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Ep.5

「ここは……」


カイルの声が震えた。

「ええ。前回、私たちが退いた場所」


だが今回は違う。

背後には、カイルに運ばせた大量のレイピアが山のように積まれていた。


折れればすぐに新しい刃を取り、休むことなく攻撃を続ける。

そして――カイルの加護があれば、私は疲れ知らずに戦い続けられる。


「準備は整ったわ」


私は赤い瞳を光らせる巨人を見据え、レイピアを握りしめた。

(さあ、殺し合いましょう。何度でも挑んで、必ず突破してみせる)


最奥の戦いが始まる。



「ちょ、ちょっと待って! 作戦って……まさか、大量のレイピアと無限の体力で休まず戦って、コロッサスを倒すってこと!?」


私は小さく肩をすくめた。


「ええ、そうですわ」


「いやいやいや、脳筋すぎるでしょ!何か作戦がある風の言い回しだったから期待してたのに……もっとこう……魔法で攻撃するとかさ!」


「私、魔法は得意じゃありませんの。ご存知でしょ?」


「じゃ、じゃあ罠を使うとかさ! 上手いこと誘導してさ!」


私は小さくため息をつき、首を横に振った。


「あのコロッサスという敵、決してあの場所を離れないんですよね。困ったわ」


「うーん……うーん……」


モブロックは必死に唸っていたが、結局なにも思いつかないらしい。

私は口の端をゆっくり吊り上げ、不敵に笑った。


「これまでの話からわかるでしょ? 私の持ち味は――根気と暴力ですわ」


弱点だった体力問題が解決した今、あとは単純明快。


「ひたすら削って、削って、削り抜くだけですわ。簡単な作業です」


私が平然と言い放つと、モブロックが両手を振りながら悲鳴に近い声を上げた。


「やっぱりキミ、おかしいよ……!」



巨人が動いた。


赤い光が閃き、黒鋼の腕が振り下ろされる。

床が砕け、轟音が広間に反響した。


衝撃波に吹き飛ばされそうになりながら、私は地を蹴って避ける。


「ッ……!」


その隙を狙い、レイピアを突き出した。

刃は甲冑に弾かれ、甲高い音を立てただけだった。


(……やはり正面からでは無理か)


私は呼吸を整え、狙いを変える。

巨体の関節部――膝や足首、装甲が幾分薄いそこなら、ほんのわずかに刃が通る。


ひたすら突き、斬り込み、隙あらば刃を叩き込んだ。

硬い金属に刃が食い込み、甲高い火花が散る。


少しずつだが、確かに関節部には傷が刻まれていく。

しかし――。


ガキィンッ!


乾いた音とともに、私の手から衝撃が走った。レイピアの刃が真ん中から折れ、無様に床に転がったのだ。


「……ッ!」


打撃強化の付与術を施した特別製のレイピア。

だが元は対人用の細剣、耐久力などたかが知れている。


本来なら、こんな鉄の塊を斬るための武器ではない。

それでも――。


(私には、これしかないのだ)


背後にはまだ積まれたレイピアの山がある。

ならば、いけるところまでいくしかない。


次の瞬間、折れた剣を放り捨て、すぐさま新しい一本をカイルから受け取る

「……いいでしょう。何本でも折ってご覧なさい」


私は新しいレイピアを握り直し、赤い瞳を光らせる巨人へと踏み込んだ。

(削るまで、砕くまで、何度でも挑む。それが私の戦い方ですわ)


「寄越しなさい、カイル!」

「ああ!」


カイルが震える声で返し、次の剣を投げ渡す。

私は途切れぬ連撃を続けた。


斬れなくともいい。削るのだ。少しずつ、少しずつ。

だが――


「……ッ」


視界を覆う黒い影。

巨人の拳が振り抜かれ、逃げ場を塞いだ。


次の瞬間、私は潰され、意識が途切れた。



目を開けると、再び自室のベッドの上。

私は唇を舐め、歪んだ笑みを浮かべる。

「上等ですわ…!」



二度目。


私は巨人の攻撃を紙一重で避け、脇腹へと剣を突き立てた。

火花が散り、鋼がきしむ。


だが成果は微々たるもの。

焦りが生まれた瞬間――


ドゴォォォッ!

巨人の蹴りが直撃し、私は骨を砕かれて絶命した。



三度目。


今度は足を狙う。

連撃、連撃、連撃。


剣が次々と折れ、山のように積んだ武器が消費されていく。

それでもまだ倒れない。


(ならば、倒れるまで続ければいい。私は死ねば戻れる)



何度目の挑戦だったか。

巨人の胸部装甲に、大きな亀裂が走った。


中から淡く光る核が覗く。

「……見えた」


私は最後の一本を握りしめ、渾身の突きを放った。

「砕けえええええ!!!」


レイピアの切っ先が核を貫き、鋭い悲鳴のような金属音が響いた。

巨人が震え、赤い光が瞬く。


そして――轟音と共に、その巨体が崩れ落ちた。

「……やった……」


私はその場に立ち尽くした。

しかし、胸の奥には確かな勝利の熱があった。


(ようやく……削り切りましたわ)



巨像が崩れ落ちた後、広間の奥の重々しい扉を見据えた。

息を整えながら近づくと、その扉は鈍い音を立てて開いていく。


中は――不自然なほど広い空間だった。

黒鋼の壁はどこもかしこも焼け爛れ、斬り裂かれたような跡が走っている。


まるでここで、かつて激しい戦いでもあったかのように。

そして、奥に横たわっていたものを見て、私は思わず足を止めた。


巨大な骨。

ドラゴンのそれだと、すぐにわかった。


今はただの白骨と化しているのに、なお空気を圧迫するような威容を放っていた。

壁にもたれかかるように晒されたその骸は、どこか悲壮ですらあった。


だが……。


「……これだけ?」


がっかりした。

迷宮の最奥まで来て、待っていたのはドラゴンの死骸だけ。


宝の一つも見当たらない。

だが――私は見逃さなかった。


ドラゴンの胸を貫くように、赤黒い杭が突き立っていた。

まるでその巨体を壁に縫い付け、永遠に逃さないように。


私は吸い寄せられるように歩み寄った。

近づいてみれば、それはただの杭ではなかった。


柄のような形があり、全体の輪郭は――

「……剣?」


自然と手が伸びていた。

指が柄を掴んだ瞬間――


――バンッ!!


重い衝撃が走り、空間全体が震えた。

長い年月が経っていたからだろう――ドラゴンの骨は粉々に砕け散り、白い粒子となって宙を舞う。


気づけば、私は“それ”を引き抜いていた。

右手に握られたのは、赤黒く鈍く光る無刃の剣。


その剣から響く唸りのような音。

――カルヴァロス――確かにそう聞こえた。


そして気付いた。

驚いたことに、確かにここにあるはずなのに、この剣“重さを感じない”。


「……なんて……」

なんて軽いのだ。羽のように。

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