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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第一幕
13/164

やめろ

 銃声が鼓膜を破る程響いている中。あや達は弾を払いながら先に進んでいた。


「ひよ。ゆかがどこにいるか見える?」


 二手に分かれているため、伝達できるように取り付けられたマイクに向かって話す。


『かすかにですが特有の能力が映っています。恐らく地下に幽閉されてるかと』


 地下牢――確かにここにはそんなものがありそうだ。


「わかったわ。それじゃあそこへはあなた達に任せる。こっちは敵の数を減らして」

「あなた達も馬鹿ね。仲間一人のためにこんなに躍起になって」


 聞き慣れない声に顔を上げるとマフィアの部下数十人を押しのけてひなみが歩み寄ってきた。


「さっきぶりだね先生。それとも社長の方が良い?」


 薄気味悪い笑みを浮かべるひなみの前には珠が浮かんでいる。


「学校では先生が良いけど今はそう呼んで欲しくないわね。それよりあなたの相方さんは?一人で私達と対峙しようなんて……」

「茜のこと? それならもう片方の敵の方へ行ってるしそれに」


 ひなみの姿が消えた。それと同じくして後ろから打撃のような痛みを受けて振り返るとひなみが後ろに立っていた。


「不倶戴天。姿が見えないから攻撃も避けられない。さて、何十人もの部下の銃弾と見えない攻撃をかわせられるかしら」


 ひなみが消え、銃声が鳴り響いた。


 同時刻。あさ達ももう一人のマフィア――高堂茜と対峙していた。


「異能・阿修羅王」


 真由美の手の中に剣が現れる。


「……鬼か」


 茜は拳銃を構え直した。


「肉弾戦で私には勝てない。黙って死んで」

「……黙って死ねぇ?」


 短気で頭に血が上りやすいあさにとっては今の言葉は大分気に食わないらしい。


「から姉。こいつは私にやらせて。しんとひよと先に進んでいって」

「あさ!? 流石にそれは無謀なんじゃ……」

「私の異能に無謀なんて言葉は無いわ。それに弾だって効かないし。しんは杞憂なのよ」


 心配するしんを援護するように真由美があさに向き直る。


「あさ。私は残るわよ。ていうか獅子の憑依として育ったのなら慎重と言うものくらい学びなさい」


 一喝されて拗ねたあさだが、すぐに切り替えた。


「異能・獅子奮迅」


 あさの体が獅子のように牙や尖った爪、そして鋭く黄色い目と変わっていった。


「お待たせしたわねマフィアさん。鬼と獅子に勝てるかしら。しん、ひよ。行きなさい!」


 あさと真由美の攻撃を機に銃撃戦が再戦された。


「大丈夫でしょうか……まだ異能の種類だって……」

「うん。でも今はゆかの心配をしよう。どこにいるかもう一度見て」


 しんはひよの手を掴んで地下牢へ急いだ。




 目が覚めた時、ひなみの姿は無く、辺りは静まり返っていた。


「檻……壊れてくれなかった……」


 ひびも入っていない格子をただひたすらに見る。


(もうここから出られない……マフィアとして生きなきゃいけない……?)


 静けさが寂しさや恐怖を倍増させていく。


(私はただ異能のことを知りたかっただけなのに……こんなことのために探偵社に来たわけじゃ)

「……先生……あや」


 体育座りをしてぎゅっと身を縮こませていると無性に涙が込み上げてくる。


「……誰か」

「お呼びかい?」


 はっとして顔を上げると紫には見慣れない黒ずくめの長身の女性が立っていた。


「……誰?」

「おや紹介してなかったか。私はマフィアの幹部……言わばリーダーの地位にいる者。皆からは魔の姫で魔姫と呼ばれているよ」


(マフィアの……リーダー)


 紫は危険を感じて咄嗟に後ずさった。その拍子に尻もちをついたがお構い無しだ。


「な、何で私を連れ去ったりなんか……」

「お前は神の異能者だろう。お前をこちら側にやれば私と同じ、二人の神が探偵社に追い込む。すぐに潰せるだろう?」


 つまり自分はマフィアの餌というわけだ。


「確か破壊神を操れてはいないようだが。異能・黒獣神」


 魔姫の背後から黒く禍々しい獣が格子をすり抜けて襲いかかってきた。


「ひ……っ!」

「止まれ」


 魔姫の言葉で獣は止まった。


「私の異能もお前も……神の憑依の代物だ。神は世界の頂に行ける。面白いだろう」


 愉快そうに狂気に満ちたように言う魔姫をただ凝視した。

 面白い? 世界の頂に立ったって仲間がいない――家族も友達も消えるなんて悲し過ぎる。


「な、ならない……絶対、マフィアになんか」

「なら力尽くだ。やれ」


 命令を聞くと獣は躊躇わずに紫の左足を食った。紫は一瞬何が起こったか分からなくなり、下を――溢れんばかりの血が流れる左足があった場所を見た。


「……あ、あ」


 先程とは比べ物にならない痛みが全身を駆け巡る。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 紫は鈍い音を立てて崩れ込み悶え叫び続けた。


「痛い! いたい!!」

「ああ苦しめ。どうせ再生する。心臓があり、首が繋がっていればな。もう片方の足も食え」

「い、や、やめて……」


 体を震わせる紫を愉しそうに魔姫は指示する。


「やれ」


 魔姫の声とともに入り口の方から引き金を引く音がして弾が獣に襲いかかる。


「ちっ!」


 後ろへ飛びずさる。


「……?」

「ゆか! 大丈夫ですか?」


 痛みしか考えられない紫には視界もはっきりしていないが探偵社の仲間がいることは分かった。


「あ、あ……あ」

「ひよ、左足をきつく縛って。失血死してしまう」

「はい。大丈夫ですよゆか。助けに来ましたから」


 ひよがぎゅっとベルトで左足を縛った。


「助けに来た、ね。百目と寿命縮めに何ができる? 百目の方は小さいから破壊神を担げないし、小僧も銃には慣れてない」


 魔姫は嘲るように笑い黒獣を二体出した。


「あいつらはいらない。破壊神には精神的な痛みも必要だね。こいつらを殺せ」


 二体はひよ達に襲いかかった。しんは機関銃で戦うが慣れていないため、中々当たらない。獣は容易にしんを吹き飛ばした。


「しん!」

「……っ。ひよ、避けろ!」


 獣の前足がひよの首を掴み、食いちぎろうとした。


「や……」

「ひよ!」

「……ひよちゃ……やめ」


 足を引きずりながら格子を掴んだ。目の前で仲間が殺されてしまう。

 やめろ。動け。殺すな。やめろ。


 ヤ メ ロ


 プツンと紫の中で何かが切れ、何も感じなくなった。


 どこも痛くない。

 寂しくない。

 怖くない。


 私……私は紫……違う……私は――――

 

 ハカイシン。


 激しい音と共に格子が折れ曲がり崩れた。紫は片足で外へ――黒獣の側へ行き獣の首を引き抜いた。

 肉がちぎれる生々しい音が部屋中に満ちる。首から噴出された血が顔にかかっても紫は動揺しない。


「……ゆか?」


 怯えるひよの声に紫は反応して首を動かした。


「…………アハ」

紫ちゃん壊れる


獅子奮迅→獅子が荒れ狂って暴れ回るように、物凄い勢いで立ち向かい、奮闘すること(この場合は火事場の馬鹿力って意味でしょ。全力のトラックを止められるぐらいが精々ねbyあさ)

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