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(旧)闇夜に踊る  作者: 東雲飛鶴
一章 記憶にない少女
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8(挿絵あり) 最終更新 2015/09/22

挿絵(By みてみん)

【8】


「じゃ、いこっか」遙香がベンチから立ち上がった。

 結局彼女の『夢のらせん階段』は冷めてしまい、ピンと張り詰めていた極彩色の皮には少々シワが寄っていた。

 勝利がじっと見つめていると、遙香が差し出してきた。

「そういうワケじゃ……」

「男子なんだから食べなよ」

「それ言うなら、金ないんだからハルカが食べなよ」

「ふうむ……んじゃ半分コで」

「どうやって」

「こうよ」と言うなりガブリと噛みついた。二、三口ほどで半分を胃の腑に納める。

(うへえ……)

 豪快な食いっぷりに、身内のあの女性を思い出す勝利。

「はい、あとキミのね」と、下半分を差し出す。

「ああ~油が垂れてるよ、ちょっと待ってろ」

 口元からソーセージの汁が筋を描き、顎先まで届きそうだ。勝利は慌ててポケットからウェットティッシュを取り出すと、彼女の顔をぬぐってやった。普段は異界獣の体液か、己の血液を拭くために使っているのだが。

「えへへ~さんきゅ」

 勝利は、肉汁跡を舌で舐めとりたくなる衝動を抑えつつ、丁寧に顔を拭いてやった。

 遙香は嬉しそうに、勝利になされるがままにされている。

(あうう……ダメだそんな顔で俺を見るな……うあああ……)

「ほ、ほら、終わったぞ」

「さんきゅ。んじゃ、半分」

 勝利は彼女の顔を拭いたウェットティッシュを畳み、大事そうに内ポケットに仕舞うと残り二分の一になったソーセージを口の中にねじ込んだ。

「ん、んぐっ、んんんッ」

「よく噛まないで飲み込むからよ。大丈夫?」と、むせ込む少年の背中をさする遙香。

 食道のキャパシティを考慮せず、十分に咀嚼しなければ、喉に詰まらせるのは当然の結果だ。とはいえ、気になる女の子と濃厚な接触をしているとなれば、注意が逸れて顎が己の職務を忘れて怠惰になってしまうのも致し方ないとはいえる。

 冷ましたり飲み込んだりと、絶品ホットデリに対する仕打ちとしてはいかがなものかと思えるが、完食しているのだから良しとするほかないだろう。


 ようやくコンビニを後にして帰路につくと、ランニングをして戻ってきた運動部の連中とすれ違う。ちらと自分たちを見る生徒もいたが、ほとんど無視して走っていった。

 コンビニの店頭でもそうだ。それなりの人数の生徒が出入りしていたにもかかわらず、仲良くソーセージを食べていた二人を冷やかす者は無かった。

 この中には遙香の知り合いはいないのだろうか。それとも――

(最低線、タケノコだけは彼女を歓迎するんだろうが……当人が絶対イヤがるだろうな)

 あんなチンピラに絡まれているせいで友達がいないのか、と口に出しそうになったが、勝利はなんとか言葉を飲み込んだ。

 この街に滞在中は自分が彼女の盾になる。多くの生徒の目にするところとなれば、いずれその答えは分かるだろう。

(でも、俺がいなくなってしまったらハルカはどうなるんだろう……)

 たくましく、だが不幸な少女、遙香の行く末に、心配せざるを得ない。

 自分のいる間に金を工面する、もしくは父親を見つけ出すことが出来れば、憂いを残さずこの街から去ることが出来るのに。

 保護者兼上司であるシスターベロニカに話せば、自分がそこまで関わることもないし、場合によっては口封じのために始末しろ、と言われるのかもしれない。


 でも、そんなこと出来るもんか。

 彼女を『二度』も殺すなんて。


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