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65最終話


 「ルヴィアナ。ルヴィアナ。ルヴィアナ」

 うわ言のようにルヴィアナの名を呼びながらランフォードが戻って来た。

 「なんです?ランフォード様、一体どうしたのです?」

 ミシェルが心配する。

 「すみませんがルヴィアナとふたりきりにして下さい。ちょっとルヴィアナに話があるんです」

 「話ってルヴィアナは眠ったままなんですよ。戦いで頭でも打ったのですか?マーサ医者がいないか聞いて来てちょうだい」

 「はい、奥様すぐに」


 「違うんです。私はずっと逃げていたんです。ルヴィアナを幸せに出来る自信がなくて、でももうはっきりわかったんです。彼女がいなければ私は未来永劫幸せにはなれません。そしてルヴィアナを目覚めさせる方法。母上が教えて下さった。愛の告白を今からルヴィアナにしたいのです。ですからどうかしばらくふたりきりにさせて下さい」

 「まあ、そういう事だったの。ええ、もちろんです。ランフォード様頑張ってルヴィアナの事頼みますよ」

 「ええ、お嬢様が聞いたらどんなにお喜びになるか…さあ。奥様わたしたちはお邪魔ですから」



 ふたりが部屋を出て行くとランフォードは神妙な面持ちでルヴィアナに近づく。

 横たわったままのルヴィアナのそばに膝をついて近付く。

 そしてルヴィアナの手をそっと握りしめた。

 今もルヴィアナの手は冷たいままだ。

 ああ…ルヴィアナ。どうして俺は今まで…俺が温めるから、ずっとそばにいるから…そんな気持ちが押し寄せる。


 「ルヴィアナずっと言いたかった。君を愛してる。ずっとひとりにしててごめん。俺は魔獣になってしまってもう君を愛する資格がないと思っていた。君を傷つけてしまいそうで恐かった。でも、俺は君を失うことがどんなに辛いか本当はわかっていなかった。昨夜カルバロス軍と戦かったんだ。俺はもう本当に死ぬかもしれないと思った。そしたらルヴィアナ君はどうするんだろうって思ったんだ。俺はこんなだから君を助けれないのに、それなのに君が心配でどうしようもなかった。勝手な話だろう。でもさっきアルドから聞いたんだ。本能で大切なものは魔獣化しても傷つけたりしないんだと、だったら俺は君を絶対に傷つけたりしないって誓える。俺は心から君を大切だと思ってるんだ。何より世界中で一番君が大切なんだ。だからルヴィアナもう一度俺のもとに戻ってきてくれないか。今度は絶対に君を手放したりしない。全力で君を守ると誓うよ。だからもう一度俺を信じてくれないか?ルヴィアナ君に寂しい思いはさせないから…ルヴィアナ。ルヴィアナ。俺は君を愛してるんだ。君がいないと俺は生きてはいけない。だからルヴィアナ」


 こんなに言ってもだめなのか?

 ランフォードは心が折れそうになる。

 何かないのか。もっとルヴィアナの心にぐっとくる言葉は…

 女性に甘い言葉やばらの花束など送った事もない男にこれ以上の言葉は思い浮かばない。


 あっ!

 そうだ。ルヴィアナは杏奈じゃないか。

 杏奈は保育園で楽しそうに歌っていた事を思い出す。

 あの頃の杏奈は輝いていて笑顔が眩しいかったなぁ。

 「ルヴィアナ、いや、杏奈。俺、歌はうまくないかもしれないが…保育園でこの歌をよく歌っていたよな。

 ♪悲しいときは歌をうたってあげる。楽しいときは一緒に笑ってあげる。あなたの悲しみを半分もらう。代わりに私の喜びを半分あげる。私がいつもそばにいるから、私がその手を握ってあげるから、もう泣かないで…♪

 こんな歌だったかな?ルヴィアナ。俺は今この歌と同じ気持ちだ。君と一緒に生きて行きたい。どんな時も一緒に…」

 ランフォードはルヴィアナの手をもう一度ぎゅっと握りしめる。

 

