない。


「開けるよ?」


 恐る恐るドアノブを捻って薄暗い部屋に入るとそこには――。

 首を吊って息絶えている恵子がいた。




 先の戦いで燃やし尽くされてしまった旧病院を見回してしんは奥へ進んでいった。マフィアと遭遇した時に銃の音や被害を減らすためだ。


(こんな人が多い所に来る確率は低いだろうけど、あの人ならきっと)


 しんの予想が的中した。背後から魔力を感じて咄嗟にその場から離れる。


「私の攻撃を避けるとは大したものだ」

「……相模さん」


 奇遇とはよく言ったものだ。一日どころか半日も関わったことがないような敵と遭遇するとは普通思わない。それでも予測するのは異能者の性だろう。


「わかったか?」

「何を」

「命の重さ、尊さ。大切な者を奪われた気持ちは理解できたか」


 当道は以前、しんが命を削りながら異能を使っていることに対して怒りを(あら)わにした。そのことを言っているのだろう。


「言われなくてもわかる。あなたに(さと)される理由はない」


 そう返せば当道は呆れたように息を吐く。


「命の尊さをわかっていながらあれだけ力を乱用したのか。破壊神などそこらに放っておけば目を覚まし、お前は力を使わずに済んだだろうに」

「ゆかを物みたいにっ」

「神憑きなどそのようなものだろう」


 探偵社であれマフィアであれ紫はいなくてはならない娘である。それでも受け取り方は違うらしい。


「神憑きである前にゆかは人間だ!」

「人間か。化け物と呼ばれ、不幸しか呼び寄せない人間とは滑稽(こっけい)なものだ」

「黙れ!」


 当道の腕が見えない何かで切り裂かれる。スーツはすぐに血で染められ、少し力を加えて引っ張れば関節ごと抜けてしまうだろう。


「……技術は向上しているのだな」


 特に痛みで悶える素振りもなく、当道は腕を放っておく。


「だが身体の一部を損傷させるのだから命も相当削れるだろう」


 傍目から見れば重傷を負っているのは当道である。そのはずなのに息が上がって苦しんでいるのはしんの方なのだ。怒りに任せて当道を傷つけた結果、制御ができなかった。


(早く来てくれ兄さん。このままじゃ倒す前に寿命が尽きる)

「やられてばかりも性に合わん。異能・(じゅう)(こう)(ちょう)(だい)

「っ!?」


 崩れ落ちていた木材が目の前で浮き上がってくる。当道の手に合わせて飛ばされてくるいくつもの木材を蹌踉(よろ)めきながら避けていく。ただでさえ不安定な足場だというのに心臓の発作と不規則に襲ってくる物を避け続ける体力の消耗でいつ倒れてもおかしくない。


(どうする? 木材全てを消す? そうしたって違う武器を用意するに決まってる)


 考えている内に足を取られて後ろに転けてしまう。


「う……っ」


 その隙を狙わない敵などいない。一際巨大で鋭利な破片がしん目掛けて飛ぶ。

 力を使ってもこのままでは違う攻撃で殺される。逃げる体力もない。ならば――。


「……さよなら、兄さん」


 空色の珠を握りしめると同時に内臓を地面に押し付けられたような気持ち悪さに血を吐く。そのまま重力に逆らわず、仰向けに倒れると、しんは少しも動くことはなかった。

 当道は一つ息を吐くと自らの右方向に体を向けた。


「先に実家へ向かったのか。それは残酷だろうな」


 当道が目を向ける先。そこには奥歯を噛み締め、いつもの穏やかな雰囲気からは想像できない程怒りと憎しみを増幅(ぞうふく)させた目をしているまさがいた。


「……やる」


 絞り出したような声が出る。


「殺してやる。マフィア……っ」

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