5-30 光明
◇◇◇
きっと落ちる先に底はない。
どこまでもどこまでも深淵は続く。
視界を取り巻く闇は濃さを増して、俺の存在すらも消し去ろうとしている。
ならば消えてしまえば良い。
自分一人がいなくなっても世界はそこにあり続けるから。
何も変わらずあり続ける。
だから、消えるのは自分だけでいい。
全ての罪と柵を身の内に抱えて、あの闇の底に沈んでしまえば良い。
そう――思った。
けれど闇しか感じられない空間の中で、小さな小さな星が瞬いていることに気がついた。
真昼の空にも星は出ている。
強烈な太陽の光のせいでそれは見えなくなっているけれど。
強すぎる光の中で弱い星の光はかき消されてしまうことを、俺は――いや、みんなそれを普段から意識する事はない。
けれど深い闇の中に覆われた今、その輝きは太陽のように明瞭な光として足元を照らしている。
気付かなかった。
自分の心が何を本当に望んでいたのかを。
当たり前すぎて、俺にとって自覚がほとんどなかった――つまり、太陽の光にかき消される真昼の星のように、それを意識をすることがなかったのだ。
『生きるのが辛いのなら、誰かを生かすためにその命を役立てろ。お前の思う大切な者の幸いのために生きろ』
俺の足元を照らした一筋の弱い光明。
俺は今、それを辿り始めた。
いつかこの暗闇を、自らの力で振り払う大きな光となる事を信じて。




