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ロワールハイネス号の船鐘  作者: 天柳李海(旧・天竜風雅)
第2話 かけがえのないもの
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2-4 情報収集

 シャインはその日、当直二名とジャーヴィスを船に残し、他の十二名の水兵達を二~三人の組にして、ストームに関する情報を集めるよう指示を出した。

 彼らは主に酒場や宿屋、問屋、市場などへ行かせた。

 シャイン自身は軍港での用事を済ませた後、午後から一人で、商船会社の倉庫が立ち並ぶ商港を歩いていた。

 飾りのない紺の上着とズボン、白いシャツ。大抵三つ編みにして後ろへやっている月影色の金髪は、無造作にひとくくりにされている。

 どこにでもいる若い船乗り、といった感じだ。

 シャインは丁度荷の積み下ろしがすんだ、一隻の貨物船の前で足を止めた。メインマストの旗竿に、赤色で中央に太陽が描かれた旗が風にたなびいている。

 ツヴァイスからもらった資料――海賊ストームの被害に遭った商船会社の一つ――アバディーン商船の船だ。

 かの会社はエルシーア国でも最大手で、年商200億リュールを稼いでいる。

 

 シャインは貨物船へと近づいた。

 乗組員の姿は甲板になかった。積荷のチェックもすんで、きっと中で一息ついているのだろう。船内へ入るためのタラップもひきあげられている。

 船種は三本マストのブリッグ級。エルシーアの貨物船の一般的な型で、近~中距離用だ。船尾のプレートに刻まれている船名はアン=メイリィ号。船齢はざっと十五年といったところか。けっこう古い。だが商船に似つかわしくないものがその上甲板に鎮座していた。

 新品で小型の大砲が5門ずつ、左右両舷にすえつけられている。

「ストーム対策……か?」

 シャインはぽつりとつぶやいた。

「ストーム? そんなんじゃないわよ」

 艶やかな女性の声がした。シャインは辺りを見回したが人の気配はない。

「こっち、こっちよ」

 それは貨物船の方から聞こえてくる。声に誘われるように船首の方へ近づくと、一人の女性が手すりから身を乗り出して、手招きをしていた。

 長い茶色の巻き毛が、露わな両肩の上にこぼれ、ややつり目がちの黒い瞳が、やさしげな光をたたえてこちらを見つめている。肌は色白ではないが、きめが細かくつやつやしていた。年頃は三十代前半ぐらい。顔立ちは上品でどことなく高貴な感じがする。シンプルなクリーム色のドレスに、緋色のストールを羽織っている。彼女は、この商船の船長の奥方だろうか。

 いや、違う。

 この雰囲気はよく知っている――。

 彼女の姿を通してその背後にあるマストが透けて見える。


「今日は、レイディ……アン=メイリィ。お目にかかれて光栄です」

 シャインは彼女に向かって会釈した。

「ふふふ……その船名、嫌いなの。メリィって、呼んで下さる? 驚いたわ。私に気付く人間がいたなんて」

 シャインは肩を竦め人なつっこい微笑を浮かべた。

「よく他の精霊レイディたちにも言われます。大変、幸せなことに」

 船の精霊、メリィはふふふ、と笑った。まるで、太陽のような笑みだ。見る者の心を温めるような。

「あなた、お名前は? 船は持っているの? 当然船乗りよね。私が見えるんだから。私達が見える人間は、船乗りが天職よ」

「シャインと申します。船はスクーナーに乗ってます。海軍のですけどね」


 途端メリィの顔が曇った。シャインは笑みを絶やさなかったが、何か、気に障るようなことを言ったかと不安を覚えた。船の精霊の機嫌は山の天気と同じだ。

 くるくる、その表情が変わる。しかし誠意を持っていれば、彼女は無闇やたらと怒りはしない。人の心を読む彼女を欺こうとしなければ。

「はぁ~軍艦乗りか~。私、軍艦の連中って、あんまり好きじゃないのよね。人も船も。特に、船の精霊はお高くとまっているのが多いのよ。ホントに」

 思わずシャインは、メリィのいうことに深くうなずいてしまった。

 確かにそんな気がする。

 シャインは子供の頃から入り浸っていた造船所のことを思い出した。

 修理や船体の整備のためにドック入りした船の中には、船の精霊レイディが宿っているものもあった。

 彼女たちはシャインが子供だからという理由で、話しかけてもあっさりと袖にされることが多かった。


 

