表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/28

魔法の使い方

 会場の興奮がまだ冷めやらぬ中、司会者が次の演者の名を告げる。


「……えー、続きましては、同じく《薔薇クラス》、ルナリア・アシュフィールドさんによります、光の魔法です」


 その声は明らかに、先ほどの興奮からトーンダウンしていた。

 ルナリアとその肩の上いる巧が、静かにステージの中央へと進み出る。会場から注がれるのは拍手ではない。イグニスのあの圧倒的な魔法を見た後では、もはや何を見ても色褪せて見える。そんな白けた空気が蔓延している。


(……空気が重い)


 巧は会場の空気に押しつぶされそうになった。人の視線がこんなにも重いものだとは。


 だが、ルナリアはもはやそんな視線に怯えたりはしてはいなかった。彼女はその空気の全てをその小さな体で受け止め、そして静かに目を閉じた。

 そして誰に言うでもなく、巧にだけ聞こえるように落ち着いた声で呟いた。


「行きましょうか、タク」


 その声にもはや、誰かに評価されることへの恐れはなかった。そこにあったのは、昨日彼女が見つけた、たった一つの確かな想い。


 イグニスのような圧倒的な力はなくてもいい。誰かに凄いと認められなくてもいい。

 ただ目の前にいる誰かを笑顔にしたい。

 昨日、あの小さな女の子が見せてくれた満開の笑顔。あんな温かい光景を、この自分たちのささやかな力でもう一度作り出したい。


 彼女は詠唱を始める。その純粋で強い想いが込められた、優しく澄み渡った声だった。

 巧もまた意識を集中させる。二人の心が完全に一つになる。


 彼女の指先から、一つの柔らかな光の粒子が夜空へと放たれた。それは小さく、そして頼りない。

 イグニスのあの圧倒的な雷光と比べれば、まるで蝋燭の灯火のようだった。会場からくすくすと嘲笑が漏れる。


「なんだ、あれは」


 だがその嘲笑はすぐに止んだ。

 そのささやかな光が一つ、また一つと増えていき、やがて夜空を埋め尽くす壮大な光の芸術へと変わっていく。


 その一つ一つの粒子を、巧がリアルタイムで完璧に制御し、編み上げていくのだ。

 夜空に無数の光の蝶が舞い始める。そしてその蝶たちの軌跡から、きらきらと輝く光の粒子が、まるで魔法の鱗粉のように降り注いでいく。


 その光は決して強い光ではない。ただ見る者の心を温かく、そして穏やかに包み込むような光だった。

 破壊の力とは無縁の、ただルナリアの優しさに満ちた光だった。


 会場は静まり返る。誰もがどう反応していいのか分からないようだった。

 イグニスのあの圧倒的な「力」とはあまりにもかけ離れた、ささやかな光。それをどう評価すればいいのか。


 ただ言葉を失って、その幻想的で美しい光景に魅入られるだけだった。その沈黙を打ち破ったのは、たった一つの声だった。


「きれい……」


 それは客席のどこかから聞こえてきた、小さな子供の声だった。

 

 その純粋なたった一言。それがまるで波紋のように、会場の隅々まで伝播していく。


「ああ、本当にきれいだわ……」

「なんて優しい光なんだ……」


 一人、また一人と小さな声が聞こえ始める。

 人々は忘れていた。魔法がただ力を示すためだけの道具ではないことを。魔法はその使い方次第で様々なことができるのだという、そのあまりにも当たり前の事実を。


 やがて最後の一匹の蝶が、夜空に溶けるように消えていく。観客からは、感嘆のため息が漏れはじめる。


 他の生徒が、素晴らしい攻撃魔法を披露した時のような大きな拍手はなかった。イグニスの魔法を見た時の、畏敬のどよめきもなかった。

 ただ静かで温かい静寂だけが会場を包んでいた。


 ルナリアのその大きな瞳から、ぽろりと一筋の涙が零れ落ちた。彼女は観客を見渡すと、誇らしげに頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