ギルド
北の森よりの侵入を防ぐ目的で造られた城塞都市ツーリア。この都市は魔物が多く住む森からの領地へ侵入を未然に防ぐ為に、強大な魔力壁を作り上げ、防魔堤の役割を持って形成されている。高くそびえ立つ城壁の上には常駐している兵が魔力壁を形成するための要を守護し、領地への侵入を阻むために森へと目を光らせていた。
また、魔の森は固有種も多く素材も豊富にとれるがために、冒険者ギルドの支部あり、緊急時には協力して事に当たることとなっていた。
森への壁を多くしているため、歪んだ台形のような形を形成しており、丁度中心点には領主の館があった。壁側からは都市へ入ることは出来ず、唯一この都市を拠点としている者は事前の申請を通して、使い捨ての帰還の高額な魔法陣を買うことができた。これは通常術を使える者達も同様で、都市内では私的な目的での術の行使は禁止されているためでもあった。壁とは反対側の唯一の門は都市の外側をぐるりと回らなければならず、森を突っ切ってきたラルはさも、他の都市から来たような顔で都市へと入ってきていた。
宿屋からしか外を見ていなかった天音は口をあんぐりとあけ、あまりの大きさに呆然としたのはご愛敬である。
多くの様々な種族がにぎわい、様々な声が、音が飛び交っていた。
その中を天音達は宿屋からまっすぐにこの都市の冒険者ギルドに向かう。ラルが天音と出会う前に保管していた魔物を換金するためであった。すぐに必要なわけではなかったが、天音に不自由な思いをさせないためにも魔物を収納している異空間とは別の天音のための様々なサイズを異空間に収納するためでもあった。
そこには、まだお子様な天音には不必要であるが大人になった時には威力を発揮させるであろう布面積のとても少ないものや、体格差を補うものも収納させる予定である。
通常であれば異空間の維持は1つであったとしても、かなりの魔力を消費するものであったが、ラルの中では微々たるものだった。異空間はこれ以外にも複数あり、それぞれの用途に沿って使用されている。
「欲しいものはあるか? 」
歩きたがる天音を仕方ないと降ろし、手の甲を撫でながら問う。顔を向ける方向をちらりと見ながら決して愛しい存在から視線は外さないという器用なことをしながらラルは尋ねた。
「お腹いっぱいだし、色んな物が見たいな。初めて見るものばかりだから」
「そうか。ギルドに行き換金してからになるが、それでも良いか」
「うん」
物欲を最低限にしてきた天音は欲しいと思うことが皆無に近かったこともあり、また必要と思う前にラルが察して与えてしまうこともあり、何も買わないまま歩を進めていく。興味はあっても、どんなことに必要なのかを事細かに説明してもらうには都市の中は喧騒が酷かったこともあった。
そのためラルは今から向かっている冒険者ギルドの説明をした。とはいえ、やはり細かく説明するわけでもなく魔物と金銭を交換したり、依頼されたことをこなし金銭を受け取る場であるということのみであった。
周囲を見渡せば様々な種族があって、食料も様々だった。檻に閉じ込められたものもいたが、さりげなく天音の視界には入らないように歩いていく。優しい天音が悲しむことを案じた為であったが、それを見たとして心が動かされることがないということに気づけないままでいた。
冒険者ギルドの近くに行くほど治安が悪くなると言い含められた天音は、再び自分の足で歩くことを許されず片手に抱きあげられている。
「ここ? 」
「そうだ。危険故、降りるな」
「うん、わかった」
物々しい喧騒が響く中、冒険者ギルドへと入っていく。例え都市が侵入されたとしても、立て篭もれるように対魔壁で作られており、領主館の次に安全を約束されている場所でもあった。
ギルド内はもうすでに朝のバタつきを終えて、職員以外ではおそらく指の数ほどしか人はいなかった。
「こうなってるんだね」
