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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
四章 腭<アギト>に喰われる者
71/134

23

【23】


 西側エリアの攻略が終わる頃、勝利は泣きじゃくりながらダガーを振り回していた。

 今の勝利には、精神を正常に保つことが非常に難しく、ただ使命感とプライドだけで異界獣を斬り続けていたのだ。

 一度崩れた精神の均衡は、既に自力で持ち直せる段階を遙か遠く過ぎていた。仕事が終わる前に発狂するかもしれない。そんな考えが彼の脳裏をちらちらと過ぎる。

 補給ポイントに立ち寄ることも忘れ、青い血の滴る剣を手に、ふらふらと月明かりの街を進む。ボロボロに千切れたコートは、黒い幽鬼を思わせた。


     ☆ ☆ ☆


「おい!! 返事をしろ!!」

 気付くと、勝利の両肩をシスターベロニカが強く揺さぶっていた。

(……え。何でここに……)

 頭がくらくらする。シスターは何を言っているのか、よくわからない。

 一体、ここは何処で、何があったのか。

「聞いているのか、勝利!」

 パンッ!

 ――痛い。顔が。一体……あれ?

「正気に戻れ、勝利! おい!」

「あ……。ここは?」

「ここは最深部のキャンプだ。もう終わったんだよ。分かるか?」

「終わった?」

「そうだ」

 そう言って、シスターベロニカは勝利の肩をつかみ、くるりと後ろを向かせた。

「これを、俺が?」

「そうだ」

「こんなにたくさん?」

「そうだ」

 眼前の光景が、今の勝利にはリアルに思えなかった。

 自分なら、このくらい当然だ。そう、思えなかった。

 本当の自分ならもっと倒せる。そう、思えなかった。

「俺……が? ホントに?」

「そうだ。お前がやったんだ」

「……………………」

 ぼんやりとした頭で、サーチライトに照らされた地面を見る。地面の上に転がったモノを見る。地面に広がったモノを見る。

 ズキズキと、体のあちこちが痛みだした。それと共に、思考と視界がだんだんと明瞭になっていった。

「そうか、俺が。最後まで、やれたのか」勝利の頬に一筋の涙が流れた。安堵の涙だ。

 そうか、と小さく繰り返し、手の甲で涙を拭うと、勝利は己の仕事の結果を確かめた。


 自分たちの前に広がっていたのは、極彩色の地獄絵図だった。

 数え切れないほど多くの、切り刻まれた異界獣の死骸が、明かりの届く範囲じゅうに敷き詰められていたのだ。

 異界獣の体液や内蔵は、その黒っぽい外皮からは想像出来ないくらい、毒々しい色彩に満ちあふれている。プリプリとした内臓はゼリービーンズやグミキャンディーを彷彿とさせ、地面にぶち撒けられた体液はパステルカラーのペンキのようだった。その特徴は、今までのどの異界獣でも例外はなかった。

「でも……なんでこんなたくさん」

「鳴かせただろう?」

 ああ、そうか。うっすらと勝利の記憶がよみがえる。

 途中、敵ともみ合いになり、うっかり絶叫させてしまったのだ。

 異界獣は、仲間の声に呼び寄せられる習性がある。小物をまとめて始末するのでもなければ、基本的には鳴かさずに殺すのが常だ。さもないと、大量の異界獣の餌食にならないとも限らない。

 だが、その後はほとんど記憶がない。

「どこかで鳴かせて、そのままゾロゾロと大群を引き連れて、お前はここに来たんだ」

「なんてこった……」

「さすがの私もヤバイと思ったよ。ありったけの電磁ネットをバラ撒いてもまだ足りなかったが、残りのほとんどは、お前が全て片付けてくれた。――鬼神の如くな」

「えっと……ごめん」

「覚えてなかったのか」

 こくり、と頷く。シスターが安心したような、困ったような顔で自分を見ていた。

「恐らく、無意識でやっていたんだろう。さあ、もう帰ろう。夜が明ける」

 そう言って彼女が仰いだ空は、群青に染まりはじめていた。

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