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 ルヴィアナは気持ちを入れ替えて執務室に現れた。

 今日も頑張るわと…


 「おはようございます。ローラン様。今日もよろしくお願いしま…」

 「クーベリーシェ嬢、あの、ほら、例の特使のお話は外交官の知らせてあるんですか?特使の方はレントワール国に何かの目的があって来られるはず、ただの観光で来られるわけではないんですよ!」

 そんな話聞いてないけど…張り切った気持ちはあっという間にしぼんで行く。

 「そんな事ローラン様おっしゃらなかったじゃないですか。そうならそうと早く仰ってくださいよ…すぐに外交官に知らせて来ます。でもどんな目的とは書かれていなかったようですが…」

 「もう!それを相手にお尋ねするのもあなたの仕事じゃないですか。いいから書類を出してください。急いで相手の方にご連絡をしないと…まったく!シャドドゥール公爵がいなくなって忙しいんですよ。しっかりしてください!」


 ローラン様今日は酷く荒れてらっしゃいますね?もしかして…

 「あの…奥様と喧嘩でもされたんですか?」

 「ど、どうしてそれを…」

 「ああ、やっぱりそうなんですね。いいですか、奥様はきっと寂しいんです。お仕事は遅いし、食事の支度をしても一緒に食べる時間もないとかじゃないんですか?」

 「余計な…どうすればいいんです。仕事は終わらないし私が遅くなるのは仕方がないじゃありませんか。妻はそれをわかるべきでしょ?」

 「ええ、もちろんです。でも、お料理を褒めてあげるとか、今日もきれいだとか優しい言葉だけで女はうれしいんですよ。簡単な事じゃないですか、言葉一つかけるだけです」

 「そうなんですか?」

 不意にローラン様の表情が…


 「そうですよ。今日はお花でも買って奥様にいつもありがとうって言ってあげて下さい。それに私もお仕事頑張りますから、ローラン様は今日は定時で帰って下さいね」

 「でも、そんなわけには…」

 「では、今日だけはそのようにして下さい。奥様は何より大切ですよ」

 ローラン様の顔が強張る。

 えっ?私そんなおかしなことを言った?

 「あなたからそのようなお優しい言葉が聞けるなんてディミトリー殿下が帰られたらきっとお喜びになられますね。何だかクーベリーシェ嬢、最近変わられましたね。前よりずっと優しくなられて…」

 「そうですか?ありがとうローラン様。私頑張りますから」

 ルヴィアナはいつにもまして仕事に励んだ。


 アバルキア国の特使の件は、書類をもういちどよくたしかめると、アルバキア国の国際交流をしている方からだった。

 レントワール国との友好関係を持つために訪れたいと書かれてあった。いずれお互いの国の交流を深めていきたいとも書いてあり今回の訪問を了承いただきたいと。

 「ローラン様、ここにちゃんと書かれていましたわ。友好関係を持つための特使がいらっしゃると外交官の方にこの書類を持って行けばいいですね。では行ってきます」


 ルヴィアナは張り切りっていた。

 これで気持ちの整理はついたわ。これからはディミトリー殿下が認めてくれるように一生懸命やるしかないもの。

 きっと殿下は私を許して下さる。そして結婚したら何でも話し合えて、お互いを思いあえるそんな夫婦になりたい。

 杏奈の時には母親は生まれてすぐに出て行ったから、今度こそは両親揃って子供を育てていきたいとも…


 **************


 そして数日後アバルキア国から特使が見えた。

 出迎えは外交官やルヴィアナが出迎えた。

 特使は女性ふたりでカルミアとダーチャと名乗られた。

 黒髪の肌の少し浅黒い、しかし整ったお顔立ちの美くしい女性だった。

 王宮の客間にご案内をする。

 ルヴィアナは、この日の為に調度品を整え、小物や備品にまで細かく気を配った。

 「さあ、お疲れでしょう。カルミア様、ダーチャ様どうか今日はごゆっくりなさってください。お部屋は左右に別れて寝室がございます。あちらがクローゼット、そしてバスルームになっております。バルコニーからの眺めも王宮の中庭が一望できますし、御用の時はこちらのベルを鳴らしていただければ侍女が参りますので…」