 「ぅ‥ん‥」

 その時ルヴィアナが身じろぎした、握りしめた手の中で指先がごそっと動いてランフォードはルヴィアナの顔を見た。

 もうたまらなかった。

 心臓がバクバク痛いほど胸を打ち付ける。

 「ルヴィアナ起きてくれ。君を待ってるんだ。君が必要なんだ。君と生きて行きたい。だからルヴィアナ起きてくれ。もう一度俺と一緒に…俺と俺と結婚してくれ!」

 微かだが、確かにルヴィアナのまつ毛が震えた。

 「ルヴィアナ…」

 ランフォードは唇をぐっと噛みしめている。でもその痛ささえわからないほど興奮してもいる。

 ああ…ルヴィアナ起きてくれ。頼む。頼む。頼むから…

 ランフォードの願いが通じたのか遂に、ルヴィアナのまぶたがゆっくりと開いていく。

 そしてあの美しい宝石のようなアメジスト色の瞳が現れる。


 「ぅぅーん。さっきからうるさいわ。誰?私の名前を呼んでるのは…」

 「ルヴィアナ。ルヴィアナ。ああ…目覚めたんだね。良かった…」

 目覚めたばかりのルヴィアナに大きな身体が覆いかぶさった。

 「お、重いです。誰なの?」

 はっとがばりと起き上がる身体。

 「ランフォード、さま?」

 「ああ、ルヴィアナ。結婚しよう。もう二度と放さない。愛してるんだ」

 ルヴィアナは頭が混乱していた。


 「私…ちょっと待って下さい。ランフォード様どうして?ここはどこです?王宮ですか」

 そうだった。私は王宮に幽閉されていて、王妃に毒を盛られて…やっと倒れる前の記憶が蘇って来る。

 「ああ、そうだな。安心してここはルバン。宿にいる。母上やマーサもいる」

 「そう…お母様に合わせて」

 「ああ、もちろん。でもその前に俺と結婚して欲しい」

 ルヴィアナの頭はまだ混乱していた。確かディミトリーと結婚することになってでもディミトリーとは血が繋がっているから無理だと叔父様に言おうとしていてそれでランフォード様は逃げてしまって…


 「ランフォード様はもう捕まったりしないのです?」

 「ああ、もちろん。カルバロス軍を撃退したから大丈夫だ。いや、そのはずなんだ。まだシュターツに行ってみないと分からないが…ああ、それから俺は魔獣化もして、でも心配ない。君を襲ったりしないってはっきり聞いたから。だから」

 ランフォードは慌てていて、話があちこちに飛んでルヴィアナにはちっともわからない。


 ?????

 「もう、ランフォード様ちっとも大丈夫じゃないですわ。私ずっと海の底みたいに真っ暗い所にいた気がするんです。ずっと息をするのも動くのももう嫌で、とにかく何もかもが嫌で…でもね。遠くであなたの声がした気がして私思わず耳をそばだてたんです。もう、おかしいですよね。私あなたの事となるとどんな事でも気になってしまって…それでじっと耳を澄ましていたら、ランフォード様の声がもっとはっきり聞こえて来て…何だか私を呼んでいませんでした?それに…うふっ、もう恥ずかしくてこんな事言うのも照れますけど、ランフォード様私を愛してるって、手放さないとか私を守るからとか、それに私がいないと生きていけないって言いました?あなたがそんな事を言ってくれてわたしすごくうれしかったんです。私はこんな所にいてはいけないって思ったんです。何とか起きようとしてたら、今度はあの歌が聞こえて来たんです。あの歌すごく好きだったんです。保育園の子供たちと一緒にあの歌を歌ったなぁって、すると気持ちがすごく楽になってふわっと身体が浮いた気がしたんです。瞼が軽くなったと思ったら目が開いて目の前にあなたがいて…すごくうれしかった。ランフォード様私を助けてくれてありがとう」


