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I,solation  作者: 0
2/3

Two,Resistance

疲れた……。

今回はもっと格好いいキャラが登場します。

こいつのために俺は疲れたんだ……。

フィッシュなんか調べたらだめよ、ゼッタイ。

 名も知らぬ男が目標の男に胸郭を撃ち抜かれ、返り討ちにあってから五分が経過していた。


 メリッサは涙を拭い、これからどうするかを思案しているようだ。


 メリッサの目元にはまだ泣いた跡が残ってはいるが、さすがは刑事といったところか、真剣な面持ちに戻っている。この女性は芯が強いらしい。刑事としても、これから始まる予感のする戦いに向けても、それは素晴らしい才能だった。


 まずは、この施設の脱出が目標となる。先程呟いた言葉はあながち間違ってはいないかもしれない。


 襲撃の理由は自らの計画が同等の狂人の助けによって失敗することを恐れたからである、というのが私の気に入っている理由だ。それならばここはスプラッターハウスのようになるのだろうが、そこに転がる死体はここに収容中の狂人だけのものとはいかないだろう。


 というのも、ここに収容されている狂人達は勿論私と同じか、それ以上には狂人で、中には私とはくらべものにならない大罪を犯した者もいる。ライフルを持った兵士程度の襲撃で死ぬのは四分の一が良いところだろう。


 聞こえた悲鳴も、襲撃者が惨殺された悲鳴の方が多いのではないか、という疑念は浮かぶが、それはじきに分かるだろう。襲撃者の方も、この程度でこの施設を制圧できるとは思ってはいるまい。


 攻める側のセオリーとして、守る側の二倍以上の戦力が望ましいというデータがある。私の見積もりでは襲撃者はこの施設の収容人数の約三倍といったところだろうか。こんな警備の厳重なトラップハウスに襲撃とは難儀だが、警備システムの事も対処済みだろう。停電が起こったのはシステムダウンの為と見るべきだ。


 だが、廊下の処刑者の方は完全に自立しているので、システムをダウンしても意味は無い。更に、ジャミングしようにも、通信機器は一切使用しておらず、遠隔操作ようのポートも無い。しかも、センサーは動体、赤外線、超音波の三つで、どれか一つでも遮断されるとクレイモアのように搭載している弾薬を全方位にまき散らす。


 コストや交換効率を度外視してはいるが、そのくらい理不尽で容赦がない方が脱走者及び侵入者排除のためには効率が良いのかもしれない。システムさえダウンさせれば処刑者以外の脅威は無くなる。


 しかし、一つ不審な点がある。


 面会者用の卵は一つしかない。ならば、どうやって他の部屋を襲撃したのだろう。処刑者の動きを停止せるには、最低でも無反動砲並の威力を要する。爆弾以外で破壊しても、処刑者の方が爆発するのだから必ず爆発音は聞こえるはずだ。では、どうやって。


 臨時点検用緊急停止番号。


 それしかない。これは、月に一度の警備システム点検のために使われる処刑者の停止コードだ。サーバールームから入力し、強制的に、かつ安全に、全ての処刑者の回路を遮断する。処刑者の回路に酸を流し込んで、爆破用回路すら処刑者が知覚する前に使用不可能にする。これしか方法は無い。


 この番号はサンスターしか知らないはずだ。サンスターは向こうの側の人間か。


 サンスターはある野望を持っていると前に聞いた。それが引っかかって仕方がないのだ。もしかしたらサンスターは、その野望のために施設の襲撃に手を貸したのではないのだろうか。利害が一致したとすれば、十分に有り得る。サンスターはどこまでも自分の利益を追求する男だ。


 ではどのような目的で襲撃を、という思考はそこに至る前に停止させることにした。今はそれを考えている時間が無い。


 システムが落ちたということは、今現在私たちはこの施設に閉じ込められていることになる。この施設の扉は電子ロックで、システムがダウンした場合はシステムを復旧させるか、破壊するかしかない。


 となると、まずはシステムを復旧させるためにサーバールームに向かうしかない。これまで考えていたことをメリッサに話すと、唖然としていた。中でも、今の襲撃で四分の一しか死んでいないという予想に驚いたらしい。


「ねぇ、ここに収容されてる人達ってみんなあなたみたいなの?」


「どういう意味だ」と、質問の意味を捉え兼ねた私は尋ねる。


「だから、あなたみたいにこんな状況を楽しんだりするの?」


 そこで私は、自分の口角が無意識の内に吊り上がっていることに気が付く。私はどうやらシリアルキラーと同じような性質も持ち合わせているらしい。

「私でもましな方だ。ここにいる大部分がシリアルキラーだからな。第一、この場所でまともなのが君くらいだというのを忘れない方がいい」


 メリッサは頭を押さえた。どうも今更な事実に直面していることに頭痛を覚えるらしい。


 私たちの装備はメリッサが自分のリボルバー、私は襲撃者のライフルだ。他にも、襲撃者から奪ったナイフや、グレネードもある。防弾ベストはメリッサに着せようかとも思ったが、マグナムが貫通する程度で、何より血に塗れていたのでやめた。メリッサは予備の弾薬が無いらしく、残り三発。どうやら私が守っていかなければならないらしい。