「メリィさん。そういえばさっき、この大砲はストーム対策じゃないって、おっしゃってましたよね?」

「あらあら、あなた、船から海賊の情報を集めているの?」

 図星だ。言い訳するつもりもないが。シャインは申し訳なさそうに頭をかいた。

「失礼なのはわかっています。ですが、今はどんな情報でも欲しいので……」

 くすくす。メリィが笑った。シルフィードなら、どんなに断られてもお茶に誘うだろう……魅惑的な笑みだ。

「いいのよ、気にしないで。あなた……シャインっておっしゃったわね。ストームのことを話してあげてもいいけど、奴のことは、他の船がジェミナ・クラス港を出て、しばらくしてから襲われた、ってことぐらいしか知らないのよ。でも気を付けて。エルシーアにもっと、恐ろしい連中がやってくるみたい」

「……恐ろしい連中?」

 胸騒ぎがした。

「あくまでも、噂なんだけどね。エルシーア海の東の方で、怪し気な船団がいるのを見たって、最近聞くの。だから、会社も各船に大砲をつけたみたいなのよ。うちって、東方連国へ定期便があるから」


 やはり東、か……。

 ツヴァイスは言わなかったが、ジャーヴィスがこんなことを言っていた。

 海賊拿捕専門艦隊・通称『ノーブルブルー』が、ツヴァイスのウインガード号を除いて三隻、遠征に出ていると海軍月報に載っていたとか。

「ごめんなさい、かえって、困らせちゃったかしら?」

 メリィの声にシャインははっと我に返った。彼女が不安そうにこちらを見ている。

「いえ、貴重な情報をありがとうございました」

 メリィは船首の手すりから、こちらを見下ろして話しかけていたが、おもむろにそれを乗り越えると、シャインの隣へ優雅に舞い降りた。


「私も久々に、あなたのような人とお話しできて楽しかったわ。でも、シャイン、いくら仕事とはいえ、自分の船以外の精霊と、あんまり仲良くしては駄目よ。船の精霊っていうのは、自分で言うのはなんだけど、本当に嫉妬深いのが多いから。せっかく築いた信頼も、そりゃ一瞬でふきとんじゃうんだから」

 メリィは結構世話焼きな精霊のようだ。まるで、本当の姉のように接してくる。

 シャインはふと疑問を感じた。


「どうして俺の船に、精霊レイディがいるとわかるんですか?」

「それはわかるわ。気配で」

「気配――ですか」

 シャインは思わず海上へ視線を向けた。

 ロワールハイネス号は軍港から商港へと移動させてあるが、ここから徒歩では三十分かかる。しかも目の前にせり出した崖の裏側で錨泊しているので、視認することは不可能なのだ。

