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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
〜三章〜
140/164

参拾

すごく短いですね。すみません。

 里子の綺麗だった銀色の髪はほとんど白くなり、当の本人も鎖に繋いでおかなければ暴走してしまう程狂っていた。


「申し訳ありませんが里子様はここに繋がせておきますね」

「ああ」


 物置場としている橘家の一室に里子は拘束された。


「都の方はどうした」

「家ですか? 雄介様の同僚の方が継いでくれています」


 縁と水輝は静かな廊下を歩いていく。


「本当に使用人全員に暇を与えたんですね」

「関係のない者達を巻き込みたくなかったんだ。お前には迷惑をかけるが」

「今更です。まあこれ以上人が狂わないだけでもありがたいですから」

「縁。精神というのは治らないのか」

「さあ。でも聞くまでもないでしょう。きっと回復しても元には戻りませんよ。あの二人(・・)は」


 家事をしに行く縁と別れて水輝はある部屋の前で止まった。障子を開けると一人の女性が座って外を眺めている。


「舞姫」

「あの子……」

「体調はどうだ」

「あの子はどこ」

「腹は痛くないか」

「銀はどこ行ったの」


 いくら水輝が呼んでも答えない。いくら水輝が触れてもこちらを見ない。ただ焦点の合っていない目で外を見ながら里子を――否、銀を探している。


「……銀はいない。戻ってくるんだ舞姫」


 雄介の亡骸と狂った里子を連れてきた途端に彼女は自らを責め始めた。自殺をしようとした数も一度や二度ではない。そうこうしている内に舞姫は今までの記憶を失くしてしまったらしく、誰のことも見なくなった。ただ一つ、子どもだけを除いては。

 こんな状態で子を産めば母子共に傷が増える。そう思った縁は子を殺めようとした。しかし舞姫は何かを思い出したように腹を守り、縁に威嚇する。到々縁も殺すことを諦め、代わりにどうしたら安全に出産できるかを考え始めた。


「銀、どこ」


 うわ言しか発さなくなった舞姫を撫でる。


「また後で来る」


 水輝が出て行った後も舞姫は外を眺め続けていた。




 それから数日が経ったある日。真由美と預けていた瑠璃がやって来た。


「お久しぶりです橘様」

「真由美殿。どうかしたか」

「一つお話がございまして」


 瑠璃は母の手伝いをしに行っている。ここにいるのは真由美と水輝だけだ。


「里子を禍乱家で預けさせてもらえませんか」


 この質問には水輝も眉を寄せた。


「またどうして」

「阿修羅に……鬼に聞いたところ、狂気をいくらか吸収してくれるらしいです。そこを狙ってあの子を宥めようと」

「確証はないだろう。そんな危険なこと」


 水輝の言葉に真由美は首を振る。


「危険だということは重々承知しております。武術の心得もない私が狂った娘と戦っても勝ち目はないと」

「それなら……」

「ですがそれでも私は里子を救いたい。初めての友達を。強く生きてきたあの子をまた舞姫様と笑い合える日へ戻してあげたい」


 真由美の意志が込められた強い瞳を見て、水輝は息を吐いた。


「わかった。だが一つだけ約束がある」

「なんでしょう」

「死ぬな」


 真由美は目を瞬かせた後、微笑んだ。


「はい。必ず里子と共にこちらへ戻ってきます」


 里子を連れていくために真由美はそちらへ向かう。その姿が見えなくなるまで送ると水輝はまた仕事を始めた。




 それから数週間。真由美からは治らないが悪化してもいないという微妙な返答しか来ない。更に不幸は重なる。


「出産?」


 力を使って舞姫の体調を測っている縁からの言葉に信じられないといった声を出す。


「まだ一ヶ月も」

「ごく稀ではありますが一月前の早産も無くはありません。ですので私は彼女についています。その間瑠璃と共にいてください」


 まだ飲み込めていない水輝と瑠璃を残して、縁はいつでもいいように出産の準備を始める。それを終えたら舞姫の所へ向かう。


「舞姫」


 相変わらずこちらを見ようとしない彼女の額に手を置く。


「このまま行けば神憑きのあなたでも完全に死ぬ。命をこの世に生み出すのだから。そんな状態で痛みに負ける」

「赤ちゃん……」

「だけどあなたが自分を犠牲にしてでも産みたいのなら私がそうしてあげる」


 その時だった。舞姫が自ら虚ろな目を縁に向けたのは。


「産みたい……私の赤ちゃん」

「……わかった。目を閉じて」


 目を閉じた途端、舞姫の意識が暗転した。

次で過去編は終了。長いわ!∠(゜Д゜)/

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