27
【27】
「じゃあね。お大事に」
「お大事にっス」
「おう。早く帰れよ。今日はありがとな」
教会の門まで出て、遙香と竹野を見送った勝利は、ジャージのズボンに両手を突っ込み、くるりと背を向けて教会へと入っていった。
遙香に「夕食用」にと、お茶会で残ったサンドイッチを持たせ、竹野には、さっと済ませた宿題のプリントを持たせた。万一翌日も登校出来なかった場合の用心だ。
「友達、か。こんな感覚久しぶりだな」
ちら、と廊下のガラス越しに夕暮れの街へと視線を投げて、勝利は独りごちた。
自分には、友達なんていたんだろうか?
思い出そうとしても、誰も覚えていない。
でも、遙香は…………。
☆ ☆ ☆
広範囲の地形、その立体的な構造を精密に記憶するのが勝利の特技だ。赴任した都市の地形を丸ごと記憶し、縦横無尽に街を飛び回り、正確無比に異界獣を大量抹殺する。それが人ならぬ勝利の、狩りのスタイルである。
通常のハンターは数人でチームを作り、小規模かつ計画的に駆除作業を行う。ロスも多く、被害も増えるが、現状で効果的な方法はない。
勝利の狩り方は、あくまで特殊で、人間どころか若干数教団に所属している人外ですらマネ出来るようなものではなかった。
――だがそれは諸刃の剣で、地形情報を入力すればするほど、過去の記憶を無差別に消してしまう。勝利はまだ、その事実を知らない。
☆ ☆ ☆
「お前が情緒不安定なのは、地形データ入力による弊害だ。今までうまくバランスを取ってきたが、何らかのきっかけで表出したのだろう。あまり気にしすぎるな」
「つまり、気のせいと……」
勝利はシスターベロニカの回答に釈然としないものを覚えた。
彼が昼食時にシスターベロニカから聞いた話によれば、電子機器による地形入力のせいで、彼はもともと情緒不安定になりやすい。諸々の原因でその危ういバランスが崩れ、急に学校で不安にかられたり、晩に勘が狂ったりしたのだろうと。
彼は、改めて自分を追い詰めたものの正体を考えた。
原因として大きいのは、恐らく遙香を傷つけた件だ。その場で蘇生したとはいえ、恋する女性を死なせた上、彼女に本当の事を未だ言えないでいる。
しかし、バランスの崩れた原因はそれだけではない。何故教団の経営する学校の構造がどこも同じなのか、何故自分は遙香のことを一切合切忘れているのか。遙香の父親の失踪に教団は関与しているのか。
自分はこれらの件に対して、強い不安や恐怖を感じている。
(ハルカさんの父さんは、教団に始末されたりしてないだろうな……)
勝利はさらに問い正そうと思ったが、今現在行方不明となっている遙香の父の件を考えると、うかつに聞き出すのは危険だ。いくら信用しているシスターベロニカとはいえ、彼女は教団側に雇われた人間なのだ。何をどう本部に報告されるか分からない。
(今にして思えば、教団内に信用出来る人間が、一人もいないじゃないか……)
これまで考えようともしなかった事が、次々と脳裏に浮かぶ。
――自分は、孤立無援なのか? 自分は教団にとって一体何なのだ?




