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ロワールハイネス号の船鐘  作者: 天柳李海(旧・天竜風雅)
第5話 Judgment Day
254/332

5-30 光明


 ◇◇◇



 きっと落ちる先に底はない。

 どこまでもどこまでも深淵は続く。

 視界を取り巻く闇は濃さを増して、俺の存在すらも消し去ろうとしている。


 ならば消えてしまえば良い。

 自分一人がいなくなっても世界はそこにあり続けるから。

 何も変わらずあり続ける。

 だから、消えるのは自分だけでいい。

 全ての罪と柵を身の内に抱えて、あの闇の底に沈んでしまえば良い。

 そう――思った。


 けれど闇しか感じられない空間の中で、小さな小さな星が瞬いていることに気がついた。

 真昼の空にも星は出ている。

 強烈な太陽の光のせいでそれは見えなくなっているけれど。

 強すぎる光の中で弱い星の光はかき消されてしまうことを、俺は――いや、みんなそれを普段から意識する事はない。

 けれど深い闇の中に覆われた今、その輝きは太陽のように明瞭な光として足元を照らしている。


 気付かなかった。

 自分の心が何を本当に望んでいたのかを。


 当たり前すぎて、俺にとって自覚がほとんどなかった――つまり、太陽の光にかき消される真昼の星のように、それを意識をすることがなかったのだ。


『生きるのが辛いのなら、誰かを生かすためにその命を役立てろ。お前の思う大切な者の幸いのために生きろ』


 俺の足元を照らした一筋の弱い光明。

 俺は今、それを辿り始めた。

 いつかこの暗闇を、自らの力で振り払う大きな光となる事を信じて。






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