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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
六章 天使の休日
118/134

12

 監禁三日目。夕方。


 晩飯は教会で食べなさいと連絡が来たので、一文字家での滞在は食事前までとなった。翌日は自分も遙香も学校があるから。

 というわけで、遙香が記念撮影をしたいと言い出した。室内を片付け、幕を張り、照明を焚いて、さてどうするのかと思ったら……。


                  ☆


「ショウくん、じゃ、脱いで」

「はい??????」

「はーやーく」

「ちょ、まさか、俺のヌード撮るんか!?」

 勝利は自分の体を抱き締めて、怯える小動物のような目で遙香を見た。


 三脚を立て、でかいカメラを据えた遙香は、獲物を狙うハンターの目をしていた。

 ――あの晩のように。


「違うわよ。服着てたら、キミ羽を出せないでしょ?」

「え。まあ、これだと専用の穴あいてないから破けるけど……。見たいの?」

「当たり前でしょ。はーやーく。上だけでいいから脱いで」

「じゃ、ちょっとまって」

 勝利は台所に行くと、キッチンペーパー数枚と濡れタオル、そして、ほうきとちりとりを持ってきた。


「これ、どうするの?」

「すぐ分かるよ」

 Tシャツを脱ぎ、自分の周囲を見回すと、勝利は眉根を寄せ、いきみはじめた。


「ううう……ぅぅ……」

「え? え? ……大丈夫?」

 不安そうに見守る遙香。


「――くッ」


 数秒後、部屋は舞い散る羽根、そして彼の広げた大きな翼で満たされた。


「うわあ…………きれい……」


 PV撮影のように舞う、純白の羽根を呆然と見つめる遙香。

 室内が撮影用照明で照らされているので、羽根自身の放つ燐光は見えない。


「な? ほうきとちりとり要るだろ?」

「バカぁッ、こんな時になに言ってんのよ! ……たく、ムードのないやつ……」

「……なに怒ってんだ。それより、あとこれ」 


 勝利はキッチンペーパーと濡れタオルを差し出した。


「床が汚れる前に、背中を拭いてくれ」

「背中?」


 彼がくるりと背中を向けると、翼の生え際から青く血の筋が流れていた。

 遙香は息をのんだ。


「うそ……痛くないの?」

「痛いに決まってんだろ。皮膚破ってんだから。ほら早く拭いてよ」

「う……」


 遙香は無言で彼の背中を拭き始めた。


「別に怒ったりしてないから気にするな」

「知らなかった……ごめんなさい……」

「お前のお願いなんだから、聞くに決まってんだろ? それにすぐ治るんだから、気にすることないって。な?」

「うん……」

「それよか、散らばった羽根掃除しろよ。リクエストしたのハルカなんだから」

「…………ごめん」


 遙香は勝利の背中にすがって、すすり泣きを始めた。


「だーかーらー、大丈夫だって言ってんじゃん。さっさと写真撮れよ」

「ごめん……痛いことさせて……」

「だいたい、お前のためにコレ出すの、三度目なんだぞ。今さらだろ?」

「でも……」

「はーやーくー。メシの時間になっちゃうから、さっさと撮影しろよ」


 遙香はぎゅっと勝利の腰に抱きついた。


「……ったく。俺、痛みには強いからこのぐらい大丈夫なんだよ」

「そうじゃない。私がショウくんを傷つけたのがイヤなの。……だって二度目なんだよ?」

「……そう、だったかな。あんときゃ骨折だったけど、今日のはかすり傷だ。それに、もーぼちぼち血が止まってきてんだろ?」

「あ、ほんとだ」


 ――ちゅっ。


 遙香が勝利の肌にキスをした。


「な、なにしてるの、ハルカさん」

「私の、だよね?」

「うん。……そうだよ」


 勝利は遙香の手をほどいて振り返ると、彼女を抱き締め、翼で包んだ。


「あの時みたい」

「ああ」

「ん……」


 遙香は勝利の胸に頬ずりした。


「ホントはこれやって欲しかったんでしょ、ハルちゃん」

「うふ。バレたか。でも写真も撮りたかったのはホントだよ?」

「わかってる。メシの時間になっちゃうから、ほら」

「うん。でも、あと1分だけ……」

「じゃ、5分な。ひんぱんに出し入れするもんでもないから……」

「ありがと……」

「ハルカ。俺こそ、ありがとう」



 勝利は遙香の髪を撫でながら、幸せなひとときを過ごしていた。

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