「私達はかなり離れていても、その存在を知ることができる。試みれば会話もできる。相手が応じてくれたら、だけど」

 シャインの戸惑いを察したメリィが、微笑みながら口を開く。

「でも――」

 彼女の笑みがふと曇った。

「どうかなさいましたか?」

「そうね。あなたの船の精霊だけど――ちょっと、違うのよね」

「違うって……ロワールが何か、違うんですか?」

 メリィは腕を組んで小首を傾げた。

 伏せた睫毛の下で黒目がちの瞳が細められる。


「あの娘は――そう、私達よりもずっと『人間』に近いわ。まるで、何か理由があって『船の精霊レイディ』として『船鐘』に縛られているような気がする」

「それは――本当なんですか?」

 メリィが美しい顔を上げた。

 シャインを見つめる視線には確信という強い意思がはっきりと表示されている。

「あら。それはあなただって気付いていたんじゃない?」


 気付くも何も――。

 ロワールと初めてアイル号の甲板で出会った時は、彼女が『船の精霊レイディ』だと思ったのだ。

 でも、ロワールハイネス号の甲板で彼女と再会した時、薄々感じていはいたのだ。

「ええ。わかってはいました。だって、彼女が本当に『船の精霊レイディ』だったのなら。彼女が今、存在するのはおかしいですから」

 シャインは大きく息を吐いた。

「彼女がいた船――アイル号は喫水線の下に砲撃を受けて、アスラトルの港に着いてから沈没したんです。だから――船体を失った『船の精霊レイディ』は、消滅してしまう……」


 それきり言葉を失ったシャインは、ふっとあたたかい気配に包まれるのを感じた。

「その通りよ。私達は船体を失ったら存在する事ができない。だからあの娘は、『船の精霊レイディ』ではない。ただ、そうなってしまっただけの存在……」

「しかし彼女は……!」

 シャインは顔を上げた。

「ロワールは――『俺の』ロワールハイネス号にいるんです」

「そうね。それが彼女にとって、唯一の『幸い』なのかもしれないわ」

 メリィのしなやかな指がそっとシャインの頬に触れた。

「ごめんなさい。私にも彼女のことはよくわからない。でも、彼女がもしも『船の精霊レイディ』を模した存在ならあなたの『想い』があるかぎり大丈夫。私たちが生まれる理由わけを、あなたは知っているわよね?」

「……」

 シャインは無言でうなずいた。

 船の精霊レイディはどの船にもいるわけではない。

 その船に乗る人々の『想い』が具現化した存在なのだ。

 幻ではなく、本当に――。


「メリィさん。すみません、いろいろとありがとうございました。少しだけ、今後彼女とどう向き合えばいいのか、わかったような気がします」

 メリィがほほほと声をたてて笑った。

「お姉さんの人生相談をまた受けたくなったら、いつでも来て頂戴。あなたのような若くて綺麗な艦長さんの頼みを無下にする船の精霊レイディはいないから」

「ありがとう、ございます」

 シャインは前髪に手をやり、唇を引きつらせながら微笑した。

 船の精霊レイディは人の心を読む。

 シャインの素性は彼女にすっかり筒抜けだったようだ。


「あ、そうそう。海賊のことで思い出したわ」

「えっ?」

「あまりおすすめはできないんだけど。海賊相手の酒場がルシータ通りにあるのよ。だけどあそこはジェミナ・クラスでも特別危険な場所だから、もしも行くときは気をつけてね」

