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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
七章 愛おしい記憶
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 日が沈んだ。

 人の時間が終わり、獣の時間が始まった。


 ならば、天使の時間とは果たしていつなのだろうか?


                  ☆


 勝利が岸へ向かって走る。

 そしてシスターベロニカの乗った船が、水面を並走する。



 愛息子にこんな無茶をさせている。その事実が彼女の心を締め上げる。だが今は、彼を殺さずに済むよう、全力を尽くすしかない。

 時折スパークする電磁ウィップの明かりが、猛烈なスピードで移動している。

 狩りながら敵を追っているのだろう。しかし、はるか下の水面からは出来ることは限られている。日の落ちた現在ではなおのことだ。


 A班から、投光器の設置が完了したと通信。

 上層、下層のいずれも点灯を開始直後、物陰からSサイズ、Mサイズの異界獣が飛び出し、暗がりを探して右往左往し始めた者を掃討。

 大型フォークリフトが到着、こちら側でもようやく放置自動車の撤去が始まる。

 市街地内でも共食いで肥大化した異界獣が何体か暴れている。これ以上、橋に人員を割くことも出来ない。教団の支援も、対岸に偽装警察官を配したおかげで、人員を使い果たしてしまった。こんなギリギリで、教団はどうやって今まで現場を回してこれたのか不思議なくらいである。

 教団は、そろそろ表に出ていい時期なのかもしれない。これ以上隠し通すのも、国軍に頼らないのも限界なのではないか、とベロニカは思った。


「長丁場にならなければいいのだが……」


                  ☆


 実際、勝利の体は悲鳴を上げていた。

 初手からトップギアで獣の群れに殴り込みをかけ、獅子奮迅の働きを続けている。無理に入力した橋梁データのせいで、頭は割れるように痛み、使用した鎮痛薬は既に三本に上る。

 すぐに橋を落とせない以上、被害を最小限に食い止め、異界獣の市外への流出を防げるのは、今、勝利以外に存在しない。


「最悪、水の中に道連れって方法もなくはねえかな……」

 ちら、と眼下を並走するベロニカの船に視線を投げる。


『戦術なら結構だが、心中は許さんぞ』とベロニカ。

「ち、聞こえてたか」

『状況はどうだ』

「正直見たくないな。さっきの一番大きいヤツが、アンモナイトを頭っからバリバリ食ってる。なんであいつ不定形なんだよ。どこを攻撃すればいいかわかんねえ」

『エサの方は削れそうか』

「やってっけど追いつかないよ」

『一旦上にあがって逆方向からエサを始末するのはどうか』

「ふむ……。やってみる。弾薬の補給の用意をさせといてくれ」



 勝利は、最寄りの非常階段を伝い、再び上層へと戻ってきた。

「うげ、こっちも結構いんな。クッソ」

 投光器や教団兵の攻撃に追われた連中が群れを成している。逃げ場を求め、中途半端な位置でうろうろしていた。

 勝利は手短な場所にいたMサイズの犬型異界獣、アギトを一匹捕まえて半殺しにすると、爆薬をくくりつけて敵の群れの中に放り込んだ。


「おりゃあッ! エサだぞ!」


 どすん、と落ちた場所に殺到する獣たち。

 数秒後、彼等は轟音とともに爆散した。方々に飛び散った死骸から、青白い炎が燃え上がっている。


「ああ、やっぱ爆薬使えると楽だわー……」


 ――正直、もう休みたい。頭痛い。帰りたい。だいたい、なんで俺ここにいるんだっけ? あれ? そういや、ここどこだっけ。……夜景キレイだな……。


「あ、あっち行かなきゃ、だっけか。――危ない危ない、記憶飛ぶとこだったぞ」

 ぶるぶると頭を振ると、勝利は、アスファルトの上でチリチリと青白い光を発している異界獣の燃えカスを蹴散らし、岸に向かって走り出した。


『勝利、いま上層か?』

 ベロニカから通信が入る。

「そうだ。上を岸に向かって走ってる」

『二分ほど前から、下層と岸の設置部付近で交戦状態になった』

「どういうこと」


『橋を渡った鉄道が、地下に引き込んであるのは分かっていると思うが、投光器の設置をしていた連中が、鉄道のトンネルから入り込んだ敵と、前面からの敵との間で挟み撃ちに遭っている。トンネルは早々に封鎖出来たのでこれ以上増えることはないが、このままでは餌食になるのも時間の問題だ』


「じゃあ、爆発物を設置するなり船から砲撃するなりして、みんな川に飛び込ませろ。後は俺がなんとかする」


『やはりそうだろう。よく出来たぞ、勝利。お前は自慢の息子だな』

「親バカしてる場合じゃねえだろ」

『連中の装備品の確認をするが、恐らくこちらから砲撃する格好になりそうだ』

「了解」

 勝利はさらにスピードを上げ、A班の待つ橋の起点に向かった。

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