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EP2:ふたりのすれ違い:10年前

 長い沈黙が二人の間に横たわっていた。


 さわやかな鳥の声が、一日の始まりをつげ世界は祝福に満ちるはずの朝。


 ついに気持ちを吐き出すリセ。絞り出された声は高まることはない。


「だって、わたしたち、ここでなら生きていけるよ。…寒くても、こわくても、二人でいれば」


「……」


「ねえ、答えてよ。どうしてそんなこわい顔してるの?」


「……」


 炎のはぜる音だけが、二人のあいだを満たした。


 リセの声は響きがなく、雪の壁にすいこまれていくようだった。


 とても長いような、刹那のような沈黙だけが落ちた。


ーーーやがて、そっと彼は立ち上がった。


 暖かかったはずの背中を真っすぐに見つめ、リセはこらえていた涙をついにあふれさせた。


ーーーー


 まるで音を立てることを恐れるかのように、静かに去ったカアレ。


 追うことができず、唇をかみしめるリセ。


 晴れ上がった朝の気配だけが残る。春はまだ遠い。


 小さな椅子はリセの葛藤をとらえるように、きしみ小さな音を立てては沈黙する。


 うつむいた胸元から、ただただ悲しそうなすすり泣きだけが漏れていた。


 何度も、何度も立ち上がろうとするのだが、そのたびに年齢らしからぬ諦観がにじむ。


 ただ影だけがゆっくりと位置を変えて、失われていく時間をしめした。残酷に。



 何度目か顔をあげたリセに不思議な声が落ちてくる。


(リセ・・・リセ・・・お聞きなさい。あまり時間がありません。)


 こころに直接響きわたる、あたたかな美しい声。それはどこか思い出の母に似た癒しをはらんでいた。


(よく聞くのです。あなたに導きの光をさづけます。)


 リセの目の前にやわらかな光が灯る。金色の光は影をおとさなかった。


(カアレを救うため、わたしの元までくるのです。光に従い、けしてあきらめてはいけませんよ。)


 何かを問いかけようとして、リセの唇が何度もひらきかけた。

ーーー 焦燥、寂しさ、諦らめ。


(立ち上がりなさい。時間がありません、夜になる前にたどりつくのです。)


 やわらかな光を瞳に映しながら、ついに口を開いたとき…そっとその奇跡は終わりをつげたのだった。


 ただ柔らかな導きの金色の光を残して。


 それは、まだ涙の跡が乾かぬ頬を、そっと撫でていた。


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