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ダミアンとレイモンドは騎士隊の武器庫に走った。
武器庫には剣を修理したりするため色々な道具がある。
武器庫に来るとダミアンが斧を取り出した。
そして持っていた剣を地面に置くと上から斧を振り下ろした。
カキーン!剣は弾き飛ばされたが壊れてはいなかった。
「ダミアンこれはどうだ?」
レイモンドは大きなハンマーのようなものを出した。
「これなら…」
今度は剣を成形する土台の上にスピリットソードを固定してそのハンマーで打ち付けた。
バッキーン
剣は大きな音を立てて真っ二つに折れた。
「これでいいのか?」
「様子を見に行って来る。ダミアンはそこで待っていてくれるか?」
「ああ、わかった」
レイモンドが走ってランフォードの部屋に急いだ。
「剣は壊した。真っ二つに折れた。どうだランフォードの様子は?」
ルヴィアナはランフォードを縛っているベッドのそばに立ったままだ。
「ええ…きっと大丈夫だと」
ランフォードは先ほどまで暴れて大きな声を張り上げていたが、今しがた意識を失って動かなくなっていた。
「ランフォード様?」ルヴィアナが近付こうとしたがレイモンドが止めた。
「待て、俺が…」
レイモンドがそっとランフォードに近づき彼の腕に触れた。
次の瞬間レイモンドの手に肌が摺り寄せられた。
「ルヴィアナ…」
「ばか!俺はルヴィアナじゃないぞ。やめろ!ランフォード」
大声でそう言われてランフォードは、ぱっと意識を取り戻した。
「レイモンドじゃないか。どうしてここに?」
「お前を助けるためだろう?ったく。覚えていないのか!」
ランフォードが目をしばたく。
「どうだ気分は?お前さっきまでひどく暴れてたんだぞ」
「俺が?」
「そうですよランフォード様。きっとあの剣のせいです。剣が魔獣の憎しみを取り込んであなたを苦しめていたんだと思います」
「あのスピリットソードが…?」
ランフォードの驚きそして納得したらしかった。
「それでずっとあの剣に何かを感じていたのか…悪いがこれ、ほどいてくれないか?」
ランフォードはまだベッドサイドに縛られたままの手首を揺らす。
「ランフォードお前正気に戻ったんだろうな?ひどく暴れて大変だったんだ」
「ああ、もう正気だ。ルヴィアナ恐がらせてすまない」
「それはいいですが、それより体は大丈夫なんですかランフォード様?」
その時ランフォードのお腹がぐぅーと鳴った。
「ああ…腹が減った」
やっと手首をほどかれて起き上がるとルヴィアナは心配してすぐにランフォードのそばに来た。
そして彼の手を握って大丈夫か確かめ始めた。
「あっそうだ。ダミアンを呼んでくる」
「そうでしたわ。ダミアン様にもお礼を言わなくては…」
レイモンドは急いで部屋を出て行った。
「体力は落ちていますが大丈夫みたいですわ。わ、私、何か食べるものを…」
ルヴィアナが視線を逸らす。
それもそのはず、ランフォードは腰にタオルを巻き付けた以外は裸のままで、そのタオルさえ起き上がったせいで彼の中心部は今にも見えてしまいそうなのだから…
おまけにたくましい胸筋も腕の筋肉も男らしさが漂っていて…
こ、こんなの天鬼組があったころは男の人の上半身裸なんかしょっちゅう見ていたのに…
大好きなランフォードだと思うと羞恥が込み上げてきた。
たった今気が付いたランフォードはそんな事に気づく様子もなくルヴィアナの心配をした。
「ルヴィアナは大丈夫だったか?この3週間どうしていた?」
「私、知らなかったんです。あなたが牢に入っている事…それに王妃様から勉強をしなくてはいけないと言われて部屋から出してもらえず、おまけにディミトリー様と結婚することになったなんて全然知らされていなかったんです。そしていきなりあなたは婚約していたと聞かせれて…だからランフォード様に本当の事を聞こうと思って牢について行ったんです。そしたら…」
もう堪えきれない雫が目の縁からポロリとこぼれ落ちた。
その雫を彼の指先がそっと受け止める。
「泣かなくていい。ルヴィアナ君と結婚する。約束しただろう?俺は婚約なんかしていない。あんな話は作り話だ。安心して…国王は無理だろうが…さあ…」
