表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/28

届いた想い

 ルナリアがステージの袖に戻ると。イグニスは観客をただ静かに見つめていた。

 そこへ、彼の父であるヴァレンシュタイン公爵が静かに歩み寄る。


「……イグニス」


 ヴァレンシュタイン公爵の低い声に、イグニスはゆっくりと振り返った。


「はい、父上」

「見事な『天雷の槍』だった。よくやった」


 その直接的な称賛の言葉にイグニスの目が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれた。

 しかし、その表情はすぐに、いつもの冷徹なものへと戻ってしまった。


「……ありがとうございます」


 イグニスの声は平坦だった。公爵は、満足げに頷いた。


「だが、これで満足するな。これからも、ヴァレンシュタインの名に恥じぬよう精進しろ」

「……はい」


 イグニスは、そう答えた。だが彼の視線は、公爵ではなく先ほどまで、ルナリアが立っていたステージの方へと向けられていた。

 そして、彼は静かに口を開いた。


「……父上は、先ほどのアシュフィールドの魔法をどう思われましたか?」


 その意外な息子の問いかけに、公爵は怪訝な顔で眉をひそめた。


「下らぬ。魔法は見世物ではない」


 そう吐き捨てるように言うと、ルナリアの方へ視線を向けた。


「アシュフィールド家の娘か」


 ルナリアは、その圧倒的な威圧感にただ息を呑むことしかできなかった。


「……は、はい」


 公爵は値踏みするように、彼女を頭の先からつま先まで一瞥した。そして心の底からつまらなそうに、こう言い放った。


「昔、イグニスを凌ぐ魔力を見せた娘……。所詮はその程度だったということか」


 その傲慢な全てを見下したような言葉に、巧ははっと息を呑んだ。


(……そういうことだったのか)


 なぜイグニスがあれほどまでに彼女に執着したのか。なぜあれほどまでに彼女の姿に苛立ったのか。

 彼は昔、ルナリアに敗れたことがあったのだ。イグニスは、自分と同等かそれ以上であるルナリアの才能を知っていた。

 だからこそ、許せなかったのかもしれない。その唯一無二の好敵手が、『落ちこぼれ』と成り果ててしまったことが。


「……まあ、よい。行くぞ、イグニス」


 父のその言葉に従い、イグニスはゆっくりとその場を去ろうとした。だが彼はルナリアの横を通り過ぎる、そのほんの一瞬。

 小さな声でぽつりと彼女にだけ聞こえるように呟いた。


「……悪くはなかった」


 そして彼は一度も振り返ることなく、闇の中へと消えていった。それは不器用なたった一言だった。

 それを確かに聞いたルナリアは、ただ静かに彼が去った方を見つめていた。その固く結ばれていた唇がほんの少しだけ綻んだのを、巧は確かに見た。


 ルナリアは胸ポケットの巧にそっと囁く。その声はもう震えてはいなかった。


「……届いたかしら。私たちの想い」


 巧は心の中で呟く。


(ああ、きっと届いたさ)


 まだ声は届かない。だが二人の心が確かに繋がっていることを、彼は確信していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