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【1】
男子高校生・多島勝利は、転校早々ウルトラピンチだった。
転校そのものは慣れっこだが、問題はそこじゃない。
学校で、同じクラスで、会ってはいけない人に会ってしまったのだ。
時は二十一世紀初頭。初夏。
みんな五月病と気温上昇でダレてくる頃合。
汗っかきの勝利にとっては長い試練の始まりだ。とにかく仕事上、ムレるから暑いのは大キライだ。
場所は……いまは関東のどっか。中規模の都市だ。宅地が多いからベッドタウンのようだ。都心よりは、ちょっと自然が多いだろう。山が少々と川。河川敷には野球、サッカー、テニス、ゴルフなんかのスポーツ用の区画があって、山寄りには大きな池を擁した緑地公園がある。他は……来たばかりで町の地形情報以外はよくわからない。
今日転入したこの学校は、……聖ナントカカントカ学園高校。
家業の都合で、しょっちゅう転校している。
だから学校の名前なんか知らない。というか興味もないし覚えてもしょうがない。いつも数週間から数ヶ月後には出て行くんだから。
家業は、人に聞かれたら『公衆衛生を維持する仕事』と言いなさい、と家の人に言われてる。本人としてはピンと来ないけど、分かる人には分かるんだろう、と思っている。
でだ。その問題の会ってはいけない人のことだ。つまり、とある女子だ。
不思議とこちらに接触してはこないものの、文字通り射るような視線をガンガン飛ばしてくる彼女のおかげで、彼のメンタルは初日早々ボッコボコの穴だらけになっていた。
そんな彼女にガクブルしながら、なんとか放課後まで耐え抜いた。
ぶっちゃけ勝利のMPはレッドゾーン。SAN値はガリガリ削られて、本体よりも削りカスの方が多いくらいだぜ。オーマイガー!
とにかく急いで学校から離れなければ。
これは非常事態、彼は絶賛大ピンチなのだ。
さて、心底神経疲労困憊状態の彼は一体何者なのか。
『ガチで疲れているが、これじゃあ話が始まらないので、教室から昇降口へと逃げるまでの間、手短に教えてやろう。
……と思ったが。
悪いな、もう下駄箱に到着だ。自己紹介はこのくらいでいいかい?
あ、忘れていた。俺の名は――――』