冒険者ギルドは入った左側に対面できるカウンターがあり、ギルドの職員が3名こちらを凝視していた。右側には軽食でも食べたり飲んだり出来るのか喫茶コーナーみたいな場所と、おそらく必要最低限のものが売っている売り子さんがいた。外からだと2階建てに見えたが見える所に階段はなく、おそらくはカウンターの奥にあるのだろう。
ざわつきと浮つきと熱い視線に気づいたが無視するラルと、ざわつきに関してラル格好良いもんなぁと自分への視線に対して気づかない天音とは換金を行っているカウンターへと向かった。
「換金はここで良いか? 」
一番年かさの片眼鏡をかけた耳の尖っている壮年の男性に声をかけた。ぶしつけに凝視している中でも鑑定をこっそりと混ぜて行っていることに気づいたためである。
「ああ、ここであってるよ。兄さんは何を持ってきたんだい」
「どこに置けば良いか、そこそこ量もあるが」
「そうさねぇ、じゃあ裏へ行こう。ここを任せるよ」
男性は他の若い女性職員に声をかけると、ラルと天音を連れてカウンターの中へと連れて行く。奥へと何度か角を曲がると、裏口へと出た。そこには塀に扉が付けられている。
「この中が解体場さ。知ってるとは思うが、ギルドのだから安心してお入りよ」
そう言いおくと扉を開けて中へと入っていく。異空間の中というのはそれを作り上げた者の絶対的に有利な場所ということにもなるため、普通であれば忌避する場所なのだが、ギルドが作成している異空間は個人が創り出している物とは構造自体が違うことと、厳しく取り決められているために、悪辣なギルド長でない限りは安心して入ることのできる場であった。悪辣なギルド長であってもラルには関係がないため躊躇も無く扉へと向かう。
何も言わずに扉をくぐると、暑苦しい男達が上半身裸で巨大な物体をさばいていた。全長10メートル程だろうか、鱗と牙はわかるが、すでに原型はない。端が見えないほどの広大な空間はさらに別の空間と繋がっているようで、細かく細分された物が運ばれていく。
「もう少しで終わるから待っていてくだせぇ!! 」
男性の中でも髭を蓄えた一番筋肉の大きい男性がそう言う。
血の匂いとは違う甘ったるい香りが鼻をくすぐる。初めて見る解体の現場だというのに、吐き気を覚えるわけでも動揺するわけでもない天音は、都市を見た時のようにラルの腕の中からきょろきょろと周囲を見渡している。
「兄さん、あれだろ? 高位ランカーだろう? あまりでかいのはこの空間はもたねぇよ」
「あれと同じので種類が違うのなら持っているが、それなら可能か? 」
「大きさは? 」
「あれの倍くらいか」
「それなら大丈夫だ」
ラルは異空間の中を思い出しながら言う。しかし、実際は同じなのはドラゴン種であるというだけで、かなり高位であった。受付の男性は属性と大きさが違うと思っていたのだが、ラルの中ではあまり差異がないため齟齬が生じた。
「俺が鑑定できないってことは、かなりの高レベルだろ? 兄さん」
「勝手に鑑定してくるような輩に答える義務はない故」
「つれないねぇ」
そうこうしているうちに、目の前で行われていた解体も終わり浄化しつつ先ほど答えた男が近寄ってきた。他の男性達は交代なのか女性達になっている。その女性達も筋肉の発達がすごい。
「終わったぜ。出してくれるか」
頷くとラルは何もない所に手をつっこむと、ずうるりと出した。その空間に、そんな大きな物がどうやって入っているんだと目を見開く天音を後目に、別の意味で目を見開くギルド職員。
「首元を一刀。傷なし、腐食もなし。かなり良い値になるぜ」
「今日だと用意できない金額だねぇ。明日取りに来てもらえるかい? 」
「かまわぬ」
復活の早かった二人以外は放置したまま異空間を後にした。異空間内の音は外に出ると聞こえない為、ラル達は気がつかなかったが盛大な叫び声が響いていた。
「あとは色々観にいくとするか」
「うん!! 」
天音を抱きあげたままギルドの受付で観光に良い場所を尋ね、その場を後にした。




