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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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神を殺すことのできる異能

 光のない黒の目が薄らと緋色を混じる。


「……あさ?」


 寝ぼけたような声でサヤは――否、あやは言う。


「サヤが私の中に入ってきて。ねえどうしよう。私もう数え切れない人を……」

「あや!」


 あさはあやを抱きしめる――ように首を絞めた。


「苦し、苦しいってあさ!」

「姉不孝者!」

「すみませ……姉?」

「お願いだから心配かけないでよ。折角あなたの()になれたのに」


 強く言っているがもう力はほとんど残っていないらしく手が乗っているくらいだった。


「……ごめんねあさ。ありがとう」


 あさの背中に手を回す。


「もう勝手にどっか行かないで」

「うん。わかった」


 あ、でも。とあやは付け加える。


「短気なお姉ちゃんはなぁ……いたたたた」


 あさは無言でクローバーの痣を抓った。


「折角の感動無碍(むげ)にすんじゃないわよ」

「えへへ。ごめ……」


 急に目を見開いた後、あやが言葉を途切らせ、あさを(かつ)ぎ走った。その直後に元いた場所をカマイタチが裂く。


「若娘の笑みは眼福と言っても良いものじゃのう」

「梅香」


 動けないあさを庇うようにあやは後ろへやる。


「社長はどこに」

「長ならそこでくたばっておるよ」


 梅香の後ろを見ると里奈とまさが倒れている。


「いくらか手こずった。久しぶりに少し楽しませてもらったのぉ里奈殿」

「ちっ」


 やはり神殺し相手に一般の異能者が勝つことは至難の(わざ)なのだ。


「あさ」

「何?」

「梅香の隙をついてあっち側に行ける?」


 同じ神殺しならば勝てるかもしれないとあやは言っているのだろう。


「大丈夫なの?」

「うん。魔力もサヤの分まであるから」

「わかった」


 あやは胸の前で珠を繰り出す。


「異能・燎原(りょうげん)の火」


 パチパチと珠から火が上がり、梅香の元へ飛んでいった。


「花鳥風月・()(まき)


 火の粉を梅香は軽々しく風で消した。


()(ちょう)


 梅香が花びらに息を吹きかけると金色の蝶が何十何百と二人に襲いかかった。


「黒炎の魂!」


 サヤの力を(たくわ)えたあやが黒炎を纏った竜を操る。


「ふふ」

「あや、燃やしちゃ駄目!」


 梅香が微笑み里奈が叫ぶが竜は一匹残らず蝶を一掃(いっそう)していく。


「サヤの記憶もまだ全てではないのじゃのう」

「え?」


 燃やされた蝶は金粉(きんぷん)となり、あやとあさに降り掛かった。


「何、これ」


 ふらつきながらあさが言う。


「ねむい」

「心配はいらぬ。少し強力な睡眠薬と痺れ薬を(とう)()するだけじゃ」


 あやはまだそれ程効果が出てない為、呼吸を止めた。


「おやおや面白いね。サヤとは全く違うのお」


 余裕そうに梅香は笑いながら更に蝶を増やしては燃やさせていく。


(やばい。そろそろ限界)


 ただ息を止めるだけならまだしも金粉を払う為に動き回れば無呼吸も困難だ。


「そうじゃのう。鳥蝶(ちょうちょう)


 金色の蝶だけでなく(すずめ)のような大きさの鳥が襲いかかってきた。


「!?」


 鳥はあやの腕に飛びかかると緑のスライムになって張りついた。


(あっつ!!)


 皮膚が火傷を負ったように赤く(ただ)れた。


「おや? 衝動で口を開くと思ったが」


 予想より動じないあやに梅香は少なからず驚いた。


「つまらぬ。あやという者がどれ程か確かめてみたかったが」


 鳥と蝶を梅香は消した。


「ケホッケホッ」


 ゼェゼェとあやは肩で息をする。


「あや、平気?」

「それこっちのセリフだよあさ」


 (まぶた)がすぐに落ちてしまいそうなあさを支える。


「隙はあるけどあちらへ行けない。蝶の鱗粉(りんぷん)、鳥の粘膜(ねんまく)、花の蔦」

「そういえば月は?」


 花鳥風月と言えば四つの異能。それでも未だ月だけ出ていない。


「月、月……」

「あや、避けて!」


 あやとは違うマグマのような炎があやの体スレスレを通過した。


「何今の!?」

「ゆか?」

「探偵社……家族……殺す」


 いつの間にか大鎌は床に落ちるほどマグマを纏っており、紫は小さい体をものともせず振り回していた。


「ごめん社長。神様強すぎ」


 雛子を攻撃していないが、紫自身は説得できずアイラを庇うと一緒に傷を負ってしまうのだ。


「さっさと戻んなさいよ。流石に人形の我が儘も限度があるわ」


 一般の異能者の何倍も強い雛子とアイラでさえこうなのである。里奈は立ち上がり辺りを見渡す。


(まさとあさはもう戦わせるのは危険。あやなら互角に行けそうだけど)

「お困りじゃのう里奈殿」

「――っ」


 そうだ。あやは梅香で精一杯だ。


「ふむ。これを招いたのは妾か。あの首輪(・・)も今の状態も。ならば始末も妾の仕事じゃのう」

「何を言って」


 梅香が片手をあげる。


「花鳥風月」


 あやはサヤの記憶を細かく覗く。


「月、月ぃ……」


 一度だけ見たことがあるのだ。旻の姉が殺された時に。


「……あ」


 月の光が梅香の手に集まって。


「ゆか! 逃げて!!」


 思い出したあやが慌てて紫に叫ぶ。


月虹(げっこう)


 白い光線が直線に伸びて、里奈の異能のように眩しく部屋が輝いた。


()ね。神よ」

「え?」


 光線は紫の心臓を貫いて消え去った。

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