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憎みとの決別
柚ノ木灯篭に灯された
燎火が揺らぐ同時刻の夕暮れ。
先程まで晴れていた筈の空は
突然、気分を害したかのように雨粒を落とし
千切った棒麩を無邪気に投げては
石橋の上から池を眺める項を静かに叩いた。
「そんな所で何してるんだい?」
病み上がりの孫娘が
再度、寝込むのを憂慮したのだろう。
雨戸へ手を掛ける藍乃に急かされ
紫に染まる桜模様の和傘を開き
「もう少しだけだから」ーと笑みを向ける。
「傘があるなら構わないけど……
冷えないうちに戻るんだよ。良いね?」
「はい。御祖母様」
緩りと去ってゆく車椅子を見送りながら
彼女は漫ろに同じ景色を覗き込んだ。
優美に染まった椛が流れる水面から顔を出し
餌を欲して荒ぶる色彩豊かな我が子達。
その中にはギロダクチルスに寄生され生死を彷徨った
金昭和と呼ばれる錦鯉『いちる』の姿も見られた。