「メリィさん。すみません、助かります」

「それじゃ、あなたに情報料を頂かなくっちゃ」

 メリィはしなやかなで美しい右手を上げてシャインへと差し出した。

 シャインは彼女の手を取ると、身を屈めて軽く唇を当てた。

「ご協力いただきましてありがとうございます」

「ふふ……私も会話ができるひとと出会えて楽しかったわ。また私を見かけたら立ち寄って下さる?」

 シャインはメリィの言葉に頷きながら答えた。

「きっと」

「じゃあね」

 メリィは艶やかな唇に笑みを浮かべるとふわりと飛びあがり、再び船首甲板に降り立った。

 シャインは片手を上げてメリィに別れを告げると、次の目的地に向かって歩き出した。



 ◇◇◇



 日もすっかり落ちた19時ごろ。

 商港には停泊中を示す船の照明の白い光が、ぽつぽつと灯っている。

 その船の間をぬってシャインは、港湾事務所から拝借してきた小船をロワールハイネス号の船体へそっと寄せた。

「17時30分帰艦の命令だぞ、何をしていた!」

 副長ジャーヴィスが舷門(船中央にある出入口)で仁王立ちして怒っている。

「すまない、すっかり話し込んじゃって……」

 その声にぎょっとしたジャーヴィスは、甲板に上がってきたシャインに慌てて塞いでいた場所を譲った。


「艦長すみません。てっきり、シルフィード達かと思ったので」

「いいんだ。俺も遅くなっちゃったし。そうか、まだ帰ってきていないのか」

 シャインは当直をしていた若い水兵に、小船を船尾に回しておくよう頼むと、薄暗い甲板を歩き出した。その後をジャーヴィスが追う。

 シャインの足は甲板の障害物を平然と避けてゆく。どこに何があるのか体で覚えてしまっている。

 ふとシャインは足を止めた。

「戻ってきていないのは、シルフィードと、エリックと、スレインだよね」

「は、はい。どうせ、あのお調子者のシルフィードのことです。きっと酒場で飲んだくれているに違いない! これから行って連れ戻してきます」

「ああ、彼らはいいんだ」

「……はぁ?」


 ジャーヴィスが何事か、理由を尋ねようとしたときだった。

 水をかくオールの音が聞こえた。船体にどすんと何かが当たる鈍い音がしたかと思うと、シャインは思いきり顔をしかめた。

「酔ってることは確かだ。船にぶつけたのは感心しないがね」

 甲板に三人の水夫が上がってきていた。停泊灯に照らされたその姿は、間違いなく、シルフィード航海長達だった。

 例の筋肉を強調する服――海賊ルックに身を包んだ航海長は、ジャーヴィスの突き刺すような視線にたじろぎながら、シャインの元へやってきた。

 つんと安酒のにおいが鼻に付く。ほろ酔い程度に飲んでいるらしい。

 見る間にジャーヴィスの眉間の縦ジワが深くなった。

「飲みすぎだ」

「ご苦労様。首尾はどうだったかい?」

 シャインはジャーヴィスを遮り、シルフィードに話しかけた。

 シルフィードは少し疲れている様子だったが、白い歯を見せて、にやりといつもの笑みを返した。後ろにいるエリックとスレインも、同じように微笑している。

 エリックは細身の二十代の青年で、ちょっとチンピラ風を装っている。

 一方スレインは、シルフィードのような筋肉質の体型で、ヒゲ面のイカツイ大男だ。

「取りあえずめぼしい酒場や市場で、海賊ジャヴィールのことを、あることないこと話してきました。しかし……」

 シルフィードは冴えない表情で言葉を続けた。

「どの酒場もおかの人間ばかりで、海賊が出入りしている様子はありませんでしたぜ。海賊ストームという名前も、知っている人間はいませんでした」

「ありがとう。じゃ、後で報告書を出してくれ」

「了解しました」

「あ、そうだシルフィード」

 シャインはスレイン達と共に下甲板へ行こうとしたシルフィードを呼び止めた。


「なんでしょうか」

「君の出身は確か、ジェミナ・クラスだったね」

 大男はこくりと頷いた。

「ええ。十二才まで水先案内で生計を立ててました。ジェミナ・クラス港のことなら、何でも聞いて下さい」

 シャインはシルフィードを見上げた。

 彼はロワールハイネス号の水兵の中で一番背が高いのだ。

「ルシータ通りを知っているかい? あそこに海賊達が出入りしている酒場があるらしいんだ」

「ル……ルシータ通りですって!?」

 シルフィードの緑の垂れ目が驚きのあまり大きく見開かれた。

「ちょっと危険な所らしいが、明日行ってみて様子を探ってこようと思うんだ。場所を教えて――」

「グラヴェール艦長! 駄目ですって!! あんた、命取られますぜ!」

 シルフィードが温和な表情を豹変させて叫んだ。

「あそこは――盗人や殺人、強盗に海賊――脛に傷を持つ連中が、真昼間からうろついているんですぜ。まっとうな住人なら決して足を踏み入れない所なんです! まさかと思いますが、軍服なんか着てあの通りに入ったら……」