 「ルヴィアナ嬢ありがとうございます。このような素晴らしいお部屋を用意して下さり光栄です。どうか皆さんにお礼を言っておいて下さい」

 「ありがとうございます。晩餐会は国王や宰相、外交官なども同席して歓迎いたします。どうかアバルキア国のお話などお聞かせください。では、後ほど…失礼いたします」


 その夜は国王や宰相、外交官などが出席した晩餐会にルヴィアナも同席した。

 話はアバルキア国の事を国王たちが真剣に聞いて、本格的にアバルキア国との友好関係を考えている感じも受けた。


 特使のふたりはその夜も大変気分良く過ごされたようで翌朝部屋に伺うと、お風呂の湯が沸く魔石に興味をそそられたようだった。

 それに宝石みたいなエメラルドグリーン色の石鹸も、宝石をあしらったランプや便せんや羽ペンもすごく気に入ったと言われてルヴィアナはすごくうれしかった。


 その日の午前中は外交官の方々と会議室で話をされて、午後にはルヴィアナがシュターツの案内をした。

 特使の要望をきいて王宮内の案内や、騎士隊の練習場、王宮内の魔石の製作所を案内した。

 騎士隊も魔石の見学も王宮内だったし、それも少し離れた場所からの見学でルヴィアナは特に許可も取ってはいなかった。

 明日は朝から街はずれまで出かける予定だ。鉱山まではとても行けないが鉱石の加工場や街の市場を案内する。

 きっと宝石の原石などを見せたら喜んでもらえるとルヴィアナは、特別にお土産用にして頂こうとか工場の方に、金の櫛や宝石をあしらった鏡をお願いしていた。

 

 「カルミア様、ダーチャ様これはレントワール国に来られた思い出に作らせたものです。どうかお持ち帰りになって下さい」

 金の櫛と宝石をちりばめた鏡を見たふたりは顔を見合わせて驚いた。

 「まあ、このような高価なお品を?」

 「とても綺麗で使うのがもったいないくらいですわ。本当に感謝します」

 ふたりの喜びようなそれはもう大変なものだった。

 そして街の市場での買い物も、きれいな布地や金細工、食べ物もチーズやワインなどアバルキア国にはない珍しいものが揃っていて色々な品物を買われて持ち帰ると言われた。


 その日の夕方特使の方を王宮まで送ってルヴィアナは、ふたりと別れると急いで執務室に駆け込んだ。


 「ローラン様、すみません、遅くなりました。すぐにお手伝いしますね」

 それからローラン様の手伝いをして屋敷に帰ったのはかなり遅かった。

 お母様から叱られたが特使の接待と知っていたのでそんなにとがめられることはなかった。


 翌日は昼前に特使の方を見送り、やっと重い責任から解放された。

 それから数日ルヴィアナはいつにもまして執務に励み、面会や陳情もこなせるようになって行った。

 国内の色々な領地でどのような困窮した状態が起こっていることなど、ほんの少し前までは知ることもなかったというのに…

 ”未来の王妃は見所がある。こんなにしっかりした方だとは思ってもいなかった。やはり国王の目に狂いはなかった。結婚式が楽しみだ。”

 等々うれしい声を頂くまでになっていた。



 そしてあっという間に1か月が過ぎ明日にはディミトリー殿下が帰って来る連絡が入る。

 「クーベリーシェ嬢、早いものですね。もうあれから1か月が経つなんて、殿下が帰られてもまたお手伝いに来てくださいよ」

 「ええ、もちろんですわ。時間のある限り来ます。ローラン様もご無理なさらないようになさって下さいね」

 


 その日の午後だった。

 近衛兵が執務室にやって来た。

 「ルヴィアナ・クーベリーシェ嬢は?」

 「はい、わたくしですが…何か?」

 「あなたに機密情報漏洩容疑が掛かっています」

 「えっ?きみつじょうほうって?」

 「あなたアバルキア国の特使に騎士隊の本部や魔石の制作を見せましたよね?」

 「あっ、ええ、離れたところから特使の方がご覧になりたいとおっしゃったので、それが…」

 「公安府から調査依頼が来ています。私たちと一緒に来てください」

 「いえ、何かの間違いでしょう?彼女は王太子の婚約者なんですよ?そんなことをすればあなた方もただでは済まないのでは?」

 ローラン様もそう言って下さったが…

 「だからこそといわれておりました。さあ、こちらに」

 ルヴィアナは仕方なく近衛兵について行く。

 手を拘束されたりはしなかったが、ふたりの近衛兵がルヴィアナを囲うようにしっかりと前と後ろについて行く。


 そしてルヴィアナは公安府の中にある牢に入れられた。

 「これは何かの間違いです。私は何もしていません。出して下さい。それに両親にも連絡を…」

 ルヴィアナは何度も何かの間違いだと言ったが、それっきり人は来る気配もなかった。


 ”こんなの何かの間違いよ。私は何も悪いことなどしていません。

 明日ディミトリー殿下が帰って来られれば、すぐにこんな所から出してもらえますわ。”

 憤慨して憤りが収まらなかったが、今はどうしようも出来ず疲れ切ったルヴィアナはとうとう質素な寝台に身体を横たえた。







 






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