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 もしかしたら私の声もランフォードに届くのではと彼の名を呼ぶ。

 「ランフォード様…ランフォード様…聞こえたら返事をして下さい…ランフォード様…」

 いくら彼の名を呼んでも彼からの返事はない。

 狼狽えた気持ちは次第に怯えに変わり、そして失望に変わって行った。


 涙が枯れるほど泣いて、心がひび割れて溢れた感情がやっと静まると、最後にレイモンドの言った言葉が蘇った。

 王の遺言は絶対だ。誰も逆らうことなど出来ない。

 ここが元の世界だったら…

 でもどんなに頑張ってもここはレントワール国なのだから…

 いつものような元気は全く出てこない。どうしてって、きっとランフォード様から別れを告げられたからに決まっています。 

 もしも彼が元の世界の映画のように私を奪いに来てくれるとか。

 一緒に逃げようと言ってくれるとか。

 そんな可能性はマイナス100%以上で…

 確かにこの国での国王の命令は絶対。

 でも私は諦めません。だってランフォード様と約束したのです。


 だからこそランフォード様の事は何としてもお救いしなければ…

 いつまでもこんな所で泣いていても何も解決できるはずもありません。

 そうです。絶対に結婚しなければならないのならその代わりにランフォード様を救えるかもしれません。

 こうなったらやるしかありません。

 元々やると決めたら行動は早い前世の杏奈だ、こうしてはいられないと…

 ルヴィアナはひとりで王宮に行こうと決めた。

 叔父様(リカルド宰相)に会ってランフォード様は無実だと分かって頂く方がいいというものです。

 


 「マーサ悪いけど、私、街に出かけますから馬車を準備するようにしてちょうだい」

 「今からですか?」

 「ええ、馬車を呼ぶように伝えたら支度を手伝って下さい…ほら、早く行って」

 「本当にいいんでしょうか?お母様に相談された方がいいのでは?」

 「あなたは私の侍女でしょう?」

 マーサは渋い顔をしたままだ。

 「もう、仕方ありません。マーサ、私は叔父様に会いに行ってくるつもりです。会ってはっきりとランフォード様の無実をお話するまでです」

 「お気持ちはわかります。ですがお嬢様が殿下と結婚されることはもう決まった事ですよ。シャドドゥール公爵様とのご結婚は無理なんですよ?」


 結婚は無理。そんな言葉はあえて聞こえなかったことにする。

 「マーサ。ランフォード様が牢に入れられたり爵位を奪われるのはおかしいのです」

 「そのような事になっているのですか?」

 マーサも驚いた顔で聞いた。

 「そうです。先ほどお兄様が帰られて話をされましたから…とにかく馬車を用意してちょうだい!」

 マーサはルヴィアナの態度に恐れをなしたのかそれ以上何も言わなかった。

 というより言えなかったのだろう。

 ルヴィアナはドレスに着替えると王宮に行った。



 **********


 王宮に着くとすぐに宰相の執務室に出向こうと急ぐが近衛兵に見つかってしまった。

 だが、運よくリカルド宰相のところに連れて行ってもらえた。

 「叔父様、お忙しい所申し訳ありません」

 「ああ、ルヴィアナきれいだよ。聞いたか?遺言はお前を王妃にするようにとあった」

 「はい、聞きましたが…」

 返事はしたものの大きなため息が漏れる。

 心の中では、今はそれどころではありませんわ。という気分だった。

 「それより叔父様。シャドドゥール公爵の事でお話がありますの」

 「あいつの事はもう考えるな。あいつは重罪人だ。お前が関わっていい事ではない」

 「ですが、彼は何もしていませんわ。国王は無実の彼を牢に入れて、彼は牢の中で魔獣盗伐の時に受けた魔源の力のせいで苦しんでいたのです。でも誰も手当てする者もなく、それでみかねて副隊長のダミアン様が牢から連れ出したのです。ランフォード様はそれはかなり衰弱されていて、それでも勝手に牢を出てしまったことを詫びに行くと言われて国王に会いに行かれたのですよ。そんな彼が国王に何かするなどありえないですわ!」