ランフォードの力強い腕がルヴィアナをぎゅっと引き寄せた。
彼の胸の中にルヴィアナはポスっと収まるようにベッドに腰を下ろした格好になりそのまま頭を埋めた。
温かい体にしっかり脈打つ鼓動の音。それだけでルヴィアナは彼が無事だと安堵した。
「私はランフォード様と結婚したいのです。国王の事は関係ありませんわ」
ルヴィアナは鼻をぐすんと言わせながら彼を見上げる。
「ああ、君ならそう言うと信じていた」
ランフォードは我慢できないと両手でルヴィアナの頬を挟み込む。
そっと柔らかな感触が唇に触れるとチョコレートが溶け込んだみたいに唇がとろけた。
ふたりは何度もキスをして何度も抱きしめ合った。
しばらくしてルヴィアナのお尻の辺りに何やらごつんと硬いものが触れる。
ランフォードはこんな無様な姿を見せた後だったが、柔らかなルヴィアナの体に触れているうちに激しく興奮してしまったらしい。
「ルヴィアナ…ルヴィアナ…好きだ。好きだ。お前が…」
ランフォードの手がルヴィアナのデコルテの隙間に差し込まれて行く。
「ぁあっ、はぅん…」
ルヴィアナはあまあまでとろっとろっのキスに何も考えられなくなっていた。
彼の手が胸元をまさぐり始めてもまだ脳内はとろっとろっのままで…
ランフォード様…まだ、魔獣の血が?朦朧とした中でそんな考えが浮かぶ。
そこにドアが開いてダミアンとレイモンドが入って来た。
「隊長ご無事で何よりで…す。あっ、これは失礼しました」
ダミアンはドアを閉めようとしたが、そうはいかなかった。
「ランフォード!お前ルヴィアナに何をするつもりだ?すぐに離れろ!」
ルヴィアナもランフォードも一気に夢の世界から引きずりおろされる。
「違うの。これは…ランフォード様の様子を見ようとしていただけで…」
「違うんだ。こんなつもりはなかった」
「まさか、まだ魔獣の?」
「違う!ただあまりにルヴィアナが可愛すぎて…」
「そう言うことは結婚してからにして下さい!」
バツが悪そうにランフォードが掛布を引き上げた。
「そうだわ、何か食べるものを…でも、ここは騎士隊の部屋で…」
ルヴィアナも顔を真っ赤にして部屋を出て行こうとして立ち止まる。
「何か持ってきます。待っていてください」
ダミアンがそう言うと部屋を出て行った。
「これでも着ろ!」
レイモンドが乱暴にシャツとズボンをランフォードに渡すとランフォードは急いで服を着た。
「だが、牢を抜け出したことがばれたら大事になるぞ。夜になれば食事を運んでくる門番がお前がいないことに気づくはずだ。どうするランフォード?」
「王に会う。俺は殴りかかってもいないし婚約もしていない。やっていない罪をきせられたままではルヴィアナと結婚も出来なくなる」
「では俺も行こう」
「私も行きます。国王にははっきり言います。ディミトリーと結婚しないと」
そこにダミアンがスープやパンにハムやチーズを挟んだものを持って来た。
「隊長、取りあえずこれを」
ランフォードは、スープを飲みサンドイッチを平らげた。
「ルヴィアナ君は来てはいけない。もし何かあったらどうする。話は俺がするから心配ない。ルヴィアナは家に帰って待っていてくれそしてレイモンド頼む」
「いやです。やっとランフォード様と一緒にいられるのに」
「すぐに会いに行く。だから…レイモンド頼んだぞ!」
レイモンドはランフォードの気持ちを察してそれ以上は何も言わなかった。
ルヴィアナは無理やり馬車に乗せられてクーベリーシェ家の屋敷に帰らされた。
そして何とか体調を取り戻したランフォードは王宮に戻ることにした。
「隊長、俺も行きます。俺が牢から連れ出したんですから責任は俺が…」
「ダミアンありがとう。でも、これはそんな話では済まない。国王はルヴィアナをディミトリーと結婚させようとしている。そのための罠だったんだ。何としてもディミトリーとの結婚を阻止しなければいけない。もし俺に何かあったらルヴィアナを頼む」
「そんな頼み聞けませんからね。俺も一緒に行きます」
「そうだな。何かあった時の為にダミアン悪いが国王との話の証人になってくれ」
ランフォードもバカではない。同じ過ちを繰り返したくはなかった。
すぐに気持ちは変わりダミアンと一緒に王宮に向かう事にした。