防衛
そういえばカイルのおっちゃんと生け贄二人には別の表示があることに気がつく。
読者の一部はクトゥルフ神話と聞いて天羽が急に召喚され動じなかったり発狂しなかった理由を分かってしまっているかもしれない。
ここでその説明をしよう。
カイルのおっちゃんと生け贄二人のHPMP表記の下にSANという表記がありSanity正気度の略なのである。
これが0になるか一定数値を下回ったり大きく減ることにより驚き、狼狽し、終いには発狂して廃人になってしまうのである。
そして自分にはこの表記がなく大抵のことには動じない理由が説明書のコミカルな絵の吹き出しに大して大事でもない感じに、
"契約書にないけどサービスとして発狂しないようにしといたよ☆"
といった小さな吹き出しに書き込まれているのである。
ダンディーなおっさんの皮を被ったニャルラトテップは契約書に書き損じを直すのが面倒だからと説明書に手書きで加えたのであろう。
明らかに鉛筆で書いた後が残っている。
「魔術顧問様!グールがやって来ました!」
民兵による急報が届く。
まだ太陽の傾き具合が夕焼け手前というところでの急襲である。
「天羽様 この街は一周全て城壁で囲まれており入り口は一つなのでそこに向かいます。」
「分かった、急ごう」
普通襲ってくるって夜とか深夜じゃないのか
こんな夕暮れ前に襲ってくるだなんておかしい
城門についた頃には門も閉じてあり上から大きめの岩を落として対応していた。
下を覗き込むとグールが二十体ほどで見た目が明るいのもまして非常に鮮明に見て取れる。
頭が半分潰れ脳が飛び出ているもの、槍か何かで刺され穴だらけになった皮膚からウジが湧いており白くモゾモゾとしたものが穴周部にくっついてるように見えるもの、足の一部が削げ落ち骨が見えているようなグールもいる。
悔しいが発狂しないようニャルラトテップにサービスしてもらわなければこの時点で発狂し部屋の片隅で震えていただろう。
現に正規兵と言えど顔色が真っ青の者や見慣れたからか怒号を浴びせつつ岩を落としている者もいる。
グールとゾンビの違う点は移動速度が早く集団行動を行い指揮系統がある。
そんなグールが昨日百体ほどで攻めてきたといったのに二十体程で再び同じ場所に攻める光景に天羽は違和感を感じていた。
「カイルさん、入り口は本当にここだけなのか?」
「大して大きくない城下なので城外への抜け道など存在していません、なのでここしか出入り口がないはずです。」
考えろ俺、グールは知能がありこんな無駄なことはしないはずだ
そもそもなぜこんな時間に攻めてきたんだ
このタイミングで急襲を仕掛ける理由といったら何か大きな変化がありそれに勝機を感じ取った場合ぐらいしか・・・あっ!
「もしやカイルさん、訓練場の壁の外って・・・」
「っ! あの崩れた壁からなら侵入が容易です!」
「急ぎ向かいましょう!」
天羽とカイルは上壁伝いに急行したが訓練場を上から見ると既に手遅れであり見渡す限りグールの集団が侵入してきていた。
幸い訓練場と城壁の上へ繋がる階段もなく訓練場からの出入り口は一本であった。
おまけに通路が一直線になっており通路に面している扉さえ塞いでいまえばグールといえども石壁を破壊するほどの腕力もなくアトラクションに並ぶ列みたいなものである。
「カイルさん 中央通路から訓練場に続く通路にグールを集めることは可能か?」
「我が兵団を舐めてもらっては困ります、 兵士長! 通路にグールを固めてくれ!」
通路の先端で身の丈より大きい盾を三人それぞれ支え通路を封鎖し横の扉も同じ要領で封鎖していた。
これで舞台は整った
だが俺のMPは残り25でイレイザーは75も消費してしまう
それにあれは一直線に放つ技だ
しかしイメージにより呪文は発動すると書いていた
イメージ次第で変幻自在ということにしよう、そでもなけりゃどうにもならねぇ
一か八か、英雄ヒーローってこんな気持ちで戦うものなのか
今まで碌な事はなかったがこれからは俺が主人公になれる気がする
俺はこの世界で英雄ヒーローになりたい!
「兵隊さん開けてくれ!今日から俺がヒーローだ!」
兵士は道を開けグールがそこに押し寄せてきたと同時に、
「イレイザー!」
訓練所と変わってゾンビ映画でみたレーザーの網でサイコロ状にするシーンをイメージしイレイザーを放つと見事に網目上のイレイザーを放つことに成功した。
みるみるうちにそれはグールの集団を通過していき通路を超えて訓練場まで伸びた。
そこで爆発もせずフッっとレーザー線は消え失せグール達が前進してくるように見えた。
そこで天羽の意識は途絶えた。
くそったれ、やはり欲を出すと碌なこ・・・と・・・が・・・・・・