 シルフィードが右手でナイフを握り、突き刺す仕草をした。

「夜明けのジェミナ・クラス港に、あなたの死体が浮ぶことになりやすぜ」

「……」

 シャインは両腕を組んだ。

 シルフィードが脅かそうとして言っているわけではないということは理解している。


「そうか。教えてくれてありがとう。ルシータ通りへ行くことは見送った方がよさそうだね」

「見送るって――艦長、絶対一人では行かないで下さい! ホントに命の保証ができねぇんですからね」

 シャインは頷いた。

「今夜の所は、皆が集めてくれた情報を整理することにする。じゃシルフィード、早速報告書を書いてくれ」

「わ、わかりました」

 すっかりほろ酔い気分が覚めてしまったシルフィードは、右手を額に軽く当ててシャインに挨拶すると、下甲板へと降りて行った。



「グラヴェール艦長」

 シルフィードが立ち去ると同時に、沈黙を守っていたジャーヴィスが口を開いた。

「なんだい?」

 ジャーヴィスの顔も先程よりずっと青ざめていた。夜の闇のせいではなく。

「シルフィードの言ったことは本当です。私も噂程度しか知りませんが、ルシータ通りに間違って入ってしまった住人が行方不明になる事件は、いくつか聞いたことがあります」

「わかった。ルシータ通りでの情報収集はやめておく」

 ジャーヴィスが大きく息を吐いた。

「そうしていただいた方が賢明です。不要な危険に身を晒すことは愚者のやることです」

「それは……俺の事かい?」

「あなた以外に誰がいますか? いいですか、艦長」

 ジャーヴィスは普段の高飛車な彼らしくなく、心からシャインの身を案じているようだった。


「副長の立場でこんなことを申し上げるのは間違っていると先に謝罪します。ですが、それでも一言言わせて下さい」

 シャインは頷いた。

「許可する」

「ありがとうございます」

 礼を述べたジャーヴィスは押し殺した声で呟いた。

「今回の任務はおかしいです。何故、後方支援の我々が、海賊を捕らえる命令を受けなければならないのですか? しかも命令者はツヴァイス司令官だそうですね。我々はアスラトル軍港に属します。特別なことがない限り、彼から命令を受ける義理は全くありません」

「……」

 シャインはジャーヴィスの言う事に沈黙で返した。

 そう。すべて彼の言う通りだ。

 ツヴァイスの命令を受けたのは、シャイン個人の一存だ。

 あの『船鐘』について知りたいことがある。それを教えてもらう見返りに――。


「――君の言う事は尤もだ。ただ、アスラトルの発令部の許可は下りている。ツヴァイス司令直々の依頼で、ジェミナ・クラスの人員では人手が足りないと言う事で協力の要請を受けた。俺には断る理由がなかった。それだけだよ」

 シャインはジャーヴィスの脇を通り抜けた。

「皆の報告書は部屋に置いてくれているんだろうね?」

「――はい。しかし、艦長――」

「話は以上だ。俺は部屋に戻る」

 シャインは無言で足を進めた。


 ジャーヴィスは何を気にしているのだろう。

 ツヴァイスは海軍内でアドビス・グラヴェールと犬猿の仲であるということぐらいしかマイナスイメージはない。

 寧ろ、ツヴァイスはアドビスに継ぐ実力者でもある。四十になったばかりの最年少の中将で、しかも大型軍艦を四隻擁する「海賊拿捕専用艦隊ノーブルブルー」の艦隊司令官でもある。

 シャイン自身もツヴァイスに会うまでその人柄は良く知らなかったが、今回の命令について不審な点は感じられなかった。寧ろエルシーアの国益のために、彼は海賊の情報を独自に集めて、自らの職責を果たそうとしている。


 やはり、原因はアレだろうか。

 アレに違いないだろうな。

 ジャーヴィスは『海賊ジャヴィール』を演じるのが嫌なんだろうと思う。


 艦長室に戻り、シャインは応接用の長椅子に腰を下ろした。

 行儀が悪いが机に脚を投げ出す。

 今日は丸一日歩いて過ごした。椅子に座ると立つのが億劫になるほど倦怠感を覚えた。

「さてと。折角皆が集めてくれた情報を精査しないとな」

 シャインは長椅子から立ち上がると、ちらりと執務机を一瞥した。

 そこにはジャーヴィスが用意してくれた紙の束が置いてある。

 今夜は長い夜になりそうだ。

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