4(挿絵あり)
絵:東雲飛鶴
【4】
「おい! 聞こえないのか転校生。そいつは俺のモンだ。早く下ろせよこのタコ!」
DQNが唾を飛び散らかしながらバカ丸出しでわめく。
「やれやれ……」
勝利は肩に担ぎ上げた遙香を一旦下に降ろすと、彼女に自分のカバンを渡した。
彼女は「うん」とうなづいて数メートル後方に下がった。
思ったよりも察しのいい女の子のようだ。
転校生と呼ばれた少年は、ナナメに構えて半眼で見下ろしながら、
「YOU!」
ビシッと高利貸しの息子を指さした。
「日本語が通じねぇ奴は、駆除してやるじゃん」
呆気にとられるDQN。だが意味が理解出来る暇も与えず、勝利は軽く床を蹴ると一瞬でヤツの前まで距離を詰めた。
「ふぁ、はわッ!?」
いきなり勝利が消えて沸いたので、バカが泡食ってるところに軽く腹パンチ三発。
(顔は目立つから傷をつけないほうがいい、ってシスターの誰かが言ってたな)
声にもならない嗚咽を漏らしながら、バカなDQNが腹を抱え背中を丸めている。足下がおぼつかなくなり、今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「おっとっと、大丈夫か?」と勝利はニヤリと笑いながら、DQNに声をかける。
近くを誰か通りかかったので、とりあえず肩を貸してるフリしてやり過ごした。
こんな誤魔化し方も、教団のシスターが見ていたギャング映画を参考にした。
(ちょっとマズったかな……。人目のある場所で『やさしい』駆除なんて。でも――)
「うぐっぇえぉ」
勝利は、通行人が遠ざかったのを見計らい、怯えきったDQNの喉頸を掴み、壁に軽く押しつけた。彼が本気で壁に叩きつけようものなら、人間など原型を止めずに潰れてしまう。だから、DQNをそっとやさしく押しつけてあげる。
「ヒッ、ヒッ」
壁に押しつけられる度に、小さく悲鳴を上げる高利貸しのお坊ちゃん。さらに数回繰り返すと、後の方はもうあんまり声を上げなくなった。
「もう終いか? もっと鳴けよ。ハルカが楽しめないだろ?」
さらに壁にガンガン押しつける。ヤツは絞り出すように、ヒィヒィと裏声で鳴いた。
「そろそろ自分のやらかした事の自覚は出来たか? ん?」
DQNは顔を引きつらせたまま、涙や鼻水を垂らしはじめた。
(んー…………。お仕置きって、どの程度やればいいんだろう?)
日頃、発見即デストロイな生活を送っている勝利にとって、手加減など無縁だった。
加減の分からない勝利は、掴んだDQNの喉頸を壁に押しつけたまま、ぐぐーっと上に持ち上げた。
苦しんだ奴は、彼の手を必死に両手で引き剥がそうとし、足はブラブラバタバタしている。DQNがスネを何度も蹴るのでイラっとした勝利は、その場でパッと手を放した。
重力に従いベシャっと床に崩れ落ちたDQNが、喉を押さえてゲホゲホと咳き込んでいる。
「無様だな」冷ややかに見下ろす勝利。微塵の憐憫もない。
(まったくもって面白くない。こんな手ぬるい拷問。
俺はあまり、誰かにお仕置きをした経験がないんだ。
だって、いつも『必ず殺せ』って言われてるから。
そりゃそうだよね。確実に殺さなければ『駆除』にならないから)