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 トッカがアルドに知らせるために先に行くと走り出す。

 「魔王。大変だ。魔王の弟だって言う魔族が尋ねて来ましたよ」

 もともとアルドの屋敷の敷地は広かったが屋敷自体はそんなに大きな家ではなかったし、人間の屋敷のような侍女やメイドもいなかった。

 だが、コレットを迎えてからはメイドと調理をするコックを雇っていた。


 トッカが大声で叫ぶとメイドのオノーラが慌てて出て来た。

 「トッカなんです?大きな声で」オノーラはウサギ族だ。コックは猿族の小柄な男で名前はシュータと言う。

 「魔王にお客さん」


 「どうしたトッカ」

 そう言って出て来たのは魔王アルドだった。

 アルドはジルファンと同じ金色と黒色の髪をしていて、腰まである鬣のような髪を後ろで一つにまとめている。

 森の中にいるが魔獣化していないので人とさほど変わらない姿をしているがトッカの倍近い体格をしている。

 アルドは入り口に立っているジルファンを見つけるとじっと彼を見据える。

 ふたりは顔立ちも雰囲気もよく似ていた。


 アルドは相手を見つめ匂いを嗅ぎ相手が何者か探っているのか、眉間にしわを寄せ鼻をひくつかせる。

 「何者だ?」

 魔王らしい威厳と風格を備えたアルドは、いくぶんか相手と少し距離を取りながら威嚇するように低い声でジルファンに問う。


 ジルファンの体格はアルドとさほど変わりなかったが、なにぶん人間の中で暮らしてきたせいか姿勢も少し前かがみだったし態度も魔王のような威厳はない。

 ジルファンは魔王相手だと言うのに友達に話しかけるように自己紹介し始めた。

 「俺の名はジルファンだ。突然すまん。アルド、確かお前とは双子の兄弟だったはずなんだ。今から100年前にこの森から出てずっとここには来ることもないと思って来たんだが、ちょっと事情が変わってな」

 ジルファンも兄とはいえ幼くして離れ離れになったためほとんど記憶がない。

 最初の言葉としては最悪だとも思えたが、何といっていいかもわからない。


 アルドは嘘だろ?とでも言いたげで。

 「ちょっと待ってくれ、お前が俺と兄弟だって?」


 アルドが顎を突き出すようにして今一度ジルファンを見据える。

 互いの瞳が見開かれると、2人の瞳は赤い虹彩に染まり金色の瞳が輝きを放つ。

 アルドはそれを見てさらに驚く。

 「嘘だろ!あっ、いや、すまなかった。お前は王の子供に間違いなさそうだが…」

 腕を組んでかんがえこむ。


 ジルファンはアルドが分かってくれたとばかりにしゃべり始める。

 「ああ、俺の父はダヴィド王。母はエリエーヌ。俺達は双子として生まれ俺は人間に育てられることになったんだ。それで3歳の時に離れ離れになったってわけで」

 「そう言えば俺には弟がいたと…記憶があいまいだが、確かに母さんは双子を産んだと聞いた。幼くして手放したと…」

 「ああ、でも人間に渡したとは言いたくなかったんだろうよ」

 「そんな事は死んでも言いたくないだろうな。じゃあ、お前が俺の弟って事なのか」

 「ま、そういうことだな」

 ジルファンはやっと話が出来るとほっとする。



 「あっ!」

 アルドが思い出したように声を上げる。

 「だからか。コレットが俺の妻としてここに来た時人間と約束させられたことがある。人間には魔族の血を引く子孫が必要だから生まれた子供の男の子を一人引き渡してくれと言われた。これが条件だとも人間は言った。100年前にもこれと同じことがあったという事なのか?」


 ジルファンはため息を漏らして小さな声でつぶやいた。

 「ああ…人間はまたしても俺の時と同じことをするつもりなんだ」

 はっとしてアルドを見てはっきり言う。

 「アルド子供を渡してはいけない。俺と同じ思いをさせることは絶対にさせないでくれ」

 「ジルファンと言ったな。お前はそんな辛い目に遭ったのか?」

 「ああ、だから同じ思いはさせたくない」

 「ジルファンはそれを伝えに来てくれたのか?」

 「いや、そうじゃないんだ。この事はまた後で話をさせてくれ。今はもっと別の急ぎの用があるんだ」

 「それで急ぎの用とは?」


 ジルファンはルヴィアナの症状を話して魔族の中に透視能力を持った奴に見て欲しいと頼んだ。


 「透視能力か…いるにはいるが」

 アルドの表情は重い。

 「俺の弟のフォルドというのが透視能力を持ってはいるが…ジルファンにとっても異母兄弟って事になるんだが、そいつは父と魔族の母との間に出来た純魔族の子供で、あいつは根っからの人間嫌いでな。今は人間の里で悪さばかり働くので幽閉しているんだ」

 「他にはいないのか?」

 「ああ、年寄りのおばばがいたが亡くなった。今はフォルドだけだ」

 「そうか、ではフォルドに話をさせてくれないか?」

 「お前が?無理だ。俺が話をする。かなり長い間閉じ込めていたから協力すれば出すと言えば言うことを聞くかもしれないが…」

 「とにかくルヴィアナは俺に取ったら恩人で、もうあまり時間がないかも知れないんだ。いいからそのフォルドに話をしてみてくれないか。俺達には彼女が何かに呪われているらしいって事しかわからないんだ。頼む」

