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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
エピローグ
133/134

エピローグ 虹の螺旋階段

 後年、教団内で『大橋ビッグブリッジの決闘』と呼ばれることとなる、とある戦いが終結し、約一年が経過した。


 高校卒業後の春、教団本部の自室で昼寝を楽しんでいた多島勝利は、インターホンの呼び出し音で目を覚ました。


「あ……あい……。多島。どちら様で」


 相手は教団の事務方、要件は機関誌の取材だという。

 言われるまま身支度をし、礼服に着替えて、取材場所へと向かった。



「お待たせしました、多島ですが……」

 指定された場所は、教団職員が日頃使っているカフェテリアだった。

 はんぱな時間のせいで、利用者はまばらだった。


「寝てたんでしょ、ごめんねショウくんさん」

「ん、呼んだのアンジェかよ」

「ちがうちがう、広報課の仕事だって聞いてない? ショウくんさんに用事あんのこちらの記者さんだよ」

 シスターアンジェリカが、連れのシスターを手のひらで指し示した。

 見慣れないシスターだが……。

「私、撮影に使うやつもらってくるから、自己紹介とかしちゃってて」

 アンジェは配膳カウンターへと去って行った。



 確かに、アンジェリカに記者さんと言われただけあって、そのシスターは大きな一眼レフカメラを首からぶら下げている。

「どうも」

 勝利はぺこりと頭を下げた。


「初めまして。今日は、カフェテリアに入荷した新作ホットデリの宣伝のため、こちらにお呼びいたしました。ご協力、よろしくお願いします」

 彼女はそこまで一気に言うと、頭を深く下げた。


「初めまして、多島勝利です」


「はい、よく存じています」


「だろうね。あは、広報課の人に俺、なに言ってんだ。ごめんね」


「いえいえ。アンジェリカさんが戻られたら、早速作業を始めちゃいましょう。召し上がってるときの写真を数枚頂いて、あと軽くご感想を頂ければOKです」


「了解。……ところで、君と俺、どっかで会ったことある?」

「いいえ。今日初めてですよ」


 ――初めて? いや、でも……。


 そこへ、料理を持ってアンジェリカが戻ってきた。

 グルグルとかたつむりの殻のように巻かれた物体が、アメリカンドッグの串に刺さっている。その物体は白い皮に覆われ、表面には虹色のストライプがプリントされている。

 一見すると、食ってはいけないブツのようにも思えるが、教団が自信を持ってオススメするのだから、きっと、たぶん、おそらく、これは食べ物なのだろう。

 立ち上る香りだけなら、香ばしく焼かれたソーセージのソレである。

 広報課のシスターは、その怪しげなグルグルを一本手に取ると、勝利に向かって差し出した。


「さあ、どうぞ」


 ……あれ? おかしいな……。

 なんで……。

 俺、前にもこんな……。


 アンジェリカが、すごくやさしい目で自分を見ている。

 気持ちわるいほど。

 なにか企んでるだろ……。そう言いたかったけど。


「おいしいよ?」

「う、うん……」


 彼女の手から、ソレを受け取った。

 ただそれだけなのに、涙が止まらない。


 それを彼女は、カメラを構えようともせず、微笑みながら見ている。


「あの……ごめん。わかんないけど……。

 でも……。あの……。

 ……君に会えてよかった」


「私もです、勝利様」

 彼女はカメラを構えた。


「君の名前は?」


「シスターハルカです。この春、新卒で教団に就職いたしました新人です。……お写真、撮ってもいいですか?」


 勝利は、鼻をすすりながら言った。

「……やだよ。泣き顔なんて」


「でしょうね」

 彼女は構えたカメラを降ろした。

 何故か、彼女も泣いていた。




 ――何でかな。すごく、気になる。でも。


 ま、いっか。

 俺がシスターと付き合うなんて、地球が逆回転したってあり得ねえんだから。


                                  (了)

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