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【47】
彼女は一旦、ペットボトルのお茶で喉を湿らすと、講義を再開した。
「さて、現在我々が教団の命により日々遂行している任務は、外周リングに駆除対象が拡散するのを防ぐのが目的だ。広大なエリアをカバーするため、私のような元軍人を始め、元自衛官や元警官など、戦闘訓練を受けた多数の人間が前線で働いている」
「まあ、それは知ってるけど。……にしたって、地面にでかい魔法陣、湧き出す化け物、開いたゲートから大魔王……って、どんだけベタなんだ」
「いいか勝利、よく聞け。この世には古より伝わる神話、伝承、民話、寓話、童話、民謡、舞踊など、およそ物語と名の付くものの全てがフィクションとは限らない。そういったものに偽装した真実というものも、案外隠されているのだ。お約束もその一種だ。だからこそ、人は油断し、見過ごしてしまう。月刊都市伝説マガジンが教団から目こぼしされているのも、世間から見過ごされるような怪しげな存在だからなのだ」
確かに、と言うしかなかった。
そもそも己自身が説明もつかない、常軌を逸した生物なのだから、魔王がいたっておかしくないじゃないか。教団の皆は自分のことを天使だと断定しているが、他の有翼種かもしれないし、誰も本物の天使を見たことがないのだから、前提そのものが間違ってる可能性だってある。
「俺等って、沸いたら駆除、沸いたら駆除、を繰り返してるけど、なんとか穴を塞ぐ方法はないの? トンデモ武器を作ってる場合じゃないでしょう」
いつもそのトンデモに付き合わされて、ヒドい目に遭っているのは自分だ。クールな秘密兵器が完成する、を一とすれば、失敗は九だ。モルモット役もそろそろ卒業したい。
「先ほども言ったが、出来たらもうやっている。一世紀かかっても、まだ見つからないのだ。恐らく、開けた本人にしか分からないのもしれない。よって二次的になるが、駆除対象が発生する度に排除するのを繰り返すしかないのだ。手段が見つかるまで永遠にな」
勝利はうんざりした。一生こいつらと付き合わされるのか、と。
「さっきお前が言っていたが、穴の近くに教団施設が存在する理由は、……もう分かるな? 我々実動部隊が活動しやすくするためだ」
「だよね」
「だが、学校だけは、お前のために作られた物だ」
「俺の……ため?」
「ハンターを支援する施設なら、最初から学校など必要ないのだ。原則的に学生は存在しないからな」
「んまあ……確かに。じゃあ、どうして?」
ベロニカはこほん、と咳払いをすると、話を続けた。
「貴様の陳腐な脳味噌のメモリーを極力消費しないために、全く同じ造り、同じ制服、カリキュラムの学校を全ての拠点に作ったのだ。どこでも校舎や教科書が一緒なら、余分なメモリを使わずに済むからな。おかげでお前の成績も下がらない。便利だろう?」
「え……そ、そうなの……」目が点になった。
驚愕の事実だった。
地形データにバグが出ないように、わざわざ同じ学校をいくつも作ったなんて……。
「俺、専用なのか……」
「専用といっても、各地域ごとにいる大勢の教団職員の子女が通っているし、地元住民にも門戸を開いている。また緊急時には、シェルターとしての機能も持たせてある」
「それにしたって、すごい贅沢じゃない……」
「お前は十分に教団に貢献しているのだ。この程度の福利厚生で恐縮する必要は微塵もない。むしろ、お前への報酬としては足りないと私は思っている。いいか、勝利。それだけお前は教団にとって、スペシャルな子供なのだ」
心なしか、シスターの顔が誇らしげに見える。
「私が魔法陣に関して知っている事は、概ねこんな所だ。疑問があれば自分で聞け」
結局、学校に関しては、スケールはデカイものの、ありきたりな話で拍子抜けした。
校舎が同じなのも、出現ポイントに教団施設があることも、全部合点がいった。かえって恐れて損をした気分になった。
シスターベロニカは、お前はものすごく教団に貢献してる、って言うけど、正直そんな実感は沸かないのだけど……。