 「ああ、国王は病死と判定された。その心配はない。だが、こんなに騒動になってしまってはシャドドゥール公爵をこのままには出来んのだ」

 ルヴィアナはそう言い始めた叔父の手を握った。

 そんな事何が問題なのです。叔父様なら何とかできるはずですわ。と思う。



 その瞬間、頭の中に叔父の考えが流れ込んできた。

 ”いいから黙っていろ!これはチャンスなんだ。この際シャドドゥール公爵家を潰してクーベリーシェ家を公爵家にする。ガスティーヌ家と合わせれば莫大な力を得ることが出来るじゃないか。ディミトリーは脳なしだから、あれを操るのはたやすい。そしてこれだけの力があればこの国を思うように操れるのだからな。”

 

 ルヴィアナは悲しくなった。

 「何を言っても無駄という事ですか…では、せめて彼に会わせていただけませんか?」

 こうなったら私が彼を牢から出して逃げるしか…

 「いや、無理だ。諦めてくれ。近衛兵ルヴィアナ嬢を部屋から連れ出せ!」

 とその時リカルドがルヴィアナのしている指輪に気づく。


 「待て!ルヴィアナその指輪は?」

 「これはランフォード様からいただいた。私は彼と結婚の約束をしているのですから。だから殿下とは結婚できませんわ」

 そうです。私とランフォード様はもう結婚の約束をしていました。

 「シャドドゥール公爵がお前に?これはいいことを聞いた。ルヴィアナ、そういう事なら彼を国家反逆罪にも出来るんだぞ」

 急に叔父の猫なで声のような優しい声が聞こえた。


 「それはどういうことです?」

 「まだわからないのか?国王の婚約者に求婚するなどこれこそ国王を侮辱している証拠だ。その指輪を渡しなさい。これはその証拠だ」

 「いやです。やめて…」

 数人の近衛兵がルヴィアナの前に立ちふさがる。彼女の指から指輪が取り上げられた。

 「いやです。返して…それは彼がくれた大切な指輪…もう、どうしてこんな事が出来るのです」

 「彼の命を助けたければ殿下との結婚を承諾してもらうしかない。さあ、どうするルヴィアナ?」

 ルヴィアナの心臓がドクリと脈打つ。ランフォード様が死罪?

 だめ。だめ。そんなこと出来るはずがない。


 「も、もし私が結婚を承諾すればランフォード様の命は保証していただけるの?」

 思わずそんな事を口にしてしまう。

 「もちろんだ。彼の命は助ける。だが、爵位は返していただくことにはなるだろうが…」

 「わかりました。結婚を受け入れます。ですがすぐに彼を釈放するのが条件です」

 「いや、そうわけにはいかない。ルヴィアナ、今から離宮にて過ごしてもらおう。大切な時期王妃になるお方、ミシェルには私から伝えておく。では…」

 叔父は指輪をルヴィアナに着き返すとさっと距離を取った。

 それと入れ替わりに近衛兵がルヴィアナの体の横にぴたりとついた。


 「いえ、困ります。私は帰ります。離して下さい。こんなのまるで誘拐です詐欺です。叔父様こんなことはやめて下さい!」

 ルヴィアナの言葉など聞こえないかのように近衛兵が彼女の腕を両方から挟み込んであっという間に離宮に連れて行かれた。

 離宮は王宮の裏手にあり、王宮の中と入っても少し目立たないようにたたずんでいた。離宮の周りには囲いがぐるりとしてあり、高貴な人物を幽閉しておくための場所とも言われていた。

 そんな離宮は目の前に美しい庭が広がる美しい屋敷だった。


 ああ…どうしましょう。叔父の恐ろしい考えに結婚を条件にランフォードを釈放して無罪にしてもらう計画が狂ってしまいました。

 あんなに優しかった叔父の闇の部分を知ってしまうと、自分の結婚を条件にしたところで叔父の考えが変わるようにも思えなくなっていく。

 ルヴィアナはただ唯一手のひらに残ったランフォードから貰った指輪を握りしめる事しか出来なかった。







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