プロローグ
――太古の昔から、地球は数多くの『厄災』に見舞われていた
――自然災害、人間同士の争い、異界からの襲撃。現代までの歴史の中で闇に葬られ、後世に遺される事のなかった数々の『厄災』があった
――そんな『厄災』から地球を護り続ける者達がいた。『聖』なる心と『獣』の姿を持つ『者』達、人々は彼等を『聖獣者』と呼んでいた…
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時は現代、雲が少し多い満月の夜。『神原町』と呼ばれる新興都市の外れに、今ではもう使われなくなった倉庫がある。窓は全て割れ、壁は劣化しており、恐らく暴走族が溜まり場にしていた名残であろう散乱しているゴミ。時間も相まってこの倉庫に人影は存在しない……筈である
しかし今、その倉庫から本来なら自然発生などあり得ない『光』と『爆発音』が流れている。暴走族が花火でもしているのではないかと思われるが、光も音も花火のそれ以上だ
月が雲に覆われ光が行き届いていない倉庫の中では、『2つの異形』が戦っていた。そのうちの1つは、バイクのパーツを至る所に取り付けている人型のロボット1体とそれより一回り小さい人型ロボット…の大群
『ギギーッ!!』
『ギーッ!』
『クッ…!』
そのロボットの大群は、もう1つの異形相手に圧されている。高速で転がる球体に押しつぶされ、翼を持つ者に宙から襲われ、青い一閃の一撃に吹き飛ばされている
バイクロボットは仲間が次々と倒されていく光景と、自身に襲い掛かってくる相手に対する苛立ちの2つの意味から舌打ちをする。相手はバイクロボットと比べると小柄だが、その身のこなしはしなやかかつ軽快で、車輪となっているバイクロボットの両腕の攻撃からアクロバティックに避けている。更に相手の挑発するような発声が彼の怒りを刺激している
『この…下等生物がぁ!!』
「おっと!」
バイクロボットが両腕の車輪を高速回転させて火を起こし、弾として火を打ち出す。しかし、相手はアクロバティックな動きで火弾を避けると、鋭い爪を持った両手の親指・人差し指で銃の形を作り、照準をバイクロボットの両腕の車輪にそれぞれ合わせ、「バーン!」と子供じみた声を発して銃を撃つように手を動かす。すると、そこから小さな白い光が勢いよく放たれ、両腕の車輪に命中する
『なっ…!?』
光に当たったバイクロボットの両腕の車輪が、氷に覆われ凍り付いたのだ。バイクロボットは火を起こして融かそうとするも、車輪が回らない。モーター部分まで凍り付いてしまったようだ
相手は「ふふ~ん」と小馬鹿にするような顔をする。そんな彼の背後に、2つの人影と1つの球体が集まり、球体はぴょんと跳ぶと人型の姿に変わる。バイクロボットは目の前の4つの人影に向かって吠える
『貴様等!我々の邪魔をする気か!?』
「は?そんなの当り前だろ?」
4つの人影の内1つがそう話す。それと同時に月を覆っていた雲が晴れ、倉庫に月光が差し込み、4つの人影の姿が露わになる。右から順に、緑色の鎧の大柄体型の戦士、白い鎧の戦士、翼を持つ朱い鎧の女性体型の戦士、青い鎧の小柄な戦士
「俺達は…この地球の守護者だ!」
白い鎧の戦士がそう叫ぶと、4人の戦士は一斉にバイクロボット目掛けて走り出した
同時刻、神原町のシンボルでもある『神原タワー』の頂上に、黄色い髪が特徴的な1人の少女が立っていた。縁に立つ彼女の目の先には、神原タワーから離れた住宅地に佇む一軒の住宅、そしてその一室で深い眠りについている1人の少年がいる
「…見つけた…」
少女はそう言うと、縁から倒れこむように落ちる。350mはある神原タワーの屋上から落ちればまず助からない。だが、落ちた先に少女の姿は無かった
満月の夜に、四つ足の黄色い生物が大空を駆けていた…