表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
一章 記憶にない少女
5/134

2(挿絵あり) 最終更新 2015/09/22

挿絵(By みてみん)

絵:東雲飛鶴


【2】


『バンッ!』

 昇降口に、けたたましい衝撃音が響いた。

 勝利が下駄箱を開けようとしたその時、後から誰かが強く蓋に手を突いたのだ。

(ひっ!)

 彼はおどろいて、その場で二センチくらい飛び上がった。あんまり叩いた力が強かったから、下駄箱全体がぐらっと揺れて、少し後に傾いでしまった。

 まったく、指でも挟んだらどうしてくれるんだ、と心の中で毒づく。

(ねえ、俺転校初日でイジメに遭うの? 最低線、初日だけは過去イジメられたことなかったんだよ! ……その後は、結構あったけど)

 振り返ろうとして、何十年も油を差してない錆び付いた蝶つがいみたく、ギギギギ……と首を回してみると、人影が目に入るよりも早く彼のネクタイがぎゅっと掴まれ、引っ張られた。次の瞬間目の前に、あの『彼女』のドアップが出現した。

「返してよ! 私のファーストキス!」

 乙女な台詞とは裏腹に、彼女は鬼の形相で睨んでいる。

「ファ、ファーストキス?」

 首根っこを捕まれたまま、哀れな転校生は歯の根も合わぬままオウム返しをした。


(え、なに? 俺だってまだしてないのに。

 いや、もしかしてアレのこと?

 でもアレってキスじゃないし応急処置だし……

 って、まさか……ああああ、あの時意識が????

 ――覚 え て た の か!)


 テンパる勝利は置いとくとして、ざっくり彼女の容姿を説明すると、中肉やや長身、黒のセミロング、顔は多分可愛い方なんだろう。けど、ぶっちゃけ教団のシスターたちの方がもっと可愛いくて――

「これ! 多島たじま君でしょ! 証拠は上がってんだから! それにその泣きボクロ! 覚えてんだから! このセクハラ男!」

 そう言いながら彼女は、市販のゴツいショルダーベルトをたすきがけにした改造スクールバッグから、ゴソゴソと数枚の写真を取り出して勝利の顔に突きつけた。

「いや、近すぎて見えない……」

 彼女はイラっとしたのか、ぎゅっと目を細めると、ネクタイを掴んでいた手を放し、彼を下駄箱にドンと突き飛ばした。

 少々距離を取ったと思ったら、ガンッと大きな音を立て、彼の腰の脇に片足を突き立てた。逃がさない、という意思表示か。

「これなら見えるでしょ。あんた一体なんで私にあんなことしたの?」

「へぁっ!?」

 勝利は目ン玉がブッ飛びそうになった。

 多分リアルに二ミリくらいは飛び出ただろう。

 確かに、そこに写っているのは仕事中の彼、そして日頃彼が虐殺しまくってる駆除対象たちだ。


(――俺、終わった。マジ、万事休す。

 やっぱバレてたんだ。あばばばばばばば……)


「え……あ……あの……あの……あああああの……あの……」

 どうすればいいか分からなくて、勝利は口をぱくぱくさせている。

 もう一発、ガンッ、と下駄箱を蹴りつける彼女。

 ヤモリのように下駄箱に貼り付く彼。

「答えなさい! 多島勝利たじましょうり!」

「ごっごごごごごごごごごごごごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「答えになってない! 半泣きで謝ったってダメよ! なんでキスしたの!」

「わ、わかった。言う。言うから。おおお、おこんないでぇ」

 勝利は女子みたいにスクールバッグを両手で抱えて縮こまった。

「でも……」

 彼女はジロリと睨みながら彼の顔を覗き込んで言った。

「でも、なによ?」

「他の人には言わないでくれ。頼む。本当に困るんだ。俺、シスターベロニカに殺されちゃう。何でも言うこと聞くから、秘密にしてくれ。頼む!」と必死に訴えた。

「じゃあ……」と言うと彼女は、九十度首を動かして、廊下の方をちらりと見た。

 勝利も首をギギギと動かして廊下の方を見ると、向こうから、やたら体を左右に動かして下品に歩いてくるヤツがいる。

 カギやらチェーンやらをぶら下げてるせいか、体が揺れるたびにジャラジャラ音を立てている。背は勝利よりもちょっと低くて、この学校の生徒にしてはちょっとオツムが軽そうなヤツだ。

 何故かって? だって他のヤツはおおむね行儀がよさそうで、勉強もまあまあ出来そうな顔をしてたからだ。つまりこいつは――DQNだ。

「私の彼氏になって。今すぐ」彼女は再び勝利を見て言った。告白というよりも脅迫だ。

「へ? いま、なんて? か・れ・し――?」

「ナァウッ!」両手で下駄箱に壁ドンして、距離にしておよそ二十センチ前方から彼に向かって唾と共にシャウトした。

 イエスかはいで答えろと、血走った目が語っている。

 彼は、師匠シスターベロニカの苛烈を極めた教練を、走馬燈のように脳裏に浮かべながら、脊髄反射的に彼女の顔にツバが飛び散るほど威勢よく答えた。


「はいぃっ!」


 ――――――これで俺、助かるの? もしかして、悪魔の契約?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