 ジルファンはアルドに頭を下げる。


 「わかった。いきなりの再会がこんな頼みごとだとは思いもよらなかった。これが片付いたらゆっくり話がしたい」

 「ああ、俺もだ」

 ふたりは同時に微笑む。


 アルドは屋敷から出ると森を抜けてしばらく進んだ。

 すると、小さな石造りの小屋が見えて来た。

 「あそこだ」

 少し離れた場所からでもうなり声が聞こえた。

 「ウゴォー!ここから出せ。アルド、お前人間の手先になりゃがって、魔王のくせに…クッソー」

 「あれか?」

 「ああ、この調子じゃまだ言うことを聞くとも思えんが」

 

 石造りの家に入ると中に鉄で作られた檻があり、その中でフォルドがうなっていた。

 アルドは呆れたものを見るように牢に入っているフォルドに声を掛ける。

 「フォルド、久しぶりだな。おい、いい加減あきらめたらどうなんだ?」

 「アルド。貴様俺をこんな所に閉じ込めやがって、早く出せ!」

 「今のままではな。また民家や畑を荒らすんだろう?そんな事をすると分かっていて出せると思うか?」

 本当の事をつかれてフォルドの強張っていた顔が少し揺らぐ。

 フォルドの身体は大きい。アルドやジルファンよりももう一回り大きい。

 顔は獅子族の父親と同じ顔で金色の目で口は大きく裂けて大きな牙がある。髪は母に似たのか銀色の鬣をしている。

 こんな男が暴れ出すとそれは手が付けられないだろうとジルファンは思う。


 「いや、兄貴。俺もばかじゃない。こんな所にずっと入れられてたんじゃたまらねぇ。ここから出すというなら話を聞いてやってもいいぞ」

 弟のくせに上から目線だ。

 「いいから聞けフォルド。今は俺が王なんだ。お前のその口の利き方はどうだ?いくら身内とはいえそれは聞き捨てならんぞ。グァオゥ」

 アルドが一声、咆哮を上げた。


 途端に大きな体のフォルドが委縮した。

 魔族は王には逆らえないという本能のようなものがあるらしく、本気で王が怒ると太刀打ちできないのだ。

 さすがのフォルドも覚悟を決めなければと思ったのか、今度は大人しく言った。

 「頼む。いえ、頼みます。アルド王。俺をここから出してください。出してもらえれば二度と人里を襲ったりしません。人間に危害を加えたりしないと誓います。だから、もう出して下さい」

 「その言葉信じてもいいのか?」

 「もちろんです」

 「そうか。では一つやってもらいたいことがある。ここにいるのは俺の弟のジルファンだ。はるばる訪ねて来た。お前の透視能力で人間をひとり救ってほしいそうだ」

 フォルドはジルファンを見る。

 互いの瞳を見合わせれば同じ王の子供だとすぐに理解できた。

 

 「ジルファンか。お前も王の子なんだ。まいったな。まさかアルドよりほかにももう一人厄介なのがいたとは…だが、どうして人間を助けたい?人間は俺達をなにかと邪魔者扱いする。そして都合のいいように使うと知ってるはず」

 「フォルド、そんな事聞かなくてもわかるんだろう?」

 ジルファンは試すようにフォルドを見る。

 彼は自分をさらけ出すのはいやだった。

 ましてや同じ魔族の弟になど知られたくもなかった。

 でも、すぐにでもルヴィアナを助けるにはフォルドの力が本物か確かめたかった。

 そうだ。俺のプライドなんかよりルヴィアナの命の方が何倍も大切だ。


 フォルドはばかにするなとでも言いたげにジルファンを凝視し始めた。

 じっとジルファンを見つめていたが、そのうちフォルドは悪態をつき唾を吐き捨てる。


 「ジルファン。あんたそれほどひどい目に遭っても人間を助けたいのか?信じられん…」

 「彼女は特別なんだ。俺を獣でなくひとりの人間と見てくれたんだ。だから彼女だけは助けたいと思える。彼女は俺に心を取り戻してくれたんだ」

 「アルドをおかしくしている人間みたいにか?」

 「おい、フォルド。俺はおかしくなんかなっていない。俺は…コレットに惚れたんだ。何が悪い。人間だろうと魔族だろうとそんな事関係ないだろう。俺は自分の気持ちに正直でいたいだけだ。それが母さんの望みだったからだ。ジルファンも知っておいて欲しい。母さんはずっと後悔していた。きっとジルファンを手放した事をずっと悔いていたんだ」

 「母さんが?…そうかもしれんな。子供を手放して後悔しない親はいないだろうな。俺もそんな気持ちがわかるようになった。実はそのルヴィアナを好いているのが俺の息子なんだ。だからこそ絶対に彼女を助けてふたりで幸せになってほしいんだ。どうだフォルド頼めるか?」

 ジルファンは自分でそう言って驚いた。

 そうか。俺はランフォードを愛している。ルヴィアナも愛している。

 ふたりは俺にまた愛するという感情を思い出させてくれた。


 「もう、俺の兄弟はどうなってんだ?どれも人間かぶれしやがって、俺みたいに魔族の誇りはないのか?」

 「俺にも魔族の誇りはあるさ。いや人間としてかも…?」ジルファンが言う。


 「それを言うなら皆、誇りを持っている。それが魔族だろうと人間だろうとそんな事関係ないだろう?一人の男としての誇りだ。フォルドなんか文句あるか?」

 アルドはじろりをフォルドを睨む。

 「いや、それでいいんじゃないか。男としての誇り。それじゃ、やるしかないな」

 フォルドも仕方がないと。

 「やってくれるのか?助かるよ」

 ジルファンがほっとしたように言う。

 「フォルド誓いを忘れるなよ。人間に危害を加えたら容赦はしないからな」

 アルドはフォルドを見据えた。

 「しつこいぞアルド。王には逆らえないってことくらい子供でも知ってる」

 フォルドはジルファンについてルベンに行くことになる。







 

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