10(挿絵あり)
【10】
「ねえ、化け物退治してるとき、なんであんな黒ずくめの格好で飛び回ってたの?」
「……へ? あ、ああ……」
勝利は遙香の声で、脳内の仮想空間から現実に意識を引き戻された。パトカーがサイレンを鳴らしながら脇を通り過ぎていったが、つい今し方までその音にも気づかなかった。
「あれは仕事着。目立たないように黒いんだよ」
「目立っちゃいけないの? もー写真撮りにくかったんだからぁ」
肩を落とし、ぷすーっとため息をつくと、
「いけないに決まってんでしょ。騒ぎになっちゃうじゃん」と勝利。
「そっか~。つまんない」
「ちょ、つまんないって……」
彼女のいう黒ずくめとは、教団からハンターに支給されている異界獣用装備一式のことである。協力者から一目で教団関係者と分かるデザインのコートとエンブレムが特徴だ。協力者とは、公安や地元警察などの公的機関だ。
教団は市民の安全を守っているが、国家組織ではない。スムーズな活動には彼等の協力(黙認)は不可欠だ。そのため教団関係者は彼等が識別しやすい装備品を各種用意している。
牧師の衣装を模したケープ付きのロングコートには、聖別された糸で多重防壁魔道陣の刺繍が施してあり、ケブラー素材の生地と相まって大概の刃物や拳銃程度では傷を付けることすら不可能だ。
ボディスーツに至っては、複合素材の軽装甲やハイテク機器が取り付けられている。武器を含めて異界獣を屠るために必要な装備品は多く、トータルでは重量も相当なものになる。
彼は身軽に動いているように見えるが、それはひとえに人ならぬ勝利の身体能力があればこそだ。
「最初ね、忍者かと思ったんだ」
「ニ、ニンジャ? ああ……飛び回ってたからか」
「かっこよかった。服も」
「そうか? あ、暑苦しいだけだよ、あんな重たい服」
そう言うと、勝利は照れ隠しに頭をかいた。
(あの晩のことは、今思い出しても冷や汗が出るけど、ホントは暑くて死にそうだったんだよな。そろそろ軽装に切り替えないとマジ死ねるな……)
活動時間は主に夜間とはいえ、気温の高い季節には汗でびっしょりになってしまう。初夏を迎えた近頃では、いい加減コートを脱ぎたくて仕方がないのが本音。
「仕事でアレを倒してる……んだよね。バイト、なの?」
んー……、とうなると、勝利は腕組みをして、しばし考えこんだ。
これ以上秘密を知られたくはない。でも、彼女のご機嫌を損ねるのも考えものだ。
まいったなあ、と頭をかきながら、
「君が見たとおり、あの化け物を掃除してたんだよ。それが俺ん家の仕事」と答えた。
「家の仕事? 家って?」
「ほら、あそこ。この先にある教会だよ」そう言って交差点の遠く先を指さした。
ハルカは驚いた様子で、勝利が指さした先を見た。
「え? え? 教会なのに、化け物退治とかするの?」
「するの。エクソシストとか知らない?」と言って勝利はフフ、と笑った。