 ここで、狂人でも女性は守るのか、と思ったならそれは心外だ。これは私のポリシーでもあるし、なにより私は何度も言うがこの施設の中ではましな方で、理性というものが欠如しているようなシリアルキラーではない。


 狂人には二種類ある、というのが私の理論だ。


 一つはなにも考えずに行動する、自らの欲望の赴くままに、欲求を満たすためだけに罪を犯すような者。これは快楽殺人犯やシリアルキラーが当てはまる。


 もう一つは思考犯罪者と呼ばれる部類だ。勿論、私もそこに入る。私はこの思考犯罪という呼び方を気に入っている。ジョージ・オーウェルの「1984」からなのだが、この小説の一節、「思考犯罪は死を伴わない。思考犯罪が即ち死なのだ」に深く感銘を受け、この呼び方を使っている。


 この施設の収容者の内六〇%が前者の人物になる。できればこのような人物とは接触せずにこの施設から脱出したい。


 その前に、協力を仰ぎたい人物がいる。


 二種類の狂人の特徴を両方兼ね備えた人物。その特異性ゆえに堅牢な部屋にたった一人閉じ込められ、この施設の中で唯一サンスター以外の面会を禁じられた人物。この存在は一部の人物しか知らない。恐らく襲撃者の手も届いていないだろう。


 満月の狂人(グレイマン)


 皮肉にもアメリカ史上最悪の殺人鬼、アルバート・フィッシュと同じ呼び名ではあるが、勿論グレイマンはフィッシュとは違い人肉をシチューにいれて食べたりもしなければ陰茎に釘を打ち込むような性癖も無い。ただ、本名がアルバート・ワーサムであることから、同じような狂人としてグレイマンと呼ばれている。グレイマンはこの呼び名を嫌っているらしい。


 グレイマンはフィッシュとは部類が異なるのだが、十分に常軌を逸脱しているらしい。話したことはないのでどんな人物かはわからないが、様々な噂が囁かれている。


 噂の独り歩きかもしれないが、グレイマンは世界一人を殺した男と言われている。


 都市伝説的な逸話を持つ人物であり、私以上に狂人であるグレイマンを解放することに勿論メリッサは全力で抗議したが、最後には私の説得で折れた。


 普通なら関わりたくない相手ではあるが、これから始まるであろう第二のカリギュラとの戦いでグレイマンの思考力は大きな助けになるだろう。グレイマンの頭の良さはサンスターの折り紙つきだ。それに、もしも相手のカードになれば勝率は大幅に下がる。このゲームはもう始まっていて、どれだけ良いカードを手に入れるかがカギになるのだ。


 グレイマンの部屋の場所は知っている。前にサンスターが施設の見取り図を見せてくれた時に教えてくれたのだ。


「これほどの要塞を抜け出せるような奴は、大歓迎なんだがね……」


 私に見取り図を見せてもいいのか、という問いに、サンスターはこう答えた。


 

 私が先導しながら、廊下に出た。とりあえず周囲のクリアリングを済ませ、安全を確認した後にメリッサに合図を送る。メリッサは恐る恐るだがリボルバーでしっかりポイントしながら廊下にでてきた。一応訓練は受けているのだろう。


 やはり廊下には脱走してしまった殺人鬼やらシリアルキラーやらが徘徊している。できればそういう輩とは交戦したくない。私達はそのような輩と遭遇しないよう、慎重に道を選びながらグレイマンの部屋を目指しながら進んでいく。


 ダブルアクションの引き金をメリッサのような女性が咄嗟に引けるのか、という質問には答え兼ねる。そこが私の不安点だ。周りをポイントする動作に迷いはないが、どこか頼りない。


 まあしかし、普通の女性ならこんな短時間で回復はしないだろう。もしかしたらこの状況に頭が追い付いていないのかも知れない。それなら、かなりまずい状況だ。


 恐らく彼女は今、アドレナリンの力でかろうじてこの状況下で活動している。となると、アドレナリンが切れれば精神崩壊やPTSDに陥る可能性がある。できるだけ早く脱出しなければメリッサが危険だ。ならば、精神負荷を軽くするためには余計に交戦――というより殺害――をしてはならない。


 と、考えている最中だった。曲がり角でナイフを持った殺人鬼と鉢合わせした。最悪のパターンではない。だが、殺害をしてはなるまいという思考と、感覚の鈍りが判断を遅らせた。


