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乙女よ。その扉を開け  作者: 雪桃
第三幕
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サヤVSあさ

「まさかあの子がチョーカーを外さないとは思わなかった。想定外」


 と言いながらもサヤは顔色一つ変えずに里奈と向かい合う。


「あやはアンドロイドだと言うこと?」

「半分。私が人工的に作った意識だけど記憶を無くしたからあの子に入っている記憶は純粋」


 サヤがあやのことをどう思っているのか里奈にはわからなかった。今の話で考えるとあやがチョーカーを外さない限りサヤは地上には降りなかった。はずなのに今こうしてサヤは里奈と対峙している。


「ゆかを経由して梅香があなたを見つけたことはわかったわ。でもあなたはその後、ゆかを殺そうとしたわね。それも命令?」


 サヤは頷く。


「地上で殺人はしないんじゃないの?」


 サヤは首を横に振る。


「あやは普通。でもサヤは人殺し」

「なるほどね」


 神は殺すというのが任務だとすれば紫を見つけて即座に殺すというサヤの(こころざし)は褒めるに値するだろう。


「私のことはどう命令されてるの?」


 わからないようでサヤは首を傾げる。


「神殺しにしろと言われている。でもそれは私の仕事じゃない」


 今のところ、里奈はサヤを攻撃しようとは考えていない。それを察知しているからサヤも命令が出ていないことを実行しないのだろう。


「私が攻撃すれば殺しに来るの?」


 サヤは頷く。


「あやを返してと言ったら?」

「返す」

「え?」


 あっさりと了承された里奈は拍子抜けした。


「あやは私が作った理想。だから返して欲しいと言われれば返す。でも今は戻さない方がいい」

「どうして?」


 サヤは数秒何もせず里奈を見つめていた。


「何が」


 最後まで言い切る前に里奈の首に刃物が(かす)められた。


「!?」

「流石は長と言われている者じゃ」

「西園梅香!」


 サヤの方へ向かっていればその刃で首を切っていた。今も少し動けば皮膚が裂けてしまいそうで梅香の方を見れないでいる。


「サヤが上手い演技をするから妾も騙されるところだった。上出来じゃのうサヤ」

「……」


 梅香が笑いながらサヤを褒めてもサヤは無言で里奈を見つめるだけだった。


「くそっ」

「サヤが味方かと思ったかい? 十四年も妾らと同じ境遇だったと言うのに会って二年も経たぬ者を簡単に信じるものか。何の感情が無くとも頭脳は誰にも劣らぬ」

「ぐっ!」

「これでお(ぬし)は何もできぬ。サヤ、やれ」


 梅香が離れても里奈の体は封じられて身動き一つできない。


「異能」


 サヤは里奈に向かって珠を出す。


「黒炎の魂」

「――っ!」


 迫ってくる竜の姿に里奈は目を(つむ)って身構えた。


「……え?」


 だが思っていた痛みは無く、浮遊感が起こる。目の端に映ったのはブロンドの髪で。


「社長、平気?」

「あさ。あなたどうして」


 魔力の反動が人より大きいあさの腕や足が少し震えているのを見るともう大分限界に近いのだろう。後ろを見るとまさも走ってきていた。


「あなた達動けるの?」

「な、何とか。でもあさは」

「平気」


 自分を奮い立たせようとする声であさは言う。まさに手を貸してもらってやっと立っていられるような状態だと言うのに。


「小童が二人増えたか。だが一人はほとんど戦闘不能」


 梅香はそう言いながら命令を待っているサヤの方を見る。


「サヤ、こいつらも消してしまえ」


 頭上で舞っていた竜をサヤは呼び戻す。里奈が二人を逃がそうとした。


「あさ!?」


 そんな里奈をかわし、あさは異能を使ってサヤと目と鼻の先まで近づいた。


獅子(しし)奮迅(ふんじん)


 サヤの腹に膝蹴りを食らわせる。


「ケフッ」


 骨が折れる音がしてサヤは壁に叩きつけられた。


「なっ!」


 梅香が驚きの声を上げる。


「あのサヤより早く異能を繰り出すなどできるわけが」

「できるよ」


 まさが梅香に落ちていた銃を向ける。


「あやを一番知っているのはあさなんだから」


 同じように戸惑っている里奈に目配せをして、援護を頼む。


「まさ、あの子は」

「平気。きっとあさはあやもサヤも返してくれる」

「?」


 里奈は首を傾げながら応戦した。

 サヤは吐き出した血を拭いながらあさと向き合った。体が軋み、痛いという感情がサヤに湧き上がる。


「サヤ」

「……」


 敵とはわかっているもののサヤ自身が話したことも無いあさに名を呼ばれてもどう反応すればいいかわからない。


「その顔だと覚えてないんだ」


 何を。とサヤが首を傾げる前に再度あさが脇腹に蹴りを入れようとした。しかし今度はかわされ、逆に飛ばされる。


「うっ……わ、わかってんのよ。何度もあやと喧嘩して癖も覚えたんだから」


 恐らくサヤにはあまりあやとしての記憶は残っていない。だからこそあさにとっては好都合だった。サヤの隙、殴り方、全てを理解しているあさの方が有利だった。どんな争いでも無傷だったサヤは僅か数分で全身に傷を負っていた。


「ど、どう? 初めての傷は」


 あさもとっくに限界を迎えているに違いない。珠に小さくだがヒビが入り、猫目の光もチカチカと点滅(てんめつ)している。


「……痛い」


 サヤが小さく漏らす。異能をあれだけ使っても未だ珠にヒビすら入っていないと言うのに治癒も使わず血を流している。


「で、思い出したかしら」


 サヤは首を振る。あさはそのことにムッとしてサヤの方へ向かった。


「本・当・に。覚えてないの?」

「……」


 サヤの目が疑問で覆われる。


「私は覚えてるわよ。忘れるわけがない」


 あさはサヤの胸倉を掴み、押し倒した。動けないように馬乗りになる。


「あんたはね。私とぶつかった後に何故か名前を聞いてきたのよ。私が何でって聞いても答えずにただ見つめるだけで。教えてあげるわ。サヤ」

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