真実の姿
鎖が見えた。
これが悪いのかなと思った。
力任せに抜こうとすると大地が撓んだ。
これじゃあ駄目だと、一端鎖から手を離す。
抜いても駄目、壊しても駄目。
どうしたもんか、鈍く光る鎖をつつく。
ちゃりと金属特有の音がして、悪いものではないけれどこれ以外の方法がないと駄目なのだと理解した。
小さく明滅する光が消えていく。
このままじゃいけない。
どうしたら良いんだろう。
これがないと新しく生まれてこれない。
でもこれがあるせいで正しくは生まれることができない。
それなら、作り変えてしまえば良い?
そうだ!そうしよう。
優しく捏ねる。
壊さないように、本来あるべき姿に。
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結界で被っていてもその力の強さに一歩一歩しか進めない。
歯を食いしばりながら、天音の元へと進む。
顔を被うように腕を突き出し、求める。
「あまねぇぇぇぇ!!!」
ラルの絶叫が奔流にかき消されてはまた、響く。
それは反響して、天音に届いた。
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できた!
満足のいく出来だと出来上がった元は鎖だったものを見つめる。
無機質だったそれは小さな獣になっていた。
きゅんきゅん鳴きながら、天音の手を舐めとる。
そのちいさな獣を抱きあげ、頭を撫でてやる。茶色柔らかな短毛の獣は、つぶらな翡翠の瞳で天音を見つめた。
これでちゃんとした姿で生まれられるね。もう空腹に喘ぐこともないね。なんでも食べたいって思わないでしょう?
そう思うと、返事をするように鳴いた。
返事をした小さな獣が、何か聞こえたとでもいうように頭の上にちょこんとついた耳をある一方に向け顔を傾げた。天音も耳を澄ます。
遠くに響く残響のようなそれは、徐々に近づいてきている。
聞き取れないほどの小さな音は、白に塗りつぶされた世界を塗り替えていく。
「ラル? 」
天音の言葉が最後の切っ掛けだったかのように、白をかき消す。
白が消えていくと同時に姿も幼いものへと変わり、小さな獣すらもちゃんと抱きあげていられずに降ろした。視線はその声のする方向、ただ一点。
「ラル? 」
白い空間にいた時には感じすらしなかった感情が溢れていく。
痛みはどうなったのかとか、周囲の抉れてしまった大地は何故とかすらも思い浮かばずに手を広げた。
『抱きあげて、抱き締めて、愛して、狂おしいくらいに、もう一度』
遠くて近い声が天音の頭に反響する。
「天音!!!!!!!」
傷だらけの姿で、天音を抱きあげる。
そこに存在していることを確認するように、抱き締めて、目で確認してはまた抱き締める。
天音の眼にはラルだけ。
ラルの眼にも天音だけ。
世界が滅びるかもと戦々恐々としていたリーシュシュは遠くで繰り広げられるイチャイチャに溜息をつくと、胡坐をかいて座り込んだ。
「やってらんない」
ドレスは所々破れ、その見事に鍛え上げられた大胸筋が見える。華奢に見えた足や腕にもしなやかな筋肉がついている、まごうことない男性がそこにいた。
「悪ふざけが過ぎたリーシュシュ様には丁度良い仕置きだったのでは? 」
飄々としたジールがリーシュシュの背後に立った。それに驚きもせずにリーシュシュは男らしく頭をガシガシとかく。
屋敷は全壊、森も半壊。
これを直すのかと溜息をつきそうになって気づく。
天音とラルの足元にいる小さな魔獣を。
そして、自身に絡みついていた呪言が消えていることに。
「はっははははは」
「とうとう壊れましたか? 」
その笑いに気づいて二人に近づき、ラルに抱きあげられたままリーシュシュの胸元を二度見て「男ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」と天音が叫びを上げるまで笑い続けるのだった。