 左腕に鋭い痛みを感じた。だが、痛みを知覚する前に、体は動いている。


 そこから先は、本能だった。ごく自然に、私の突き出したナイフが相手の腹に収まり、自然な流れで喉笛を掻っ捌く。


 ふと我に返った時にはもう遅く、横たわる骸を無感動に眺めるメリッサの姿があった。


 メリッサは反応しなかった。恐らく感情が飽和していたのだろう。この極限の状況下で、どうにかならないのは私のような狂人だけなのだということを思い知らされた。


 ただ、左腕の切り傷だけが、痛みを主張し続けている。


「ありがとう。さあ、先に進みましょう」


 ありがとう。その言葉があまりにも重かった。ふとみると、メリッサの頬には一筋、涙が流れていることに気が付く。


 この時だった。この女性を支えているのがアドレナリンなんかではなく、強靭な精神だということが。


 メリッサは、恐怖で泣いているわけではない。一人の殺害、それが狂人の死であったとしても、尊い一つの命として受け取っているのだろう。私は直感でそう感じた。


 私には、いや、常人には無い才能であり価値観なのかもしれない。他人の死をここまで悲しむことができるのは。


 メリッサに、私はどう見えているのだろう。本能で、ごく自然な流れの一環で命を奪った私が。



 やっとグレイマンの部屋の前に着いた。


 グレイマンの部屋に行くためには、船の水密扉のような分厚い防音性の扉を通らなければならない。その先に、グレイマンの部屋の扉がある。


 私は部屋の扉の横にある通話ボタンを押した。


「グレイマン、力を貸して欲しい」


「カリギュラがここまで失礼な奴とはな。まず名乗るべきじゃないのか」


 声からして、四十代ほどの男だろうか。気怠そうな声が返ってきた。


「なんだ、私だと分かってるじゃないか」


「訪問される側には相手を知る権利ぐらいあっても当然だと思うがね、俺は」


 あと、とグレイマンは付け加える。


「俺はその呼び方が嫌いだ。なんで本名が同じなだけであの変態と同じ呼び方をされにゃならんのだ」


 それはもっともだ、ワーサム。私は苦笑交じりに答える。


「で、なんのようだ。通り名しかないお前さんが何の用事だ。まさか、外に出ろとでも?嫌だぞ、こんな騒がしい時には」


「満更でもなさそうな声色だが?」


 笑い声が漏れて聞こえる。私とワーサムは波長が合いそうだ。


「だが、そのまさかだ。脱出と、これから始まる戦いに力を貸して欲しい」


「随分と不親切なんだな。第二のカリギュラとの戦い、とでも説明してくれよ」


「なんで知ってるんだ」


「あんたもここの住民なら分かるだろう?欲しい物は可能なら与えられる。俺は監視カメラの映像と音声データをこの部屋から閲覧できるんだ。おっと、システムダウンは関係ない。監視カメラは俺の操作で完全に独立してる」


 それで、とワーサムは続ける。どうやってこの部屋から俺を出すつもりだ、と。


「お前の部屋は広いか」


「何だって?」


 さすがのワーサムでも私のしようとしていることがすぐに見当がつかなかったらしい。


「……おいおい、まさか扉を吹き飛ばすって言うんじゃないだろうな」


 正解だ。肯定した私にメリッサは驚きを隠せないようだ。


「ここの防音壁なら爆発も外に聞こえないだろうよ」


「正気かよ」


 ワーサムの声は笑っている。驚きというより、この状況を楽しんでいるような声だ。


 私は答える。お前と同じくらいには正気だ、と。


「なるほど、やっぱりお前はサンスターの言った通りの男だ」


「サンスターが何か」


「気が合うだろう、だとよ」


 私が少し笑うと、つられるようにワーサムも笑った。笑いは重なり、ある程度の大きさになってから落ち着く。


「じゃあ、吹き飛ばしてくれ」


 笑いを引きずったまま、ワーサムは言う。了解といってから、メリッサを防音扉の外に出し、私もピンを抜いたグレネードをワーサムの部屋の扉の前に置いて外に退散し、急いで扉を閉める。


 バフッ、というくぐもった音が聞こえ、私は扉を開ける。


「ったく、もう少しましなやり方は無いのか」


 煙の中から出てくる、高身長で、しっかりした体つきの男。無精ひげで、長い髪は目に覆いかぶさっているが、隙間から覗く眼光は、鳥肌が立つほど鋭い。


「思ったより男前じゃないか。……あー、お嬢ちゃんは刑事の人だね、どうぞよろしく」


 ワーサムは一息置き、


「ワーサム。アルバート・ワーサムだ」


 少し微笑みながらワーサムは言った。 

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