 ルヴィアナがこれ以上ないような笑顔で微笑んだ。

 「ルヴィアナ…本当に良かった。もっと早く俺が君を救うべきだったのに…ずっと自信がなかった。でも、もう迷わない。ルヴィアナ俺と結婚してくれ」


 「うふ。ランフォード様ほんとに気が早いですね。でも、私はあなたと結婚したいですから。ずっと何があってもあなたと結婚したいって思ってたんですもの」

 「ああ、ああ、ルヴィアナ。本当に?でも、俺は魔獣化するかもしれないんだ。こんな俺でもいいか?」

 ランフォードはめちゃくちゃ真面目な顔でそう言う。

 ルヴィアナは少しぞっとするが。

 「で、でも私を襲ったりしないんですよね?」

 「ああ、はっきり聞いた。大丈夫、魔族の王アルドがそう言ったんだ。ルヴィアナありがとう。俺はなんて幸せなんだ。あっ、それにディミトリーとの結婚はなくなるはずだ。ステイシーが妊娠したらしい。それにもし爵位が戻らなかったらこのままここで暮らすのもいいかも知れない。ルヴィアナはどう?」

 「もう…あなたとならどこだって幸せですから」


 ランフォードの涙腺はついにこと切れる。

 こらえていたうれしさに涙が怒涛のように流れ落ちる。

 ルヴィアナを抱きしめていとおし気に背中をそっと何度もさする。

 彼の涙がルヴィアナの髪や耳朶を流れ落ちて行く。

 「ルヴィアナ愛してる。心から君を愛してる。君のためならどんな所でもどんな事でも出来る。何も心配ないから…さあ、母上を呼ぼう」

 「ええ、きっとお母様驚くわ」

 「でも、その前に…」

 ランフォードはルヴィアナの唇をさっと奪う。

 何度もそのかわいい唇に吸い付いて、ほんのり赤みがさしてきた頬に手を添えながらキスを繰り返す。

 「ルヴィアナ愛してる」

 「私も愛してます」

 「これ以上は…母上を呼んでくる」

 ランフォードは抑えようのない喜びにを胸に立ちあがる。



 部屋の外にいるミシェルを呼ぶ。

 「ルヴィアナが気が付いたですって?ルヴィアナ。ルヴィアナ‥」

 ミシェルはルヴィアナの名前を呼びながら部屋に入って来た。マーサも一緒だ。

 「ルヴィアナ、あなた本当に…ああ…良かったわ」

 ミシェルはルヴィアナに縋りついた。

 「お、お嬢様。気が付かれたんですね。良かった…」

 「お母様。マーサ、心配かけたみたいね。私、王妃に毒を飲まされて」

 「やっぱりそうだったのね。あの王妃許せません」

 「そう言えば大変なの。ディミトリーは国王の子供ではないの。それにカルバロス軍が攻めて来るわ」

 ルヴィアナは何もかも思い出してパニックになる。

 ランフォードがすぐにルヴィアナのそばに近づいて話をする。

 「カルバロス軍はもう排除した。安心してルヴィアナ。ディミトリーの事はシュターツに帰ってからにしよう。今はゆっくり休もう」

 「ええ、そうよ。あなたはまだ気が付いたばかり、しっかり食べて休んでそれからよ」


 ランフォードがこれだけは言っておきたいと。

 「コホン。母上。ルヴィアナが落ち着いたら私たちは結婚します。彼女からも承諾を頂いております」

 「まあ、あなた達もうそんな話を?」

 「ええ、だってランフォード様ったら、私の耳元でずっと愛してるって、私がいないと生きていけないって…結婚して欲しいと…そんなふうに言われ続けたらすぐにお返事してしまいますわ」

 ルヴィアナが真っ赤になって言う。

 「いえ、責めているわけでは、もちろんです。あなた達の結婚は決まっていた事ですもの」

 「ありがとうございます。母上。では私とルヴィアナは晴れて婚約者ということですね」

 ランフォードは改めてルヴィアナが持っていた指輪を薬指にはめるとその指に口づけた。

 ふたりは見つめ合いその顔は幸せに満ちている。

 すぐそばでミシェルとマーサは本当に良かったと涙した。

 


                               ーおわりー





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