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Ep.3

私は荒い息を整え、血に濡れた刃を見下ろした。



現在――


「つまり」

私は淡々と結論を口にした。


「カイルがパーティメンバーと認めた者は、全員“疲れ知らず”の加護を受ける。本人すら自覚していない、常時発動型の固有魔法だったのです」


モブロックは蒼白な顔で頭を抱えた。

「……いやいやいや! 確かめ方!! なんで毎回殺してるの!? もっと話し合って実験とかさ! 調べ方あるだろ!」


「ループすれば元に戻りますもの。手っ取り早く、合理的で、確実な方法ですわ」


にっこりと微笑むリリアナ。

その笑顔は、血に濡れた刃よりも冷たく恐ろしいものに見えた。



黒鋼の迷宮――


幾重もの石門を越え、私たちは最奥へと進んでいた。

壁も床も黒い金属で覆われ、光を呑み込むように鈍く輝いている。


常に低い唸りのような音が響いていて、まるで生きているかのような圧迫感があった。

道中に現れる魔物は、いずれも常識外れの強さを誇っていた。


鋼の殻に覆われた甲虫、三つ首の獣、炎を吐く魔像。

だが《不滅の疾駆イモータル・ラン》と共に戦えば、突破できない相手ではなかった。


「左から来るぞ!」


レオンの声に即応し、私は剣を突き出す。

硬質な殻を割る感触、飛び散る体液。


息は乱れない――カイルの加護が生きている証拠だった。

そして、ついにたどり着いた。


迷宮最深部へ至る扉。

そこに立ち塞がっていたのは、黒い巨人だった。


全身を黒鋼に覆われた、十メートルを超える人型の怪物。

目にあたる部分は赤く輝き、重々しい振動が床を揺らす。


「……鉄の巨像アイアン・コロッサス!」


伝承や冒険譚に語られる、迷宮の守護者。

実際に目にするその威容は、想像のすべてを凌駕していた。


レオンが剣を構え、駆け出した。

渾身の一撃を叩き込む――だが、火花が散るだけでかすり傷もない。


「っ……硬い! この剣では刃が通らん!」


すかさずミレイユが火球を放つ。

轟音と共に炎が巨人を包み込んだ。


しかし、赤黒い装甲は煤けただけで傷ひとつ負っていなかった。

「嘘でしょ……!? 焼け石に水だわ!」


私も装甲の弱そうな関節部を狙いレイピアを突き込んだ。

鋭い切っ先が弾かれ、腕に衝撃が走る。


指が痺れ、柄を落としそうになる。

「くっ……!」


巨人が腕を振り下ろす。

床が陥没し、衝撃波が押し寄せた。


間一髪で飛び退いたが、全身が震える。

この一撃をまともに食らえば、即死は免れない。


「撤退だ!」

レオンの声が響く。


「このままでは誰かが死ぬ!」


悔しいが、その判断は正しい。

私たちは必死に退路を探し、迷宮を後にした。


背後で巨人の咆哮が轟き、黒鋼の壁が低くうなっていた。



期間後のギルド内。


テーブル越しに、レオンが真剣な眼差しを私に向けていた。


「君には悪いが、この依頼はキャンセルさせてくれ」

「……なんですって?」


「金も返す。違約金も払おう。だが、命を捨ててまで挑む戦いではない」

その声に迷いはなかった。


どれほど報酬を積んでも、彼は首を縦には振らないだろう。

私は唇を噛んだ。


怒りではない。悔しさでもない。

自分な算段を崩されたことへの苛立ちだった。


(……諦めるつもりはない)


あんな強力なゴーレムが守護しているのだ。

迷宮の奥には必ず何かがある。


私の直感がそう告げていた。

ならば――戦力を再編しなければならない。


そのためには、どうしてもあの男の力が必要だった。

視線を横に向ける。


片隅で荷物を抱えている、黒髪の青年。

無口で、誰からも評価されていない存在。


カイル。


――彼の固有魔法こそが、迷宮突破の鍵だ。



黒鋼の迷宮から撤退したあと、パーティの空気は沈んでいた。

レオンは表情を固くし、ミレイユは苛立ちを隠そうともしない。


カイルは荷物を抱えて、ただ黙っていた。


(このままでは迷宮再挑戦は叶わない。けれど――カイルさえ仲間にできれば私なら突破する方法を知っている)


短い期間ではあったが、パーティを共にしてわかったことがある。

カイルは、他の二人から疎まれている。


戦闘力は低く、魔法も使えない。――もっとも、本人すら気づいていない“疲れ知らず”の固有魔法を除いてだが。


かつてレオンに命を救われたらしく、「荷物持ちでもいいから、あなたの役に立ちたいんです」と必死に願い出て、ようやく仲間に加えてもらったのだという。


その立場ゆえに、戦闘の最前線に立つことはなく、主に荷物運びや雑用を引き受け、時には斥候の真似事までしていた。


実力があるかと問われれば――正直、ゴールド等級のパーティにふさわしい人材ではなかった。

だが彼らはカイルを手放さないだろう。


レオンもミレイユも、基本的には面倒見の良い性格をしていた。

カイルの不器用さを叱りはするが、その真面目さとやる気だけは認めているらしい。


私は何気ない会話の流れで、ほんの少しだけ言葉を差し込んでみた。

「……このパーティには、カイルは似つかわしくないのではなくて?」


返ってきたのは、否定とも肯定ともつかない反応だった。


「そう思わなくはないけど……彼は真面目だし、やる気もあるからな」

「まあ……役には立ってないけど、悪い子じゃないし」


表向きの言葉はそうだった。けれど、私はその奥にある揺らぎを感じ取った。


心の半分では、戦力外として外したい。だがもう半分では、もしかすると将来性があるのではと期待している。


そんな矛盾した感情を二人が抱えているのが、手に取るようにわかった。

(……なるほど。あとは少しのきっかけさえあれば、簡単に崩れそうですわね)


私は過去のループで、宿の部屋割りやそれぞれの荷物の置き場を調べていた。

ミレイユが食堂に出ている時間、レオンが鍛錬場にいる時間……。


そしてカイルが一人で荷物を置きっぱなしにする時間。

狙うべき隙は、すでに把握していた。



ある夜。


私は宿の廊下を歩き、音を立てぬようにカイルの部屋に忍び込んだ。

背負い袋は床に置かれている。


口を少し緩めれば、中身を探るのは容易かった。

私は用意していた小袋を取り出した。


中にはパーティの共同資金――私がこっそりと“拝借”してきたものだ。

これを忍ばせれば、全ての矛先はカイルに向かう。


(さあ……後はあなたがいつも通りの口下手であってくれれば十分)


私は小袋を奥に押し込み、袋の口を整えて部屋を出た。



翌日。

宿の広間に集まったとき、ミレイユが声を荒げた。


「ちょっと! どういうことなの!? パーティの資金がなくなってるじゃない!」

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