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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者パーティを追放されそうになった最強斥候だけど、仲間が好きすぎて全力で抵抗してみた

作者: ドラクル


「何番煎じだよ」というくらい言われた追放物です。


勇者パーティが普段活動拠点としている宿舎の小さな部屋は、普段なら明るく和やかな雰囲気に包まれている場所だった。


だが今日は違った。


室内には緊張と重苦しい沈黙が漂っていた。


部屋の中央で、パーティのリーダーである勇者は何度も口を開きかけては閉じ、迷いを抱えたような表情で足元を見つめていた。


勇者の目線の先では、壁際に立ったままの斥候がフードを深くかぶり、じっと勇者の言葉を待っていた。


いつもならこの部屋には僧侶の温かな笑い声や魔法使いの冷静な冗談が響くところだが、今はそのどちらも沈黙を守り、ただ静かに勇者と斥候を見守っていた。


ようやく覚悟を決めたのか、勇者がゆっくり顔を上げると、真剣な眼差しで斥候に視線を向けた。


「……あのさ、斥候。今日は少し大事な話があるんだ」


斥候は微動だにせず、ただ静かに問い返した。


「……何だ?」


勇者は慎重に言葉を選ぶように息を吐き、言葉を紡いだ。


「君にパーティを抜けてもらおうと思ってる」


 言い終わった後の静寂は、まるで時が止まったかのように部屋の中に広がった。


 僧侶は緊張した面持ちで胸元を握り、魔法使いは興味深げに視線を向けている。


 斥候は少し眉をひそめたものの、ほとんど表情は変えなかった。


「理由を聞かせてくれ」


「違うんだよ!君が悪いとかじゃなくて、逆なんだ!君の能力は素晴らしすぎるんだよ!」


 斥候が短く言葉を返すと、勇者は慌てて手を振って言い直す。

 

 勇者の取り乱したような言葉に、僧侶が優しく頷いて補足した。


「斥候様、私たちは皆あなたの能力に心から感謝しております。ですが、勇者様がおっしゃりたいのは……」


 勇者は大きく頷いて僧侶の言葉を引き継いだ。


「そうなんだよ!君があまりにも強すぎて、僕たちが何もすることがないんだ!魔王軍との戦いも、最近じゃ君が一人で終わらせてしまうから、僕たちはいつも戦う機会すらない」


 魔法使いが深いため息を吐いて言葉を挟んだ。


「おかげで俺は最近呪文の詠唱法すら忘れかけてる。この間なんか『ファイアボ』で噛んだからな。そろそろ魔法使いを名乗る資格があるのか怪しくなってきた。道化師にでもジョブチェンジすべきか?」


「私もこのところ、回復魔法どころか杖を握ってもおりません……」


 僧侶も悲しげに目を伏せる。


 斥候は静かに言葉を聞きながら目を伏せ、小さく呟いた。


「……オレ、そんなに迷惑か?」


「迷惑とかじゃないよ! 君は優秀すぎるくらいだよ! でもボクたち、最近マジで『見学ツアーの客』みたいになってるんだよ! 攻撃一発ぐらい入れたいの!だから……その、君はソロでも十分やっていけると思うんだ。僕たちのせいで君の力を無駄にしてしまうのは申し訳ないし…」


「この前なんて、四天王戦のダンジョン、俺らが着ていた頃はただの『遺跡』になってたからな。敵も四天王も居ないせいで」


「ちなみに、斥候さん以外の私たちが敵を視認した最長時間は約5秒です」


 斥候は少し沈黙した後、ぼそりと告げた。


「……オレ、このパーティ、結構気に入ってるんだけど」


 勇者たち三人が目を丸くする。


「えっ? 今、何て?」


「お前らとの冒険、好きだ」


 勇者が戸惑いながら斥候を見る。


「口数少ないし、クールなタイプだと思ってたけど……」


「……悪かったな、無関心に見えて」


 斥候が少し拗ねたように視線を逸らす。


「なんだか、斥候様可愛らしいですね」


 僧侶は口元を緩め、嬉しそうに微笑んだ。


「……勇者は優しくて明るいし、魔法使いも俺が元奴隷と知っても変わらず接してくれるし、僧侶の酒の強さは尊敬してる」


「私だけ褒めるところ変じゃありません!?」


「口数少ないだけで、無関心と思われていたら……ちょっと、ショック」


「うう……! で、でも斥候には斥候の活躍できる場所があると思って……!」


 だが、その言葉を聞いて、斥候は真顔で切り出した。


「……なら、制限かければいいだろ」


「制限……?」


「オレ、今度から左手だけで戦う」


「それ敵側のボスが言うセリフだよ!」


「目隠しもする」


「一人だけ縛りゲーになってない!?」


「朝ご飯も抜いて体力を削る」


「そこまでしなくていいから!」


 勇者の怒涛のツッコミが響き渡る。


「もういいんじゃねぇか?ここまでついてくるって言ってくれる奴を追放したら、罪悪感が残るんじゃねえか?」


 魔法使いがそう言うと、勇者は諦めたようにため息を吐き、 


「……分かったよ、しばらく様子見でいいや。せめて、敵を全部倒すのだけは控えてよ?ボクたちも経験を積みたいからさ」


「……善処する」


 斥候はわずかに頷いた。


(絶対、する気ないよな、それ)


 魔法使いが心の中で呟いた。








 数日後――魔王城にて。


「よし、今日はみんなで魔王戦やるからね!斥候、先走っちゃダメだよ!」


 勇者が手を上げて合図を出す。


「……了解」


「マジで今回は頼むぜ。俺、詠唱の感覚すら忘れてきてるからな」

 

 と魔法使い。


「今日は回復魔法の出番がありそうなので、準備万端でございます♪」


 と僧侶。


「それでは、突撃――!」


 その瞬間、尊大な笑い声が響く。


「勇者よ!我こそは魔王!今日こそ貴様らを……」


 ドカァァァァァァン!


 突然の爆音が響き、崩れる魔王城を見て勇者たちは呆然と立ち尽くした。

 そしてすぐさま100%元凶であろう斥候を見つめる。

 

 この間、実に0.01秒弱。


「……すまん、入り口に罠を仕掛けていたら魔王が勝手に引っかかって爆発した」


 メンゴ、という感じで斥候は軽く謝罪する。


「……なぜだ……我、まだ名乗っただけなのに……無念」


 瓦礫から這い出た魔王は、そう呟いた瞬間にガクリと力尽きた。


「だから言ったじゃん! 少しは僕たちにも戦わせてって!」


 魔法使いが冷静に言った。


「今日も遠足になったな」


「では、宴会の準備でもいたしましょうか」


 僧侶が「もういいや」という感じで笑顔で呟いた。




 こうして、今日もまた勇者パーティの冒険は、斥候によって完結してしまうのだった。




ここまでの朗読ありがとうございました!

高評価、レビュー、コメント等を頂ければ次を書くモチベーションになるのでよろしくお願いします。



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